チェーンメール
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チェーンメール(英:chain mail, chain letter)は、連鎖的に(チェーン)不特定多数への配布をするように求める手紙である。かつて「不幸の手紙」や「幸福の手紙」と呼ばれたものが典型的な例である。チェーンレター、チェンメとも。掲示板などにもそういった「チェーン書き込み」「チェーンカキコ」と呼ばれるものが存在する。
その後電子メールや携帯電話が一般的になったことによって、広まる速さが加速した。
歴史的に見ても不特定多数への配布が特徴的なこの種の書簡は、北魏興安3年の「大慈如来十月二十四日」文書や中世ヨーロッパの「天使の手紙」(独語:Himmelsbrief)などが存在し、チェーンメールという手段が古来より、ある種の意図を不特定多数の他人に流布させる手段であったことを示している。
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[編集] 特徴
チェーンメールは、メールの最後に「このメールをn(n>1)人の人に送ってください」といった内容のことが書かれているのが特徴である。そして「止めると殺される」などの脅し文句が入っていることも多いが、その逆に「~のために広めてください」と積極的な流布が社会に貢献するかのような文句がつけられていることもある。
内容としては「○○が殺されたので犯人を探している」「こんなコンピュータウイルスが出回っています」などの場合がほとんどであるが、「芸能人が○○に現れる」「お金持ちになる方法を教えます」というものも出回っている。
チェーンメールは人の手をわたる間に内容が変化する。単なる書き間違いである場合が多いが、より多くの人を引っ掛けるために説得力のある文に書き換えられるということもある。
本当のメールとチェーンメールの見分け方は語尾の「何人の人に送ってください」という文章である。書かれた内容は参考になることは少なく、信用できる友人から送られてくることが多いため注意が必要である。
インターネットなどのコンピュータネットワーク上では、スパムの一種とされ、ネットワークへ高い負荷(トラフィック)を与える原因となる。以下の例を参照。
[編集] ねずみ算式の拡散
広がり方は連鎖販売取引(マルチ商法)の仕組みと全く同じである。以下の条件で計算する。
- 発信源は1人
- 5人に送るという指令
- 受け取った人が必ず5人に送り、発信源も5人に送る
- 一人が受け取ってから転送するまでに1時間かかる(実際は数分程度と思われる)
- 範囲は日本国内
- 日本人全員が必ず一つの通信手段を持つ
- 同じ人が二度以上受け取ることはない(ただし最後の1時間は同じ人が二度以上受け取ることもあるとする)
この場合、最初の一人が送り始めてから11時間で日本人全員に広まることになる。(11時間目には2億4414万0626人(うち一人は発信者)に広まる計算となり日本の人口を超える。)
[編集] 代表的なチェーンメール
チェーンメールの代表作としては「Good Times」「橘あゆみ」などが挙げられる。
また「世界がもし100人の村だったら」や「時間銀行」などは稀に見る感動的な作品となっていると言われるが、チェーンメールであることには変わりない。
最近は「ミュージックバトン」に端を発する「ブログやホームページで回答する楽しげな質問集」が出回っている。これらも最終的に「○名の人に回して下さい」となっているためチェーンである。よって、回された相手に対する心理的負荷があることは憂慮される(ただし、メールではないためにネットワークに対する負荷は少なく、質問集であるために個人的情報が多く嘘やデマは少ないため、チェーンメールとは別扱いされる)。
[編集] チェーンメールが招いた悪影響
チェーンメールは、特にインターネットなどのコンピュータネットワーク上では、スパムの一種とされ、ネットワークに高い負荷(トラフィック)を与える原因となる。また、最近ではチェーンメールをきっかけに周囲が大きく振り回されるという悪影響が発生することもある。以下にその例を示す。
- 佐賀銀行取り付け騒ぎ
- 2003年12月に「佐賀銀行が経営不振」というチェーンメールが出回り、取り付け騒ぎが発生した。佐賀県警察は2004年2月にこのメールを送信した張本人を割り出し、信用棄損容疑で送検した。
- 子犬100匹殺処分騒ぎ
- 2003年2月に「京都市内で(ペットショップが倒産し)ミニチュアダックスフントの子犬100匹が飼い主が見つからなければ殺処分される」というチェーンメールが出回り、市民やメールを見た人たちがその身を案じて引き取り手を捜したり、役所や地元新聞社などへの問い合わせが殺到するなどして混乱に陥った。
- アフガン攻撃反対騒動
- 2001年9月に米国同時多発テロ事件が発生したが、その直後に「アフガン攻撃反対」の署名集めを目的とするチェーンメールが蔓延し、その結果国連情報センターのメールサーバに深刻な障害が発生した。
- 新潟・小千谷市の更なる混乱
- 2004年10月に新潟県中越地震が発生、現地での不自由な生活が連日報道される中、『大人用紙おむつ…などを必要としている』旨のチェーンメールが出回り、「援助物資」として届けられるも過剰在庫となり、かえって混乱が発生する。
- テレビ番組企画詐称が相次ぐ
- 1999年ごろから「ザ!鉄腕!DASH!!(日本テレビ)」の企画と詐称したチェーンメールが相次ぐ。他にも「学校へ行こう!(TBS)」「トリビアの泉(フジテレビ)」「24時間テレビ(日本テレビ)」などの企画と詐称するチェーンメールが事あるごとに出回り、各放送局が「無関係である。悪質な悪戯なので反応しないように」と告知している。
この場合多くが「メールがどこまでつながるか※(鉄腕などは○チームと△チームが競争中、トリビアでは種の実験中)で沖縄県の□□島(××町)の☆☆☆☆さんが回しはじめ、ここまできました。」という内容。
- 輸血騒動
- 「珍しい血液型の患者が手術を受けることになり、同じ血液型の人間を探している」というもので、不定期に見られるチェーンメールである。大半は虚偽の病院名が書かれているなど実体がない物だが、2000年5月に流されたメールには実在の病院名が書かれていたため問い合わせが殺到し、業務が滞る事態となった[1]。また、2003年4月、2008年2月にも同様のチェーンメールが出回り、チェーンメールに記述があった昭和大学病院や日本赤十字社に問い合わせの電話が殺到し、それぞれのホームページで単なるチェーンメールである旨のお知らせを載せるまでの騒動となった[2]。
- テディベアウィルス
- jdbgmgr.exe(アイコンがテディベア)はウィルスだから削除しろ、このexeファイルがあれば感染しているから、アドレスブックに記載されている人全てにこのメールを転送するように…などと呼びかける。実際にはこのexeファイルはJavaをデバッグする為の正規のシステムプログラムであったが、信じて削除してしまう人が続出し、情報処理振興事業協会は注意を呼びかけた。[3]
[編集] インターネットにおけるバトン
インターネットのブログなどにおいて、幾つかの質問に答え、それをブログを見ているであろう人に回すというもの。回された人が実行するかどうかは選択の自由であるが、やる場合は、回した人と同じ質問に答え、誰かに回すというのが基本。
元は2004年頃に海外のブログで始まったMusical Baton(ミュージカル・バトン)が起源。オリジナルの質問は5つの質問にブログ上で回答し回す相手を5人指名するというものであったが、様々なものが派生して質問数が5つではなかったりブログ上という制限がなかったり回す人数が5人でなかったりするものも出てきている。
mixiなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)では自分の日記を訪問したユーザーの記録が残る「足あと」と呼ばれる機能を悪用し、バトンに回答した記事を見た人に強制的にバトンを回そうとする「強制バトン」「地雷バトン」と呼ばれるものが流行しており、これを嫌う人も少なくない。このような「強制バトン」の一部はブログでも行われている。
- 日本人写真家ロス行方不明事件
- 「mixiユーザーの日本人写真家が、ロサンゼルスで行方不明になっている。本人のmixiに、家族がアクセスしている。情報を持っている人は提供してほしい。また、この呼びかけをコピー&ペーストして広めてほしい」。投稿には写真家のmixiのURLが書かれ、一部には、写真家の家族の携帯電話番号も掲載されていた。
- 呼びかけを見たmixiユーザーは、内容をコピー&ペーストして日記に貼り付けたり、自分が所属するコミュニティーにトピックとして掲載、個人ブログにも転載するなどして、情報が急速に広まっていった。
- この結果、写真家の日記のコメント欄は応援メッセージで満杯になり、新たな情報提供ができない状態に。混乱を収拾するためか、mixiユーザー全体に公開されていた日記は「友人のみに公開」に制限された。携帯電話番号も広まってしまったため「関係ない人から家族に電話が殺到し、困っている」と、家族と連絡を取ったというmixiユーザーは伝えている。
スパムメールやチェーンメールと同等の扱いをされる場合もあるが、元のミュージカルバトンなどは比較的悪質性が低いものである。
[編集] 対策
対策は、「受取った人が次の人に転送しないこと」に尽きる。 1995年10月のRFC 1855 "Netiquette Guidelines(ネチケットガイドライン)" でも、送らないようにと呼びかけられている。
しかし、転送すべきでないと知っていながら「転送しないと悪いことが起きるのではないか」「転送しないとせっかくの善意が無下になるのでは」と迷った末に転送してしまう人も少なくない。転送しないと不安な人のために、日本データ通信協会では「携帯用チェーンメールの転送先」を用意し、ここへ転送するよう呼びかけている。[4]
[編集] 不幸の手紙
不幸の手紙とは、「この手紙と同じ文章で、あなたの友人3人に出さないと不幸になります」というスタイルで送られてくる、悪意のある手紙のことである。大抵は差出人不明である。コンピューター上でのチェーンメールと異なり、自動的に送られる訳ではなく、手紙を書く作業が必要なため、大抵は連鎖せずに終わる事が多い。
フィクションにおいては、『ドラえもん』のコミックス15巻「不幸の手紙同好会」でスネ夫が不幸の手紙をのび太に送り、「十日以内に必ず29人の人に出せ」という話がある。ちびまる子ちゃんでも、藤木が不幸の手紙を受け取り、出したのに級友に出したことがばれて軽蔑され不幸になったという話もある。
不幸の手紙が書き写される過程で「不幸」が「棒」になってしまい、「棒の手紙」が広まってしまった例がある。棒の手紙を題材とした作品としては、折原一の『チェーンレター』や妖魔夜行シリーズの『悪意の連鎖』などがある。
[編集] 脚注
- ^ なぜ善意の電子メールは暴走したのか
- ^ asahi.com:「3才の子助けて」チェーンメール、日赤にも電話殺到
- ^ 「jdbgmgr.exe」に関するデマメール情報
- ^ 【P5 転送先】|撃退!チェーンメール|迷惑メール相談センター|
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- チェンメ屋 日本最大級のチェーンメール収集サイト。
- 携帯用チェーンメールの転送先((財)日本データ通信協会迷惑メール相談センター)
- これが棒の手紙だ!! 不幸の手紙の変種「棒の手紙」の解析。作家山本弘のサイト内。