エクイティ
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- 「エクイティ」と呼ばれる俳優の組合については、俳優労働組合を参照。
- ファイナンスの文脈においてデット(負債)と対置される、株式、持分、出資、組合員、匿名組合員など、ある事業体についての残余価値を請求できる地位については、現段階においては各項目を参照のこと。
- 英米法においてコモン・ローと対置される衡平法としての意味については、本項において解説する。
エクイティ(衡平法(こうへいほう)、Equity)とは、イングランドのコモン・ロー(普通法、あるいは共通法などと訳される。一国内の全市民に共通して適用される法をいう。一部の地域あるいは身分にのみ適用される法と対比される概念。)の伝統を継受した国々における法制度の分野全体をいう名称であり、公平と公正の原理に依拠して人と人との間の紛争を解決するものである。
英米法体系において、コモンローは、イギリスの国王裁判所が下した判決が集積してできた判例法体系として理解され、エクイティは、コモンローの硬直化への対応として大法官が与えた個別的な救済が、法として集積したものと理解される[1]。
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[編集] 概要
当該紛争の当事者双方とも法令に抵触する点はないのに双方の権利や主張が矛盾してしまうような場合が、エクイティが機能する典型的な場合である。それゆえ、エクイティは「法」、すなわち、コモン・ローから導かれた法原理、法令、及び判例法(裁判所が事案に対する判断を示す際に決め手となる各種の法原理)とは著しい対照をなしている。
エクイティに対立するものとしての法という概念は、歴史が産み出した偶然の産物である。中世のイングランド全土で国王の制定法を適用していた裁判所を、当時「法廷」とか「法の庭」と呼んでいた。しかしながら、国王から直接得られる、あるいは王宮(すなわち大法官)が裁可して与える救済というものも存在した。こうした大法官が与える救済が発展して、大法官部裁判所、あるいは衡平法裁判所が成立したのである。
[編集] コモンローとの違い
現在の実務では、通常法とエクイティとの間の最も重要な違いは双方が与える救済の違いにあると言われる。通常裁判所が付与し得る最も一般的な救済は金銭賠償である。これに対して、衡平法裁判所は、ある行為をすること又はこれを自制することを直接禁止したり命じたりする。後者の形式の救済が、実務的な面からみると当事者にとってより実効的なことが少なくない。例えば、自分が所有する唯一の乳牛なのに、隣人の土地に迷い込んだが最後、どうしても返してもらえないような場合、原告としては、その乳牛を返して欲しいだけであって、金銭的価値の返還を受けることは望んでいないと言える。通常裁判所も、「動産引渡令状(writs、リット)」(人身保護令状(a writ of habeas corpus、ヘイビアス・コーパス)と同様である。)と呼ばれる命令を発することがあるが、差止命令(injunction、インジャンクション)と比較すると、柔軟性に欠けるし、簡単には得られない。
もう1つの違いは、エクイティ独特の、訴えの利益にある。エクイティ上の救済は、それが法律上の問題であり、事実認定者(trier of fact)として陪審が関与すべきものではないときに限って裁判官が付与する。
法律上の救済とエクイティ上の救済との違いには、アメリカ合衆国の法制度の重要な一面が現れている。民事訴訟において陪審の審理を受ける権利は、憲法修正7条により保障されているが、そこでいう民事訴訟とは、伝統的に通常裁判所においてコモン・ローを適用して処理されてきたものに限られる。ある事件が陪審が評決すべき事件であるかどうかは、概ね原告が求める救済の形式によって決まる。もし原告が金銭の形で賠償を求めたり、その所有する特定の物の返還などの形式で救済を求めるのであれば、その救済は法律上のものとみなされ、アメリカ合衆国憲法によって陪審による審理を受ける権利が保障される。
他方、原告が差止命令や宣言的判決(declaratory judgment、日本の行政事件訴訟法31条所定の事情判決がこれに近い。)、特定履行(specific performance、日本の義務付けの訴え(義務付け訴訟、平成16年法律第84号による改正後の行政事件訴訟法3条6項など)や、いわゆるなす債務の給付判決に類似する。)や契約条項の修正、その他非金銭的な救済を求めるのであれば、その訴えは通常エクイティに属することとなる。
通常法とエクイティとの間の重要な違いはもう1つある。それは、判決を左右する法の源(法源)である。通常法であれば、各種の法原理と制定法を参照して判決が作成される。これに対して、エクイティでは、公平と柔軟性とに重点が置かれ、衡平法格言(maxim of equity)として知られる一般的な基準があるのみである。実際、エクイティ発展の歴史の中では、エクイティには固有の固定した法規は存在せず、大法官(伝統的に国王を代理して衡平法裁判所を総理していた。)がめいめい自分勝手な良心に従って判決をしているという批判を浴びたこともあった。17世紀きっての法学者であるジョン・セルデンは、こう言い切った。「エクイティは、大法官の足の長さに応じて変わる。」
[編集] アメリカ合衆国におけるエクイティ
今日のアメリカ合衆国では、連邦裁判所とほとんどの州裁判所では、同じ裁判所が通常法とエクイティの双方を管轄する。それゆえ、原告は、一回の手続で通常法上及びエクイティ上の双方の救済を得ることができる。これは、1873年から1875年の裁判所法によって通常法とエクイティとの融合が大いに進められた以降のイングランドの状況を反映している。
しかし、特にデラウェア州など、今もなお通常法とエクイティとで管轄する裁判所を分けている州もある。デラウェアの大法官部裁判所は、デラウェア企業が関係するほとんどの事件を裁判している。その他、1つの裁判所の中に別々の部を設けて、通常法とエクイティとを分けて管轄させている州もある。信託法から発展した会社法のほか、伝統的に大法官部裁判所が管轄してきた分野には、遺言とその検認、養子縁組と後見、婚姻と離婚などがある。
アメリカ合衆国では、通常法とエクイティとが統合されるにつれて通常裁判所が、多くの衡平法裁判所の手続を取り入れた。衡平法裁判所の手続は、コモン・ローの裁判所と比較してはるかに柔軟である。アメリカ合衆国の実務でいえば、併合(joinder)、反訴(counterclaim)、共同被告間訴訟(cross-claim)、競合権利者確定手続(interpleader)といった手続が、衡平法裁判所に起源を持つ。
[編集] 脚注
[編集] 外部リンク
- First State Judiciary-Court of Chancery Welcom!
- アメリカ合衆国デラウェア州衡平法裁判所のサイト(英語)