オイレンシュピーゲル
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『オイレンシュピーゲル』は、角川スニーカー文庫から刊行されている冲方丁/著、白亜右月/イラスト(原案は島田フミカネ)のライトノベルである。
目次 |
[編集] ストーリー
- 西暦2016年の国連管理都市ミリオポリス(かつてのウィーン)では、
- 極度の少子高齢化と犯罪・テロの増加を背景に児童労働と身体障害児に対するサイボーグ化が認められていた。
- 『オイレンシュピーゲル』は、警察組織MPBの飼い犬となり、
- 機械の手足を得て街を縦横無尽に駆けめぐる「黒犬」「紅犬」「白犬」と呼ばれる三人の少女の物語である。
[編集] 概要
富士見ファンタジア文庫から同時発売された『スプライトシュピーゲル』シリーズと世界設定やキャラクター等がリンクしている (さらに弐・肆巻では同一の事件がそれぞれのシリーズの視点から展開される)が、 姉妹作である『スプライト』に比べ、戦闘シ-ンや主役三人の過去における残酷な描写が目立つ。
また掲載誌のザ・スニーカーで読者からアイディア募集を行い(衣裳など)、実際に作中に登場させている。
『マルドゥック・ヴェロシティ』でも使用された「/」「=」「+」などの記号やルビを多用した特徴的な文体が、疾走感やキャラクターの属性を強調した独特の文章を作り上げている。
サイバーパンク的な架空の近未来が舞台ではあるが、911等の事件や国際問題、差別・貧困・テロリズムなどの現実の社会情勢を豊富に盛り込むことで、現在の世界の先にありえるかもしれない未来社会として描写している。
『エースアサルト』2007winter号より漫画連載開始。作画は曽我部修司。
(Eulenspiegel=ドイツ語で「フクロウと鏡(どちらも知性の象徴)」。ドイツの伝説的ないたずら者ティル・オイレンシュピーゲルから。作中では「死に至る悪ふざけ」のルビが振られている)
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
[編集] 用語
- 特甲児童
- 機械化を受けた児童の中でも、<特殊転送式強襲機甲義肢>=通称<特甲>を国から支給され、治安維持に当たる少年少女のこと。
- (<特甲>は国のマスターサーバーから<転送>を受けなければ使用できないが、破損した<特甲>は再度の<転送>を受ければ一瞬で無傷状態に復帰できる。また特甲には痛覚がない)
- 男子は軍属となることが多く、主に女子が都市治安を担っている。本来のコンセプトはプリンチップ社発案の人間兵器。
- 児童福祉局
- 通称<子供工場>。身寄りのない身体障害児に機械化と操縦訓練を施し、労働児童として育成する機関。
- 貧窮した親が特に障害のない子供を向かいのビルから突き落とす事件が後を絶たない。
- 文化委託
- 戦争や災害で保全困難となった国の文化を他国が維持し、その報奨として莫大な保全予算が国連から下りる政策。金閣寺やマチュ・ピチュやアンコール・ワット等がミリオポリス内に文化保全されている。
- またこの一つに、ランダムに決定される日本の漢字名(キャラクターネーム)を名乗れば毎月の保全金+社会保障が支払われる制度がある。漢字名は25歳(準成人時)にミドルネーム、35歳(成人時)にセカンドネームとなる。
[編集] 登場人物
[編集] <猋(ケルベルス)>
- MPB遊撃小隊の一つ。14歳の特甲少女三人から構成。
- 主な任務は犯罪者の制圧確保及びド派手な衣裳によるMPBの広報キャンペーン。
- 涼月(スズツキ)・ディードリッヒ・シュルツ
- <猋>の小隊長・突撃手(スターマン)。コードネーム「黒犬(シュヴァルツ)」。通称「対甲鉄拳(パンツァーファウスト)の涼月」。黒髪短髪・黒眼・貧乳。
- 超振動型雷撃器内蔵の両手足で肉弾戦を挑むボクサー。
- 短気。目立つ敵にはすぐにつっかかる。無類の一騎打ち好き。
- 父親はトルコ系移民、母親はオーストリア貴族。先天性の末端神経障害のため物を掴むことも歩くこともできずにいたが、娘の障害を認めなかった両親が医師に見せなかったため病状が悪化。逃げ出して病院まで這っていき、機械化児童となる。機械化後もトラウマから自ら手を開くことができなかったが、<子供工場>で出会った夕霧により心を開く。
- 「幸福な家庭」を心の底で渇望しており、自分が得られなかった「幸福な家庭」に育った人間に、激しい嫉妬と劣等感を抱えている。
- 14歳にしてヘビースモーカー。銘柄はショートホープ(=『はかない希望』)。
- 『A.S.A.P(=As Soon As Possible:可能な限りさっさとやれ)』の刻印入りジッポーを愛用。
- 特甲児童としての労働期間を短縮するためにこっそり勉強している(得意科目は語学)。実は整理魔。乱視が入っており非番時は眼鏡っ子。
- 陽炎(カゲロウ)・ザビーネ・クルツリンガー
- <猋>の狙撃手(スナイパー)。コードネーム「紅犬(ロッター)」。通称「魔弾の射手(フライシュッツ)の陽炎」。赤髪・灰眼・発達した超モデル体型。
- 右腕と一体化した巨大な超伝導式ライフルと各種探査能力による精密射撃を行う。
- 『S∽I』(=「彼女(Sie)」と「私(Ich)」は相似である)マークのケースレス弾を使用。
- 冷静沈着なニヒリストの「私」の中に直情的で奔放な「彼女」という別人格(心の声?)を持つ。
- 幼少時から自分のことを「彼女」と呼ぶ癖があった。8歳の時狩猟中の父親に過失で撃たれ四肢麻痺となる。奴隷のように尽くす父と二人きりで暮らすうちに近親相姦に陥り、また目前で父の自殺を見届けたことで激しいショックを受け解離症状を呈する。<子供工場>で覚えた『S∽I』をキーワードに自我の統一を図っている。ここで出会った夕霧を追って警察入隊。
- 「父様」の面影のある男を誘惑し、父と同じような破滅に追い込みたいという強迫観念がある。
- ”克服あれ”と囁く声(父所属のライフル友愛会の標語)が心の奥の六千万光年ほどの彼方から聞こえるらしい。
- 情報マニアで解説役。ガムを正確な八拍子で噛む。片付け下手で自室はカオス。おっさん趣味。乙女化進行中(対ミハエル中隊長限定)。
- 夕霧(ユウギリ)・クニグンデ・モレンツ
- <猋>の遊撃手(ショート)。コードネーム「白犬(ヴァイス)」。通称「悪ふざけ(オイレンシュピーゲル)の夕霧」。金髪・碧眼・ユダヤ系。
- 腰の特大パイルバンカーと両手指から放射する幅2ミクロンのワイヤー10本で相手を切断する、歌って踊れる殺人ミキサー。
- 天真爛漫を通り越した重度の天然ボケ電波娘。
- 歌とダンスと平和が大好き。「銀行強盗シンフォニー」「テロリストソング」等、不謹慎な歌を全チャンネル無線で歌っては通信班にフィルターを掛けられている。
- 母親と二人で極貧ながら幸せに暮らしていたが、麻薬取引の金を掠め取り追われた母が娘を逃がすため、孤児の機械化児童として市の所有物とする道を選択。夕霧を児童福祉局前のビルから転落させる。収容された<子供工場>で涼月・陽炎と出会う。手足の操縦訓練では抜群の成績をたたき出し、専門職コースから警察に入隊。
- 今でも母にもらった電池切れの携帯電話で「ママと話ができる」と信じている。
- ミュージカル調空想癖あり。三人娘の一番人気でマスコミに引っ張りだこ。
- テレパシー並みの電波的直感で他人の心を察するが、第参巻の白露との出会いを通じ、あらゆる人間の「痛み」(悲しみ、恐怖など負の感情の総称)をも感じるようになる。
[編集] MPB(ミリオポリス憲兵大隊)
オーストリア国家憲兵隊の一部隊。突出した重武装で凶悪犯罪に対処する。
- 吹雪(フブキ)・ペーター・シュライヒャー
- MPBのマスターサーバー<刕(レイ)>の接続官。<猋>担当。特甲少年。気弱な天然だが仕事は優秀。政府の非公式書類を携帯端末で三人に読ませる等、善意の固まりの地雷。涼月に絶賛片思い中。
- フランツ・利根(トネ)・エアハルト
- MPB副長。<猋>の指揮官にして絶好のからかい相手。通称「蜘蛛の巣フランツ」。神経質な堅物参謀。愛車はメルセデス・ベンツ SLRマクラーレン(120回ローン)。
- オーギュスト・天龍(テンリュー)・コール
- MPB大隊長。都市治安に軍の兵科を導入した武闘派。通称「沈黙のオーギュスト」。
- ミハエル・宮仕(ミヤシ)・カリウス
- MPB<怒濤(ドランク)>中隊長。経験豊かな凄腕の狙撃手。漢字の『中(アタル)』マークのケースレス弾を使用。
- <特憲>の斥候狙撃部隊<赤のジャック(ロートバオアー)>元隊長。傭兵となり世界を股にかけ大金を稼いでいたが、「ライフルの汚れ」を自覚し脱退。狙撃手として見込んだ陽炎に、傭兵仲間の証であった『中』の麻雀牌を贈る。
- マリア・鬼濡(キヌ)・ローゼンバーグ
- MPB医師。長身の美女。カーマニアでスピード狂でヘビースモーカーなパンク姐さん。
- ミゲル・千々石(チヂワ)・ベイカー
- MPB広報部マスコミ課課長。MPB隊員の衣裳デザイン責任者。三人娘に水着やメイド服やウエディングドレスなどを次々繰り出してくる。オカマ口調。自称永遠の25歳。
[編集] MSS(ミリオポリス公安高機動隊)
情報収集と要撃による都市全域警備を目指す独立部隊。マスターサーバー<晶(バク/本来の字は三つの目)>と飛行能力を持つ特甲児童を擁する。『スプライトシュピーゲル』主役三人が所属。
- トマス・ルートヴィヒ・バロウ神父
- MSS外部顧問。元兵器開発局所属。特甲児童の開発責任者唯一の生き残り。特甲児童への転送兵器搭載に反発、解任された。
- 螢(ホタル)・ヘレン・トローベル
- 迎撃手(セプター)。おかっぱの赤毛、ミント色の目。無数のホタルのごときプラズマを形成し攻撃する。現在は皇の左手に内蔵されており、第三者からは声のみが聞こえる。
- 皇(スメラギ)・アンジェラ・ヴァール
- 伏撃手(アンブッシュ)。ぼさぼさ金髪、萌黄の目。大きな軍用ジャケット。ごつい灰色の機械の左手。<転送>後は透明なイナゴの羽が生える。透過防壁を形成し一瞬で姿を消すことが可能。寝ぼすけらしい。
『スプライトシュピーゲル』鳳(アゲハ)の元チームメイトたち。公式記録上は行方不明。現在はトラクルへの復讐を誓いミリオポリスに潜伏している。
[編集] BVT(憲法擁護テロ対策局)
MPB、MSS、<特殊憲兵隊(コブラ・ユニット)>等、ミリオポリスの全治安組織を管轄。
- エゴン・ポリ
- BVT局長。未来党所属。通称黒カマキリ。
[編集] 未来党
極右思想で有名な政党。2016年現在国民党との連立与党を形成。資金集めのため裏で過激派に銀行強盗などを命じている。
[編集] 第壱巻
- オットー・千代田(チヨダ)・ワイニンガー
- 第壱話「Black in the streets」に登場。なんちゃって思想犯。ネットで右翼的言動にはまるうちにリヒャルト・トラクルから巨大拳銃<ヘラクレス>を与えられる。トラクルの指令で銀行強盗を支援するが初めて仲間を得た喜びで舞い上がり、影のボスである未来党の選挙事務所を爆破。仲間に追われる身となる。
- ゲオルグ・ヘンリケ・フォン・クルツリンガー
- 第弐話「Red it be」に登場(回想のみ)。陽炎の父。狩猟中に彼女を過失で撃ってしまい、愛する娘とライフルへの際限ない罪悪の地獄に陥る。以後奴隷のように尽くしながら暮らすうち狂気にとらわれ娘との近親相姦に陥る。家政婦に現場を発見され心中を図るが、陽炎に拒否され彼女の目前で自殺。
- カール・マキシム・フォルメルハウゼン
- 第弐話に登場。ゲオルグの親友。オリンピック出場経験もある優秀な狙撃手。元未来党員。未成年買春で全てを失いライフル友愛会の山小屋で暮らしていた。トラクルから与えられた史上最軽量ライフル<ディオスクロイ>を自ら教育した後継者(孫たち)に渡し”射手事件”を引き起こす。
- 夕霧の母
- 第参話「Browin' in the White」に登場(回想のみ)。娼婦。元ダンサーで夕霧に歌の喜びを教えた。
- 娘との生活のために客を殺し金品を奪っていたが、麻薬取引の金を掠め取り追われた母が娘を逃がすため「人は本当は空を飛べる」と信じていた夕霧をビルの屋上から転落させ児童福祉局に委ねる。その後行方不明。
- スレーブン
- 第参話に登場。ユダヤ系マフィア。ミリオポリス第二十六区の元締めだったが、夕霧に弟や仲間を殺され自身も右腕を切断。以後トラウマを抑圧しながら警察の情報屋になっていたが、トラクルの接触により夕霧への憎しみが表面化する。
- シュテファン・丈蛇(タケダ)・ツヴァイク
- 第参話に登場。トラクル指示下の連絡役。夕霧の画像を二千枚以上集めている熱狂的ファン。母親に密かに毒を飲まされ続けていたが、ナチスシンパの叔父がそれに気づき母親を殺したため一命を取り留めた。
- トラクルから夕霧のワイヤーを無効化する装置を与えられ、叔父から贈られたナチスの制服を着、夕霧を手に入れるため罠をしかけたが、暗闇での戦闘で錯乱した彼女に逆に惨殺される。
[編集] 第弐巻
- あらすじ
- ミリオポリス郊外にロシアの原子炉偵察衛星<アンタレス1140号>が突如落下、同時にテロリストから犯行声明が配信された。
- 原子炉をめぐり七つのテロ組織が交錯するミリオポリスを、三人はバラバラに駆けめぐることになるが……
- スプライトII巻と同一の事件をシリーズそれぞれの視点から展開する長編。
- 用語
- クーデター事件
- 7年前にミリオポリス軍と警察が都市治安をめぐり衝突。軍による都市占拠騒ぎにまで発展し多数の死傷者が出た。プリンチップ社の関与が疑われている。この事件以来、ミリオポリスの治安機構は軍の都市出動を極端に警戒している。
- 登場人物
- ユーリー・スタリツキー中佐
- ロシア特務官。<アンタレス1140号>回収のため来墺。合同捜査の名目上涼月を指揮下に入れる。チェチェン紛争で育った鋼の神経の持ち主。ロシア諺の引用癖がある。
- ヨシフ・クールプスキー軍曹
- ユーリー中佐の副官。外見は斧の代わりに携帯電話を持ったミノタウロス。倒置法しゃべり。涼月をスズツキーと呼ぶ。
- ゲルツェン/髭面
- ヴァシリー/暗視ゴーグルそっくりの義眼
- イヴァン/のっぽ
- ピョートル/最年少
- ニコライ/ずんぐり
- アストロフ/碧眼
- ワーニャ/篤信家
- ワシリー/文芸家
- セリョージャ/浪費家
- フェージェ/顔にL字傷
- ユーリー中佐の部下。全員筋金入りの軍人。中佐に絶対の忠誠を誓う、愉快で非情な戦争の犬たち。
- <待望の会>
- 日本人難民グループから分離した過激派組織(作中の日本は核汚染され国民は難民化している)。
- <ジョハルの手>
- チェチェン人過激派組織。イスラム原理主義のもと露・米・国連に対する武装報復を主張。チェチェン独立の英雄ジョハル・ドゥダエフの名を冠する。
- <自由戦士団>
- キプロス系トルコ人過激派組織。イスラム原理主義。キプロス独立を承認し故郷を奪った国連を敵対視する。
- <収穫(ウラジャーイ)>
- 反体制ロシア人組織。祖国に愛想を尽かし世界中の犯罪組織やテロリストと手広く商売する大規模シンジケート。情報局や特殊部隊からの引退者が多い。
- <タフタ>
- トレーラーで世界各地を放浪し、国際法で禁じられた高度な科学知識を密売する女性のみの集団。ロマを自称。
- <キャラバン>
- テロリスト等の訓練育成を世界中で請け負って回る戦術指導者集団。プリンチップ社が大々的に出資。元々はCIAが作り上げたダミーのテロリストグループ。
- <白き盾(ヴァイスシルト)>
- ネオナチ組織。オーストリアの核保有とドイツによる併合を目指す。ミリオポリス軍内部に浸透し通信コードを盗用していた。ドライクローネン警備会社(=極右グループ<純粋戦士(ラインゾルタート)>)は下部組織。
各グループはプリンチップ社の計画の元、<アンタレス1140号>を落下させ、強奪した原子炉からコードネーム<666>=核弾頭を製造、<ヴィエナ・タワー>への輸送リレーを行う。
- ロートヴィルト・佐脇(サワキ)
- <キャラバン>所属の日本人狙撃手。座位(あぐら)で正確無比な射撃を行う。『中』の牌を持つ、ミハエル中隊長のかつての戦友。
- ヴェンツェル・エルメンライヒ
- エルメンライヒ建設CEO。車椅子に乗った老人。ドイツ民族至上主義。癌による自らの死期を悟り、核弾頭射出装置である超高層ビル<ヴィエナ・タワー>を建設。ミリオポリスの壊滅を図る。
[編集] 第参巻
- あらすじ
- アンタレス事件が解決し、束の間の休暇を得た三人。
- だが「吹雪との思い出」「古い子猫のぬいぐるみ」「バイオリン弾きの少年」を介して、過去に向きあった彼女たちは、自分たちの記憶の空白に気づいていく。
- 「初出撃の記憶」をキーに、三人の内面に迫る連作短編集。巻末におまけストーリーあり。
- 用語
- 特甲レベル3
- 戦時状況並みの脅威下のみ許可される高度兵装。レベル3装備の特攻児童は単独行動が基本。
- レベル1は地上戦用、レベル2は空中戦用。基本装備ではオイレンの三人はレベル1・B、スプライトの三人はレベル2・Aに相当。
- "身代わり(ズュンデンボック)"
- 精神的衝撃から自分を守るため、心や記憶の一部に作られる「盾」。この盾が衝撃で破壊され消えることで、本来の精神が守られる。多重人格とは異なるらしい。
- 揺籃状態
- 人格改変プログラムの急激な進行に伴い発生する、過去の幸福な記憶に包まれ安らぎに満ちた瞑想に近い状態。自他や敵味方の区別があいまいになるため、同士討ちの危険がある。
- 登場人物
- 白露(シラツユ)・ルドルフ・ハース
- オーストリア軍の特甲少年。十六歳。レベル3特甲を基本装備とする"特甲猟兵(ヤークトコマンドー)"。最新鋭戦闘機を何機も墜落させた、通称"鳥落とし"。
- 軍の切り札としてイラクの砂漠に千日以上にわたってただ一人で駐屯、周囲三百平方キロを中立地帯としていたが、神経症や感情の喪失の果てに脱走。
- トラクルの運び屋となり、プラーター公園の片隅でバイオリンを演奏していた際に夕霧と出会う。
- 見たり聞いたりすることを「食べる」と称する。また感情は物質であり、「誰かの心が宿ったもの(内臓等の人間の肉体)」を「食べる」ことで自らの失った感情を回復できると考えている。
- モリィ・円(マドカ)・カリウス
- 第弐話「Scarlet Ob-La-Da」に登場。MPB機動捜査課捜査官。ミハエル中隊長の実妹。良き教師的振る舞いで陽炎を壮絶にイラつかせる。かつて教育官として幼い陽炎たちと関わっているが、三人に記憶はない。
- ウィリー・ココシュカ
- 第弐話に登場。国際的ブローカー。欧州中の警察から逃げ続けていたがゴミ箱を倒した容疑で偶然逮捕、40年かけてEUたらい回しで裁判を受けるはめになった。資金洗浄のため、財産をアフリカのダイヤ原石に換えていた。
- ムージル
- 第弐話に登場。ハイテク・マフィアのボス。「ココシュカの隠し口座」の噂を追ううち、偶然陽炎のぬいぐるみを手に入れてしまい災難に巻き込まれる。
- グスタフ
- 第参話「Holy Week Rainbow」に登場。BVT内務調査課所属。レベル3転送後の特甲児童に対する精神面の処置についての調査を行っている。
- ハンス・ヘルベルト大尉
- 第参話に登場。オーストリア機械化歩兵師団所属。脱走した特甲猟兵たちを捜索している。
[編集] 第肆巻
- あらすじ
- 5月1日メーデー、ウィーン国際空港でエル・アル航空のジャンボジェットがハイジャック。実行犯はすぐに鎮圧されるが、直後空港内で同時多発テロが発生。
- さらに中国の最新鋭戦闘機が強行着陸、パイロットは亡命を希望するが直後に拉致される。
- ドナウ川氾濫で国際空港は孤立。一般人二百人、空港職員たち、そしてパイロットと戦闘機を、MPBと<特憲>は守り抜けるのか?
- スプライト4巻と表裏一体の事件を追う長編。
- 用語
- 特甲レベル4
- 特甲兵器の完成型とされるが、開発顧問たちの相次ぐ死により開発中断された。
- 人格改変プログラム
- 特甲の四肢は痛覚オフ可能だが、「記憶の痛み(幻肢痛?)」は消しきれない。この痛みを制御するため「人格改変化・変通抑制プログラム」="無(オフ)モード"が開発された。
- 特甲児童たちの心身を"無モード"によって守ると同時に、何の苦痛もない"無モード"への過剰適応をも防止するはずであった。
- だがプログラムが適用されたレベル3で、激しい攻撃意欲・他者認識能力の喪失による同志討ち等が認められたため適用中断されている。
- 人格改変化も変通抑制も非常時において人間の心に起こるべくして起こることであり、レベル3の暴走においても何らかの引き金ではないかと推測されているが、真相は未だ不明である。
- 人格改変化
- 変通抑制
- 『人格の時間面』
- フロー状態
- 進行すると人格崩壊に至るが、人格の時間面を自ら進めることが出来れば助かるらしい。
- 登場人物
- パトリック・イングラム
- パレスチナ武装組織<赤いハヤブサ>所属の白人男性。正体はCIA潜入捜査官。真の任務は<キャラバン>の壊滅とトラクル暗殺。少年時代リトルロック事件を通して祖国の大義を知り、その理想を信じて任務に命を懸ける。説教好き。涼月と同行し事件を追跡する。
- 趙迅妹(チャオ・シュンメイ)
- 中国人民解放軍中尉。優秀な戦闘機パイロット。<太公望>の真実を世界に知らしめるため、国連都市の証言台に立とうと二人で亡命するが、直後<キャラバン><赤いハヤブサ>に拉致される。スプライト4巻のパーキンスと携帯で連絡を取っていた。
- <太公望>
- エルファシルの6人の子供の脳とAIの統合人格を持つ戦闘機。米がスーダンに落とした最新鋭ステルス戦闘機("トロイの木馬")を使い物にするため中国により犠脳体兵器とされた。
- アジア・アフリカ軍事航空ルート(<荷>の発送ルートでもある)が、軍幹部と犯罪組織の癒着により密輸ルート化している現状を白日下にさらすため、趙共々当のルートを辿って亡命。夕霧に「痛みは正しい方法で消せる」と伝える。
-
- ユング三兄弟
特甲猟兵の三つ子。十五歳前後。特甲猟兵のチーム化テストケースとしてダルフール紛争に派遣されたが、この世の地獄のような戦場に耐えかね脱走。レベル3の人格改変化に耐えるため、三人で変通抑制を共有していた。なぜか広島弁。
- 陸王(リクオウ)・マルティン・ユング
- 長男。坊主頭。特甲駆逐猟兵。巨大チェーンソー+重機関銃・抗磁圧防壁の盾・両肩の超振動型雷撃器など武装を満載した黒鉄の特甲。常に激しい喉の渇きを感じている。
- 秋水(シュウスイ)・ルーエン・ユング
- 次男。パンク刈り。特甲擲弾猟兵。空中ガンバイクのごとき赤銅の巨大迫撃砲特甲を乗りこなす。ゴキブリが瀕死の人間に必ず寄ってきた記憶から、絶えず無数の幻覚の虫が見える。トラクルを追って来た螢と皇に人格改変プログラムの修正パッチ(?)を流されたが、人格の時間面を進めることが出来ず、暴走の末陸王を殺そうとし、兄に首をはねられた。
- 剣(ツルギ)・シンケル・ユング
- 三男(既に死亡)。最初に渇きや幻覚が現れ始め、鬱陶しがった兄たちに虐待の末殺されるが、彼の死後二人に同様の症状が現れる。
-
- <蟲(チオン)>
中国の非公式国外部隊。機械化歩兵兼スパイ兼現地工作員兼暗殺者。全員が黒孩子(ヘイハイズ)。自由自在に伸縮し動く金属の蛇腹のごとき機械化義肢。転送機能はないが損傷箇所のみ破棄すれば手軽に再接続可能。特甲児童の海賊版である。
- 蛭雪(ツーシュエ)
- 第三一機械工兵営団・営頭(リーダー)。紅と白のチャイナドレス。アルビノ。4本の機械化義手。同名キャラが『黒い季節』に登場している。
- 蟻骨(イークー)
- 排頭(小隊長)。黒い中国服。灰色の中国服を指揮。
- 蛾風(オーフェン)
- 排頭。白い中国服。赤い中国服を指揮。
- 蚕影(ツァンイン)
- 排頭。青い中国服。黄色い中国服を指揮。
- ヤーセル・オカモト
- <赤いハヤブサ>所属のテロリスト。ドレッドヘアのアラブ人。岡本公三の孫を自称。高射砲搭載型移動重砲機体<パラディオン>に脳を移植。
- ルージュトロワ(シャロン・女郎花(オミナエ)・ベイカー)
- <キャラバン>所属の狙撃手。ブロンドの超ベリーショート。左眼はプリンチップ社製義眼<グライア>。スティンガーミサイルを所持。『中』牌所持者の一人で、かつてミハエルに左眼を撃ち抜かれた。
- フランク・ヴァルター
- <特殊憲兵隊>国際空港警備部隊長。ミハエル中隊長の<特憲>時代の戦友。傭兵になった彼を憎んでいたが、空港での共闘を通じ信頼を取り戻してゆく。
- シュテファン・テオ・ラバグルト
- ラバクルト内務大臣の一人息子。初々しい少年。学校の職業体験で公共放送ORFアルバイト中に事件に巻き込まれる。実は涼月ファン。
- アデライード・白堊(ハクア)・ファーレンハイト
- 特甲開発設計士。兵器開発局所属。アラブ系ハーフ。巻き髪のブランド姉ちゃん。涼月のレベル3特甲<ガヤルド>、陽炎のレベル3特甲の開発主任。漢字名は白亜右月から。
- クラリッサ・灰叢(ハイムラ)・ディーゼル
- 特甲開発設計士。兵器開発局所属。英国系。外見は古風なレディ。漢字名ははいむらきよたかから。
- エドワルト・オヴェロン・メッサーシュミット・ウィーン州知事
- 社会党所属。黒人の血を引くキプロス内戦の英雄。大隊長のかつての上官。MPBをBVTから独立させ知事直属部隊として認めるよう大隊長たちから迫られるが拒否する。『スプライトシュピーゲル』ヘルガ長官の異母兄。
[編集] プリンチップ株式会社(Princip Inc.)
テロリストや犯罪傾向のある一般市民にプリンチップの刻印入りの高性能武器を供給する、ダミー会社を装ったテロ支援組織(ミリオポリスの法律では企業は刑事罰の対象にならないため)。 社名の由来は1914年オーストリア皇太子夫妻を射殺し第一次世界大戦の原因となったセルビア青年ガブリロ・プリンチップ。
- リヒャルト・トラクル
- プリンチップ社のエージェント。禿頭。緑の目。陽気な口調の中年男性。小さな黒い手の模様のネクタイ(=黒手組)。
- 自分の境遇に鬱屈している人間に突然接触し破壊活動を扇動する劇場型テロの演出家。
- 全ての人間に戦争をする理由を提供することを自らの使命とする。
- 『オイレンシュピーゲル』『スプライトシュピーゲル』両シリーズの黒幕。
- ※4巻現在、異なる二人が存在する。
- 「トラクルおじさん」国際空港で大演説をぶった方。象牙色のスーツ。自分では運転しない。オイレン肆巻ラストで顔の右半分に火傷。
- 「リヒャルトさん」スプライト3巻で逮捕された方。漆黒のスーツ。自分で運転する。
[編集] 既刊一覧
オイレンシュピーゲル(イラスト/白亜右月)
- 壱 Black&Red&White ISBN 978-4-04-472901-1 2007年2月1日 初版発行
- 弐 FRAGILE!!/壊れもの注意!! ISBN 978-4-04-472902-8 2007年6月1日 初版発行
- 参 Blue Murder ISBN 978-4-04-472905-9 C0193 2007年11月1日 初版発行
- 肆 Wag The Dog ISBN 978-4-04-472908-0 2008年5月1日 初版発行
プロトタイプ・オイレンシュピーゲル(イラスト/島田フミカネ)
- ザ・スニーカー2004年12月号掲載 単行本未収録