ドアコック
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ドアコックは、鉄道やバス車両などの自動ドアを手動で開けるために装備されている機器。
「非常ドアコック」、「Dコック」とも呼ばれている。
目次 |
[編集] 概要
鉄道・バス車両において、自動ドアを装備する車両には必ず設置されている。
自動ドアの開閉には空気圧を使用している。通常の状態では人力で押し開けることは困難であるが、この開閉用の機器(ドアエンジン)の空気を抜くことで、人力でドアの開閉が可能になるものである。緊急時には、乗客は列車内に閉じ込められたときに非常用ドアコックを操作することによってドアを手で開け、車外へ脱出することができる。
[編集] 設置場所
[編集] 鉄道車両
各車両の乗降用扉の脇や上部に設置されている。また、車端部や乗務員室には、当該車両の全ての扉に対して有効なドアコックが装備されている。
また、車外にも非常用ドアコックが設置されており、設置場所には三角マークが記されている。
緊急用の設備であるため、非常時以外に使用すると鉄道営業法(新幹線の場合は新幹線特例法)により罰せられる[1]。 尚、過去にも乗客が列車走行中に非常用ドアコックを操作し、列車から飛び降りたり、列車を止めて逮捕されるケースも発生している。 最近は、JR東海道・山陽新幹線では列車が時速5km/h以上で走行しているときは非常用ドアコックをロックし、操作できないようにしている。また、N700系車両では車内出入口付近を防犯カメラで監視している。
鉄道車両難燃化基準においてはドアコックについても言及されており、旅客が操作するものについては操作要領およびむやみに車外に出ないよう表記することが定められている。乗務員が操作するものには操作要領表記の義務はない。ただし、架空線式(パンタグラフ集電)以外の車両・地下鉄車両にはこの表示をしてはならないことになっている。 万一車外へ降りた場合、第三軌条等の送電部に触れ感電事故に至る危険があるためである。 このため避難出口確保のため地下鉄車両及び相互乗り入れ車両は必ず前面貫通扉が備えられている。
[編集] 歴史
1951年(昭和26年)4月24日に起きた桜木町国電火災事故で、桜木町駅の駅員がドアコックの位置を知らなかったため、扉を外部から手で開けることもできず、大惨事となる一因を作ってしまった。
その後、一般の乗客が非常時にドアを開けられるようにした「非常用ドアコック」が広く導入される運びとなったのだが、このドアコックを導入したことによる弊害も大きかった。
1962年(昭和37年)5月3日に常磐線三河島駅構内で起きた三河島事故が、その大きな例である。最初に貨物列車と電車が衝突した後、多くの電車の乗客が先述の桜木町事故の教訓を生かして整備されたドアコックを使って列車外に避難した。その後上野行きの電車が構内に進入し、線路上に降りていた乗客を巻き込んだ事により多くの死者を出した。この二つの事故は国鉄戦後五大事故として現在まで語り継がれている。
[編集] 鉄道における特殊な利用法
駅において列車の全てのドアを開けないドアカットを実施している場合に、その車両に開けるドアを選択する装置が設置されていないときは、係員がドアコックを操作して手動でドアを開けるということが行われることがある。
例えば、箱根登山鉄道の風祭駅ではホームが短いため、またホームライナーでは改札係を配置し乗降を取り扱うドアを限定するがドア扱いする車両を選択できない車両を使用するため、上記操作を行う。また吉岡海底駅・竜飛海底駅では、青函トンネルの海底駅見学客しか乗降が許されないため、かつては見学者専用の車両のみ非常用ドアコックを使用してドアの開閉を行っていた。
[編集] バス車両
鉄道車両と同様に、事故の際に脱出するために使用する。非常口は後方右側についていることが多く(2階建てバス等は後面についている方が多い)、ドアコックも非常口の位置にある。
また、車外からドア開閉ができるようになっているスイッチがあるが、これをドアコックと呼ぶこともある。主に乗務員が車両を離れる際に使用する。ドアエンジン付近の車体外装に鍵付きの小扉(乗用車の給油口扉に似る)があり、その中に設置されている。
幼稚園バスを含め定員10名以上のバスは外部より非常口、バックドア、乗降口のいずれかを外部より開錠し開けることが出来る構造としなければならない (殆どが破壊式カバーと赤レバーとなっている)
[編集] 参照
- ^ 鉄道営業法第33条「旅客左ノ所為ヲ為シタルトキハ三十円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス」、同2号「列車運転中車両ノ側面ニ在ル車扉ヲ開キタルトキ」(電子電子政府の総合窓口・法令データ提供システム「鉄道営業法」)。なお、上記罰金額は罰金等臨時措置法2条により最高2万円となる(同・「罰金等臨時措置法」)。