反訴
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反訴(はんそ)とは、民事訴訟の被告が口頭弁論終結前に同じ裁判の中で、原告を相手方として提起する訴えのことをいう。民事訴訟法146条に規定されている(旧民事訴訟法では239条および240条)。
つまり反訴の制度を用いれば、関連する紛争の解決を一つの裁判手続の中で行うことができる。
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[編集] 具体例
例えば、土地所有者のA(地主)が、その土地を賃借しているB(借地人)に対して、所有権に基づく土地の明け渡しを請求する訴訟を提起したとする。土地の明け渡しを拒みたいBはこの訴訟の被告として、自分に賃借権が存在することを主張してAの請求に対して反論することになるだろう(抗弁)。このときBはただ反論するだけでなく、自分には賃借権があることの確認を求める訴えをその同じ訴訟の中で提起することができる。この、被告であるBが同じ裁判の中で今度は原告となって相手を訴え返すのが反訴である。
反訴に対して、初めにAが原告となって提起された訴訟のことを本訴(ほんそ)という。
[編集] 反訴の利点
反訴による場合には同一の手続内で関連する紛争を一挙に解決できることから以下のようなメリットがある。
まず、実質的には同じ紛争が別々の裁判によって扱われると、矛盾した判決が出てしまう可能性がある。一方、反訴によって同じ手続内で紛争解決を行えば矛盾が生じる危険はないし、審理が重複しないので効率も良い(この効率のことを訴訟経済といい、審理の重複は「訴訟経済上好ましくない」ということができる)。
そして効率がいいのは当事者にとっても同様で、いちいち別の訴訟を提起しなくても済むという利点がある(もちろん、あえて反訴制度を用いず、全く別の訴訟として訴えを提起することもできる)。
また、原告には訴えの変更や訴えの客観的併合が認められるのであるから、民事訴訟における当事者平等原則の要請からも反訴を認めるべきといえる。
[編集] 予備的反訴
反訴には予備的反訴(よびてきはんそ)というものがあり、上述してきたような条件をつけない反訴のことを単純反訴(たんじゅんはんそ)といってこれと区別する。予備的反訴は、本訴に対して請求棄却を申し立てつつ、もしも請求が認容された場合(つまり敗訴した場合)に備えて提起する。法律学的には「本訴の却下または棄却を解除条件として提起される反訴」と表現される。
上記具体例でいけば、「土地を明け渡せ」というAの請求に対して、所有権は自分(B)にあるとして請求棄却(原告敗訴)の判決を求めつつ、もしも請求が認容された場合、すなわち土地の所有権はAにあるから「BはAに土地を明け渡せ」という原告勝訴の判決がでた場合には賃借権があることの確認を求める訴えが反訴として提起されることになるのである。
[編集] 要件
反訴は、以下の4つの要件を満たしていなければならない(民事訴訟法146条)。
まず、原則として反訴は事実審(原告の主張の当否を審理する裁判で、通常は第一審や控訴審がこれにあたる)の口頭弁論終結前に提起しなくてはならない。ただし控訴審で反訴を提起するには相手方の同意か異議なき応訴(特に異議を申し立てることなく反訴に応じること)がなければならない。
次に、反訴は本訴または本訴への防御方法と関連したものでなくてはならない(関連性の要件という)。ただし、相手方が反訴に同意または異議なく応訴しさえすれば、関連性がなくても構わない。
3つ目に、反訴の提起によって著しく訴訟手続が遅滞する場合は、反訴を提起することが許されない。これは前述のように反訴制度が当事者平等原則の要請に応えるという側面を持つことから、原告による訴えの変更の要件(143条1項但書)に対応して設けられたものである。
最後に、反訴請求が他の裁判所の専属管轄に属さないなど、一般的な訴えの併合の要件を満たしていなければならない。
以上の要件を満たさない反訴は原則として却下(不適法却下)されるというのが通説および判例の考え方である。これに対して、独立の訴えとしての要件を満たしている限り本訴とは別の訴えとして扱うべきだとの有力説もある。
なお、人事訴訟については本訴の請求との関連性は要求されず(人事訴訟法第18条)、また、反訴が禁止されている場合もある。
[編集] 手続
本訴の手続に準じる(民事訴訟法146条3項)。
[編集] 強制反訴
日本では反訴をするかしないかは当事者次第であるが、訴訟経済上の観点などから反訴を提起すべき場合には別個に訴訟を提起することを許さないという制度を採用する国もある(アメリカ合衆国など)。この制度のことを強制反訴という。 日本法においても,いわゆる広義の二重起訴の場合がこれに近いと言えよう。