ビタミンA
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ビタミンA | |
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IUPAC名 | (2E,4E,6E,8E)-3,7-ジメチル- 9-(2,6,6-トリメチルシクロヘキセ-1-イル)ノナ- 2,4,6,8-テトラエン-1-オール |
別名 | レチノール、ビタミンA1 |
分子式 | C20H30O |
分子量 | 286.456 g/mol |
CAS登録番号 | [68-26-8] |
融点 | 61–63 °C |
沸点 | 120–125 °C |
ビタミンA(Vitamin A) とは、レチノール (Retinol、ビタミンAアルコールとも呼ばれる)、レチナール (Retinal、ビタミンAアルデヒドとも) 、レチノイン酸 (Retinoic Acid、ビタミンA酸とも)(これらをビタミンA1と呼ぶ) およびこれらの3-デヒドロ体(ビタミンA2と呼ぶ)と、その誘導体の総称で、ビタミンの中の脂溶性ビタミンに分類される。化学的にはレチノイドと呼ばれる。狭義にはレチノールのみを指してビタミンAと呼ぶこともある。ビタミンAは動物にのみに見られる。なお、β-カロテンなど、動物体内においてビタミンAに変換されるものを総称してプロビタミンAと呼ぶ。プロビタミンAは動植物ともに見られる。
目次 |
[編集] 生理活性
ヒト血液中のビタミンAはほとんどがレチノールである。血中濃度は通常0.5μg/ml程度で、0.3μg/mlを切るとビタミンA欠乏症状を呈する。
β-カロテンが体内で、小腸の吸収上皮細胞(あるいは肝臓、腎臓)において分解されてビタミン A になる。レチノイドの名前が網膜 (retina) に由来するように、網膜細胞の保護に用いられ、欠乏すると夜盲症などの症状を生じる。また、DNAの遺伝子情報の制御にも用いられる。
人体においては、眼球の網膜上にある視細胞のうち、薄明視に重要な桿状体細胞において、桿体オプシン(蛋白質)とリシン残基を介して結合し、ロドプシンとなる。ビタミンAはロドプシンの発色団となる。ロドプシンは視色素と呼ばれる一群の物質の一つで、視細胞における、光による興奮(視興奮)の引き金機構として重要な物質である。
レチノイン酸は、ムコ多糖の生合成を促進して、細胞膜の抵抗性を増強するといわれている。
[編集] 構造
右端の-CH2OH(アルコール形)の部分が、-CHO ならばレチナール(アルデヒド形)、-COOH ならばレチノイン酸(カルボン酸形)である。左側にある環構造の左下の結合が二重結合になったものが3-デヒドロレチノールである。
[編集] 物性(レチノール)
- 分子量 286.46
- 紫外線吸収極大 325 nm
- 蛍光波長 励起325 nm 蛍光470 nm
- 水に不溶。
- 酸化を受けやすい。
- 乾燥、高温で壊れる。
- アルカリ条件下では比較的安定
- ビタミンEなどの抗酸化剤共存下では安定度を増す。
[編集] 一日の所要量
単位としては、国際単位(IU)を用いる。ビタミンAの国際単位はレチノール0.33 μg/mlを 1IU とする。β-カロテンの場合、生体内におけるレチノールへの変換の際の収率が質量比で 1/2 であり、また、消化吸収率がレチノールの 1/3 になるため、β-カロテン6 μgがレチノール1μgに相当する。なお、レチノール当量(RE)という表記もあり、この場合、1 IU = 0.33 μgREとなる。
- 0~1歳: 1,000 ~ 1,300 IU
- 1~5歳: 1,000 ~ 1,500 IU
- 6~8歳: 1,200 IU
- 9~14歳: 1,500 IU
- 成人男子: 2,000 IU
- 成人女子: 1,800 IU
- 授乳婦: 3,200 IU
- 許容上限摂取量: 成人で5,000 IU
100,000 IU 以上の摂取では過剰障害を起こすことがある。
なお、New England Journal of Medicine 誌(1995年11月23日発行)の報告では、妊娠前後でビタミンA所要量は増加せず、非妊娠時でも妊娠期でも、成人女性の所要量は1,800 IU とされる。そのため、他の栄養素と異なりビタミンAの所要量は増加しないので、妊婦では過剰摂取に特に留意が必要だ、という見解もある。
[編集] 多く含む食品
いずれも表記は100 gあたり。
- 肝油
- バター 有塩バターで1,600 IU
- 牛乳 120 IU
- チーズ プロセスチーズで850 IU
- 卵 鶏卵で460 IU
- 強化マーガリン ソフトタイプのJIS上級マーガリンで5,500 IU
- 緑黄色野菜 例として、ほうれん草生葉で、2,100 IU
- レバー 豚レバーで39,000 IU
- ウナギ 蒲焼で4,500 IU
日本人におけるビタミンAの供給源の構成は、緑黄色野菜50%、肉類15%、魚介・乳類10%、卵類10%。
[編集] 摂取時の注意
ビタミンAを簡単にとるには、ビタミンA前駆体のβ-カロテンを多く含む緑黄色野菜、例えばニンジン、ピーマン、ホウレンソウ、コマツナ、カボチャなどをとるとよい。
ビタミンAは高温において酸化・分解を受けやすく、また、油脂に溶ける性質がある。「油を利用して調理したほうが摂取の効率がよいので、短時間で調理でき、たくさん野菜がとれるバター炒めは良い調理法」と広く知れ渡っている。
にんじんなどに関しては「植物が含むビタミンA前駆体のβ-カロテンは、油を使わずに単純に茹でた場合でも細胞中にもともとある脂質分と混ざり合って摂取効率をある程度高めることができる」との説もある(NHK「ためしてガッテン」2005年3月9日放送「にんじん!健康神話の大誤解」参照)。なお、一部の教育現場ではビタミンAの不足を防ぐために、緑黄色野菜の摂取を奨励しているが、実際には動物性食品である鶏卵、牛乳、レバーなどにも多く含まれている。
現在日本では、通常の食生活を送る限り不足になることはあまりないが、授乳婦においては所要量が大幅に増える。また、通常の食事で過剰になることも少ないが、外洋魚の肝臓による過剰摂取に注意すること。過剰摂取によるビタミンA過剰症(軽度であれば下痢などの食中毒様症状、重篤であれば倦怠感・皮膚障害など)がある。後述の医薬品を服用するなどで大量のビタミンAが体内に蓄積された場合、さらに催奇形性(奇形児が生まれる)のリスクが非常に高くなる。食品安全委員会のファクトシート「ビタミンAの過剰摂取による影響」が詳しい [1]。なお、β-カロチンには過剰摂取による障害がない。
[編集] 医薬品での注意事項
ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
医療用医薬品でビタミンA製剤の「チョコラA」は1回の服用だけで最低2,000IU以上のビタミンAを摂取した事になる。ビタミンA誘導体が主成分で乾癬治療薬の「チガゾン」や急性前骨髄球性白血病治療薬の「ベサノイド」はそれ以上のビタミンA類似成分を摂取する事となる。特にチガゾンに関しては、催奇形性を防ぐ為、対象患者は男女とも一定期間性交しない事を前提に同意書に署名をして初めて処方される。
また、ベサノイドの副作用としてレチノイン酸症候群というより重篤な過剰症があり、これは最悪の場合多臓器不全を起こすものであり、原則入院の上、処方される。 乾癬の治療や白血病の治療ではビタミンAのもつ細胞分化作用を用いているがビタミンAにはそれとは別に抗酸化作用があると言われている。悪玉コレステロール(LDL)が酸化され動脈硬化が進展するというLDL酸化説という仮説があり、抗酸化作用を持つビタミンAを摂取すれば動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞など動脈硬化性の病気を防ぐことができるのでは言われていたことがある。残念ながら現在のところビタミンAの摂取で心筋梗塞が予防できるという疫学的なデータは存在しない。同様の抗酸化作用を持つといわれるビタミンEやポリフェノールに関しても動脈硬化予防作用があるかどうかは疑わしい。
[編集] 疫学研究
1862人の喫煙家に対して、αトコフェロールを毎日50mgとβカロチンを毎日20mgか、その両方か、偽薬を与え、5.3年追跡したところ、αトコフェロールやβカロチンを摂取した方が死亡率が上昇していた。 [1]。
北米とヨーロッパから7つの研究約40万人をもとにした報告では、5種類のカロチノイドの摂取は肺がんのリスクを減らしていた [2]。
[編集] 欠乏症
- 夜盲症
- 乾燥眼炎
- 感染に対する抵抗力の低下
- 成長不良
- 骨・歯の発育不良と変形
- 皮膚や粘膜の角質化
- 皮膚の異常乾燥、色素沈着。
- 性腺の変性退行
[編集] 過剰障害・食中毒
[編集] 過剰障害
- 脳圧亢進
- 激しい頭痛(おもに後頭部)
- 脱毛
- 骨・四肢の痛み
- 不安、易刺激性(不機嫌)
- 吐き気や嘔吐
- 肝機能障害
- 疲労感
- 奇形の発生
- 食欲不振
- 発疹
- 下痢
- 睡眠障害
- 皮膚の荒れ、かゆみ、色素沈着
- めまい
- 鼻血
[編集] 食中毒症状
イシナギ、サメ、マグロ類などの南方魚や鯨、シロクマの肝臓を食べ過ぎると食中毒として起きる。
中毒症状は食べた後30分~12時間であるが、ほとんどは短時間でおきる。
- まず、激しい頭痛がある。嘔吐や発熱を呈すこともある。これは早く回復する。
- 次に、1~6日後に顔面の皮膚が、はがれ落ち、手足、全身に広がる。
- 1ヶ月くらいで全身の皮膚がはがれる。
[編集] 生化学
β-カロテンは小腸に存在するβ-カロテン-15,15'-ジオキシゲナーゼ(EC 1.14.99.36(EC.1.13.11.21))の作用によりレチナールに変換される。
β-カロテン + O2 -> 2 レチナール
生体内において、レチナールはレチノールデヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.105)の作用により多くはレチノールに還元された状態で存在している(可逆反応)。また、レチナールオキシダーゼ(EC.1.2.3.11)によりレチノイン酸へと代謝(不可逆な反応)される。
レチナール + NAD+ -> レチノール + NADH + H+
レチナール + O2 + H2O -> レチノイン酸 + H2O2
レチノールは、肝臓中にパルミチン酸エステルの形で貯蔵され、必要に応じて遊離する。遊離したレチノールはレチノール結合蛋白質(RBP)と結合し、さらにトランスサイレチン(プレアルブミン・TTR)と複合体を形成して血液中を流通する。なお、生理作用の発現においては、レチノールよりもその代謝産物であるレチナールあるいはレチノイン酸が重要であるといわれている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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脂溶性 | ビタミンA - ビタミンD - ビタミンE - ビタミンK |
水溶性 | ビタミンB群 (B1 - B2 - B3 - B5 - B6 - B7 - B9 - B12) - ビタミンC |