クロスボウ
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クロスボウ(英:Crossbow)は西洋で用いられた、専用の矢を板ばねの力で、これに張られた弦に引っ掛けて発射する装置(武器)。引き金を持ち、狙いが定めやすい。日本での呼称は和製英語であるボウガンのほうがより一般的とされるが、これは日本の射撃競技用品メーカーである株式会社ボウガンが製造するクロスボウの商標名が広まったもの。機械弓と呼ばれることもある。十字弓と訳されたこともあった。ボウガンが登録商標であるため、ニュースなどではその日本語訳として洋弓銃という呼称が使われることもある。
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[編集] 概要
中国や日本といった漢字文化圏では弩(ど・おおゆみ、いしゆみ)と呼ばれる射出武器とほぼ同一の構造と機能を持つヨーロッパの武器で、ボルト(bolt)、クォレル(またはクォーラル;quarrel)などと呼ばれる通常より太く短い矢をつがえて発射する。木でできた台(弓床)の先端に交差するように弓が取り付けてある。
同じ系譜の武器である東洋の弩が歴史に姿を現したのはだいたい紀元前5世紀頃からといわれている。また、紀元前4世紀頃の古代ギリシアではガストラフェテス(gastraphetes)という腹と地面を使い体重をかけて固定して、背筋を使って弦を引く方式のクロスボウが存在した。西洋においてクロスボウが狩猟に用いられることもあったが、11世紀以降になってから戦争に使用されるようになった。諸説あるが、東洋から伝わった技術により大きく発展したとも考えられている。
それまで一般に使われていた弓は、他の武器にくらべ射程が長く強力ではあるものの、弓を引き絞って構える為の筋力と、その状態で狙いをつけて放つ為の技術・訓練が必要で、狩猟などで弓を使う習慣のない民族にとっては扱いづらいものだった。特に威力を増加させるためには大型化が避けられなかった。
これらの弱点を克服するために、台座に弓を取り付けることで固定し、あらかじめ弦を引いてセットしたものに矢を設置してなんらかの引き金(トリガー)を引くことで矢を発射できるようにしたものがクロスボウで、素人でも扱いやすく、また台座を固定して梃子を用いるなどして弦を引っかける時だけ力があればいいので、普通に手では引けないような強力な弓を搭載できる為にその威力や射程も高まった。
しかし、これらの射出武器は弓を発射できる状態にするまでに時間がかかるという弱点があり、その射出速度は速くとも1分に1, 2発であった。
その速度を上げるためにこの武器にはいろいろな改良がなされ、初期には、台尻の腹当てを腹にあてて体重を使いながら手で弦を引っ張ったり、先端に足をかける金具を取り付けたり、腰のベルトに滑車をかけて立ち上がると弦が引かれるようにしたり、ラッグという弦の掛け金を梃子のレバーで引く方式にしたり、後々にはウィンドラス(windlass)という後部に付ける大きな両手廻し式のハンドルを回して弦を巻き上げる方式や、クレインクライン(クレインクイン;cranequin)という下部や側部に付ける足掛け不要な片手廻し式ハンドルを回して歯車と歯竿で弦を引く(ラック・アンド・ピニオン)方式のクロスボウなども誕生したが、この弱点が克服されることはなかった。一部には弓の張力をやや落してハンドル操作で矢のセットと弦をつがえる操作を行えるリピーター・ボウも登場したが、こちらは威力が小さく構造が複雑で故障も多かったため、あまり普及せずに終わっている。
とは言え、安易に扱える武器な上に強力な威力は、騎士の装備する金属製の甲冑すら易々と貫通して致命傷を与えるため、これによる狙撃は一部で脅威となっている。ヨーロッパ中から信奉されていた高名なイングランドの騎士(獅子心王リチャード)が、農民出身者のクロスボウの射手に撃たれて死んでしまった伝承もみられる。その為、各地の騎士からこの武器に対して猛反発が続出し、非人道的としてローマ教皇庁から対キリスト教徒の戦闘での使用禁止令がだされるほどにもなった。
[編集] 狩猟用、スポーツ用のクロスボウ
扱いやすくするため、小型化、軽量化や使用の簡便化が図られている。大型で強力なクロスボウ(ヘビー・クロスボウ)に対して、ライト・クロスボウと呼ばれることもある。
またバリスタのように石や弾も発射可能な、ストーンボウやバレット・クロスボウなどと呼ばれるタイプのクロスボウも作られた。
[編集] クロスボウを使って行われる競技
アーチェリー同様、的の中心部を狙って矢を放つ競技形式が存在する。
[編集] 近代、現代の兵器としてのクロスボウ
クロスボウの原型となった弓が銃の登場で駆逐されていったのに対し、クロスボウはごく最近まで現用兵器として使われていた。 大規模且つ一般的な戦場での兵器としては、第一次大戦での使用が最も新しい。尤も、矢を発射するという本来の用法よりも、小型の爆発物を投擲する為に使われることのほうがずっと多かった。 これは矢よりも銃弾の方が射程・威力とも大きいこと、その一方で、第一次大戦に於いて、塹壕を介した対峙が頻発したことによる。互いに塹壕内にいる為に、銃撃は効果が薄く・手榴弾は届かない、という状況下で、クロスボウによる爆発物投擲は大きな効果があった。 また銃砲はハーグ陸戦条約により消音装備を使用しにくい環境が生まれたこと(その消音装備も、実際に高い効果をもつ製品が現れたのは'70年代になってから)に対し、クロスボウはその影響を受けなかった。 つまりはハーグ陸戦条約というスポーツマンシップが、クロスボウに現用兵器としての活躍の場を残したのだ。
第二次大戦以降、本格的な小型爆発物投擲兵器(グレネード・ランチャー。投擲用クロスボウよりもずっと小型軽量且つ連射性・遠射性が高く、小銃との併用も可能)が導入されたことにより、投擲兵器としてのクロスボウは戦場からほとんど姿を消した。 しかし消音兵器、無音武器というメリットから、特殊部隊やスパイによって1970年代に銃が高性能の消音装置を得るまで、特殊作戦等で、敵や敵の軍用犬の殺害に使われ続けた。
[編集] 種類
- ガストラフェテス(腹当て機) (Gastraphetes)
- アーバレスト (Arbalest) - 弓の弦に鉄を使った大型のクロスボウ。バリスタと同じ意味もしくはクロスボウと同じ意味で、アーバレストの名称が用いられる場合もある。
- バリスタ
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 市川定春と怪兵隊 『武勲の刃』 新紀元社、1989年。ISBN 4-915146-23-5。