ピッツィカート
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ピッツィカート(pizzicato)とはヴァイオリン属などの本来は弓でひく弦楽器(擦弦楽器)の弦を指ではじくことによって音を出す演奏技法である。外国語の語感が浸透していなかった古い時代の日本において、日本人の語感に合ったカタカナ表記ではピチカートとも称されたが、より元の言語の発音に近い表記にした場合は「ピッツィカート」となり、現在はより発音に近い後者も使われている。
歴史的に初めてピッツィカートを求めたのはバロック時代のオペラ作曲家・モンテヴェルディだと言われている。しかし当時の演奏者は「ヴァイオリンは弓で弾く楽器として高度に発展しているのに、なぜ野蛮な民俗楽器のような撥弦奏法をしなければいけないのか」と猛反発したという。同様に彼が開発したトレモロ奏法も酷評だったという。どちらも今ではヴァイオリン属の弦楽器の基本的な奏法の一つとして欠かせない。
いわゆるクラシックで使われる楽譜ではピッツィカートで演奏を始める箇所に「pizz.」と書かれる。その後で弓による通常の演奏に戻る場合には、その箇所にarco(アルコ=弓)と書く必要があるが、前後関係や他の楽器との関係でピッツィカートが一音のみであることが明白な場合はその一音に「pizz.」と書かれるだけの場合もある。
コントラバスにおいてはポップスやジャズなどでも多用され、特にジャズで曲全体を通して用いられる場合はピッツィカートの指示そのものが略されることも多い。
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[編集] 左手のピッツィカート
ヴァイオリンの場合、ピッツィカートは弓を持つ右手で弦をはじくことが普通である。
しかし、イタリアのヴァイオリニストであり作曲家のパガニーニは本来は弦を押さえる左手で弦をはじくという「左手のピッツィカート」を導入した。これにより左手のピッツィカートを伴奏に右手で弓で弾くという高度なヴァイオリンの奏法が誕生した。右手のピッツィカートよりも固めの音色である。素早い速さで連続して左手ピッツィカートをしながら滝のように下降するアルペッジョ・ディ・ピッツィカーティと呼ばれる奏法もある。隣接した指ではじくことにより音高は開放弦に限らず自由に得られるが、連続した素早い上行はほぼ不可能である。楽譜上の左手のピッツィカートの記譜はまず「pizz.」を書いた上で音符の上に+印をつける。
[編集] バルトーク・ピッツィカート
バルトークが好んで書いた奏法の俗称で、弾く際に弦を指板と垂直に強く引っ張って離して弦を指板にぶつけることである。硬質なアタックを伴う「バチン」という音になる。この指示のために専用の記号(日本の地図記号で果樹園を示すものに酷似)を発明してよく使ったため、以後、他の作曲家によってもこの指示が用いられるようになった。音符の直上または直下にその記号が書かれることが多いが、稀に「bartok pizz.」と書かれることもある。
コントラバスにおいてはスラップ奏法と混同されることもあるが厳密には同じではない。ただし、音響的な効果としては似ているため代用されることもある。
[編集] 撥弦楽器のピッツィカート
撥弦楽器は、普段よりヴァイオリン属のピッツィカートに相当する奏法をする楽器である。しかし楽器によっては、ピッツィカート的な音が出る特殊奏法をピッツィカートと呼ぶ。
[編集] 箏
日本の箏において、大正時代以後の新日本音楽ではピッツィカートと呼ばれる奏法を用いることがある(稀に訛って「ピヂカット」と呼ぶ記述もある)。通常では箏は右手の親指・人差し指・中指に義爪をつけて演奏するが、義爪を嵌めていない薬指(稀に小指)や左手で弦を弾くことを指す。これによりやわらかい音色が得られる。
[編集] ギター、ハープ
ギターやハープでは、(右手で弦をはじくとして)左手の指や右手の手のひらで弦に軽く触れた状態で弦をはじくことで、余韻のない音が出る。これをピッツィカートと呼ぶ。
[編集] 関連項目
- フィンガー・ピッキング
- ピツィカート・ポルカ(全曲がピッツィカートで演奏される曲)