インターネットオークション
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
インターネットオークションは、インターネットを利用した電子商取引で、インターネットを介して競売(オークション)を行うこと。ネットオークションと略称されることもある。
なお、インターネットに限らずコンピュータネットワークを通信媒体として利用したオークションをオンラインオークションと呼ぶ。
目次 |
[編集] 概説
1990年代以降、インターネットを通信媒体として利用したネットオークションサイトが登場し、一般の人でも手軽に出品や入札ができるようになった。ネットオークションはインターネット環境の整った国で一般に利用されており、国際取引も増加している。特にアメリカ・イギリス・オーストラリア等の英語圏や中国・台湾・シンガポール等の中国語圏での国際取引が活発であり、国際宅配業者を利用したネットオークション取引が盛んに行われている。
だが、アメリカはAmazon.comに代表される企業 - 個人間の電子商取引の充実に伴い、ネットオークションは当初の勢いを失っているという。消費者は、欲しいものであれば多少の値引きと引き替えにオークションに時間を取られることよりも、固定価格で手間をかけずに素早く購入できる買い物を望むようになっている。その結果、電子商取引において、ネットオークションよりも固定価格による商品販売の方が、売上が伸びている[1]。
[編集] 日本における状況
日本ではYahoo! オークション(1999年9月サービス開始)が国内最大手で、他にも楽天やビッダーズなどの検索サイトやオンラインショッピングサイトが独自のサービスを展開、利用者を集めている。近年ではKDDIがauオークションを提供し、NTTドコモもオークション事業に進出するなど、携帯電話によるオークションも活発化している。
現状ではYahoo!オークションが圧倒的に有名で、かつ利用者も多く、平均して942万件(2006年3月現在)にのぼる物品が出品されている[2]。2002年には出品手数料及び落札手数料が導入され、2006年には出品手数料が3%から5%に引き上げられたが、それでもなお利用者は大幅には減っていない。これは、Yahoo!オークションの知名度が高く、出品者、利用者双方とも集まりやすいためといわれている。
ネットオークションサイト世界最大手のeBay(イーベイ)も2001年に日本へ進出したが、先行していたYahoo!に太刀打ちできず、2002年3月限りで撤退した。その後、eBayは2007年12月にYahoo!オークションと提携を行った。
また、日本からの海外オークションサイト利用、海外からの日本国内オークションサイト利用も徐々に増えているが、多の国に比べると少数に留まっている。国際ネットオークション取引については補償制度やサービス体制が国内取引に比べ不十分であり、トラブルも報告されている。
[編集] インターネットオークションのシステム
以下では、最も一般的な競り上げ方式のインターネットオークションのシステムを説明する(ただし、ここで記載するシステムは最も代表的なものであり、全てのオークションで採用されているわけではない)。出品者及び入札者が行う操作は、通常、ウェブブラウザを通じて行われる。
[編集] 出品
出品者が、商品の名称、状態、写真、オークションの開始額、終了日時等の出品に関する情報をオークションサイトのサーバにアップロードする。この出品情報に基づいてウェブページが生成され、オークションのウェブサイトに掲載されて、オークションが開始される。法律またはオークションの規定に違反する商品などは、運営者によって出品が取り消されることがある。
[編集] 入札
入札者は、オークションサイトが備える検索機能等によって、購入を希望する商品を選び、購入希望額を指定して入札する。希望の商品を探す方法としては、特定のキーワードをあらかじめ登録しておき、そのキーワードにあった商品が出品されると電子メールで通知するサービスも用意されていることが多い。商品が掲載されたウェブページは随時更新されており、最新の状況を確認することができる。入札額は、第三者に公開される場合(オープン・ビッド)と秘密にされる場合(クローズド・ビット)とがあるが、一般には公開されることが多い。
他の入札者によって、自分の入札額を上回る入札が行われた場合には、再度入札を行い入札額を競り上げることができる。最高入札額の更新を電子メールで通知する機能や、他者によって入札が行われた場合に、入札者があらかじめ指定しておいた限度額内で自動的に再入札を行う機能も一般的である。
[編集] 落札
オークションの期間が終了すると、落札者、落札価格が確定されて、商品のウェブページで公表されるとともに、入札者及び落札者の双方に電子メールで通知される。取引相手に関する詳細な情報は、商品のウェブページで入札者・落札者のみに提供されることもある。
その後の入金や商品の発送などの取引は、基本的に当事者間で行われる。ただし、メールアドレスを明かすことなく互いに連絡が可能な機能が準備されていたり、金融機関や運送会社などと提携して、入金や商品の発送を容易・安価に行うことができるサービスが提供されている場合も多い。
また、落札者と出品者とが互いに信頼できる相手かどうかを確認した上で入札や売買をすることができるように、オークションサイトのシステム上で、出品者が落札者を・落札者が出品者を相互に評価できるシステムを備えていることが多い。
[編集] ネットオークションの問題点
ネットオークションは数々の問題点をはらんでおり、様々な対策がなされているものの、どれも抜本的な解決策とはなっていない。抜本的な対策がなされていない点は、交通事故や殺人事件といった種々の社会問題に共通することではあるが、ネットオークションの場合には、その利用が一般市民に広がっていることや、急速な普及のために対策が追いついていないことから、問題点への対策がより強く求められている。
[編集] 詐欺・違法出品
出品者の本人確認が不十分なオークションサイトも多々あり、実際に販売する商品が手元に存在しない・提供する意思すらないにもかかわらず商品を提示して、先払いなどで振り込ませた代金を騙し取る詐欺行為(→オークション詐欺)や、以下のような違法な商品が出品されるケースも見られる。
特に、違法な商品を出品する際、実物の名称をそのまま出すと即座に通報され、逮捕となるため、一般に聞き慣れない隠語や符丁などの暗号を用い、別の商品に見せかけるケースも後を絶たない。
- 本来、個人の著作物にかかる著作権も対象に含まれるべきであるはずだが、あまり問題にされない。
- 特に悪質なケースでは、本物の画像を提示しならが、落札後に発送されるのが偽物であったというケースも報じられ、詐欺罪にも問われるケースもある。さらに、偽物だと認識して購入すれば、購入者は幇助罪に問われる。
- 偽造金券類で有価証券偽造罪に該当するもの
- 非合法(盗品・偽造)もしくは権利者が売買を禁止しているチケット[3]
- 盗品または盗品の疑いがあるもの(盗品ではない、という事実を証明できないもの)で、盗品等関与罪に該当するもの
- 麻薬、覚せい剤、シンナー、トルエンなどの違法な薬物全般(市販されている医薬品の出品も禁止されている)
- 拳銃、ライフル、散弾銃や日本刀などの銃砲刀剣類=銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)に違反するもの
- 無修正の裏ビデオや児童ポルノなどの猥褻物(使用済みの下着や制服なども猥褻物として扱われており、出品が禁止されているが、水着に限っていえば「クリーニングして出品すること」「人物の着用している写真を掲載しないこと」など一定の条件を満たせば出品が認められることもある)
また自転車操業で、客から代金振込みを待って商品仕入れする業者も見られ、このようなケースでは業者が破綻した際に、先に振り込んだ代金が業者の持つ負債により、業者ごと「消える」という事態も発生している。
最近ではオークションサイトを運営する企業側の管理責任も社会的に取りざたされはじめ、Yahoo!オークションにてプレミアムショップとして登録された業者を利用し詐欺に遭った被害者573人がヤフーにも管理責任があるとして、約1億円の損害賠償を求める訴えを名古屋地方裁判所に起こしている。
2006年12月には、Yahoo!オークションストアに登録していた「家電ドットコム株式会社」が落札金額を受け取っておきながら商品を発送しないという詐欺被害が急増。落札件数は1,713件、落札総額は約1億9,440万円に達するとしている。そのうち、被害を受けたのは989件、被害総額は約8,786万円としている。Yahoo!側は被害に対して補填すると説明した。
オークションサイトの相互評価システムを悪用したケースも見られ、悪質な出展者が複数取得した自分の・またはフィッシング詐欺等で盗んだアカウント(利用権)を使って、あたかも優良な出展者であるかのように自己評価を上げたりした事例では、数多くの優良な取引実績のある出展者だと誤認、騙されるケースも出ている。
なお、このようなケースでは
- 評価が書き込まれている時間が、不自然な時間帯に集中している(特に平日の昼間が多い)
- 評価内容の文章や評価者の自己紹介プロフィールに不自然な点が見られる
などの特徴も見られる。 日本においては海外、特にアジア地域からの出品者などは海賊版や転売詐欺などが多いとされる。
警察としてもこれら詐欺行為に対し捜査はしているものの、詐欺者が今まで取引されたオークション全てを調査しなければならず、多大な時間を掛けなければならないため、警察でもほとんど立件出来ないのが現実で、被害者も泣き寝入り状態であり、早急な法改正や本人確認の強化が必要だといわれている。
なお、不動産や中古車のように、高額でかつ購入後に公共機関への諸手続き(登記、ナンバープレートの登録、自賠責の加入など)が必要な商品のネットオークションでの購入については、出品者の対応以外にも、できれば現地に出向いて実物をチェックするなど慎重に進める方が良い。
ちなみに盗品が出品されているのに気付いた被害者が、オークションサイトの管理側に訴え出たにも拘らず管理側の対応が遅く、結局として盗品を出品した人物に逃げられてしまうとのケースも発生している。当初はそういった違法行為向けの対策が全くなされていなかったが、現在Yahoo!オークションでは知的財産権保護プログラムを導入している[4]。ただ、これらの対応も被害者が届け出て初めて判明するケースも多く、相当数の盗品・不正流通品などが出回っている可能性もある。
[編集] 転売行為
地域やイベント等での限定販売品や市場で品薄の商品などに対し、始めから転売目的で買い占め、オークションサイトで定価(または希望小売価格)以上のはるかな高額を付けて出品するダフ屋然とした行為もたびたび見受けられる。特に同人誌においてこの手の行為が横行している(本格的な同人ショップ[5]の店舗がない地方の在住者にとっては購入のチャンスという声もある)。
またプレイステーション3の発売に際してはテレビや新聞などのニュースなどで「転売目的で購入していった者も多い」とたびたび報道された[6]。こういった転売目的の人物は『転売屋』『テンバイヤー(転売+バイヤー)』とも呼ばれている。また、かつてTBS『がっちりマンデー』で転売を肯定し、奨励するかのような放送をしたこともある。
他にも、金品やその他のトラブルの原因となりかねないという理由から、以下のように製造者やイベントの開催者および権利者の判断で懸賞の賞品やイベントのチケットをオークションへ出品することを禁止するよう呼びかけているのもあるが、これらは私人間の契約の問題であり、厳密に言えば法的な問題が生じる可能性はあるものの、偽造や盗品などの法律上取引が禁じられているものではないため、実状は黙認され続けているという問題がある。
- コミックマーケットの開催1ヶ月ほど前から多数出品され、数万円単位で落札されるものが多い。
- 転売による金儲けだけでなく、ダミーサークルの発生も助長するという理由から、コミックマーケット準備会ではオークションなどへの転売を認めておらず、チケットには「本通行証の売買・交換(金品を代価とする譲渡)を禁止する」と記載されている。
- →コミックマーケット#サークルチケット転売問題・ダミーサークルの項に詳しい。
- 官庁からの各種招待券。
- 陸上自衛隊『観閲式』・『富士総合火力演習』・『体験搭乗』
- 海上自衛隊『観艦式』・『展示訓練』・『体験航海』・『体験搭乗』
- 航空自衛隊『航空観閲式』・『体験搭乗』
- 海上保安庁『観閲式・総合訓練』
- などの招待券が、インターネットオークションに複数出品され、当該の官庁には「高額で取引されている」などの苦情が寄せられている。また招待客と往復はがきにより抽選の結果当選した方々に送られる『駐車場券』も出品されたケースもあり、中には偽造された『駐車場券』もあったと言われている[要出典]]]。
- 企業との規約で売買を禁じている物(懸賞で得た非売品の景品、会員ポイント、オンラインゲームのβ版アカウント等)
近年では雑誌の懸賞でも掲載賞品全てにネットオークションへの出品等の「第三者への賞品譲渡の禁止」を応募条件として記載されていることが多く、違反した場合には当選取消と賞品の返還や価格賠償等の責任を負わされる。
これらの行為に対しては「行けなかったイベントの限定品や地方によって手に入りにくい商品が買える」と肯定する側もいれば「本来購入を望む者や地方在住者に商品が適正な価格で行き渡らず、暴利を助長する」と非難する側もいるため、賛否両論に分かれている。
[編集] 個人情報の漏洩
オークションに参加すると取引相手に相当量の個人情報を開示する必要性が出て来るため、どうしても個人情報が漏洩する可能性が発生してしまう。取引がうまく進まなかった場合などに、匿名掲示板に取引相手の個人情報を報復的に書き込む者すらいる。ただ日本ではプロバイダ責任法もあるため、誹謗中傷などを働いた場合に、逆に報復を行った側が訴訟を起こされ更に苦境に立たされる可能性もある。
こういった問題は個人情報保護法の施行にも伴い個人情報漏洩に対する一般の警戒心もあり、これに対応した当事者間の連絡や輸送・決済サービスも登場してきている[7]。
[編集] RMTとネットオークション
その一方欧米を中心として、MMORPGなどのアイテムをオークション等で売買するリアルマネートレーディング(RMT)(実際の通貨でオンラインゲーム上のアイテムを売買する行為)が盛んに行われている。これらでは専業ゲーマーもいると見られているほどで、毎日のように架空の物品であるゲームアイテムの売買が行われ、中には「ゲーム上の架空の島」を26,500ドルで落札というニュースも報じられている。
ただその一方で、RMTに絡むトラブルも後を絶たない。これらゲーム上のアイテムは、その画像の著作権はゲーム会社に在るのでオークションサイト上に表示させられないし、その商品となるアイテムも、単にゲーム会社が管理するサーバ上のデータに過ぎない。このため「商品がある」という出店者の言葉を信じるほか無い。
出展者の言葉を信じて代金を振り込み、ゲームに接続して指定された引渡し場所(ゲーム上の仮想現実的な空間である)にて、待てど暮らせど出店者が現れない…などというトラブルも報告されている。
- 詳しくはリアルマネートレーディングの項を参照されたい。
[編集] 社会貢献とネットオークション
ネットオークションについてはとかく問題点が強調されがちであるが、良い面としてはチャリティーオークションなども開催され、著名人が自身の所有物を出品したり、貴重な物品が善意で寄贈される・関係者が寄付を募る代わりに学術上の命名権を商品として出展するという形で競売することにより社会貢献を行ったり、自然保護活動の資金が集められたりもしている。
この他には2004年度よりYahoo!と東京都が共同して都税の滞納者から差し押さえた自動車・宝飾品などの資産をYahoo!オークションにて競売を行ったり、コレクターの間でも貴重なコインと注目度の高い種類の物で、所有権が国にある貨幣を出展し、その収益を特別に歳入として扱うことで国庫を潤したりといった、社会貢献の場としても役立っている。
近年では更にこの方向性は進歩しており、都道府県や市町村などの地方公共団体が税金の滞納者から差し押さえた財産などを公売する際にネットオークションのシステムを利用してのサービスが展開されている[8]。
[編集] 通信販売とネットオークション
ネットオークションサイトは、電子ショッピングモールのような形での小売業者による通信販売用に利用されることもある。
これらでは独自に電子ショッピングモールの決済システムを持たないサイトでも、オークションサイトの提供するシステム等により、決済しやすいという特徴があり、また自サイトへ宣伝活動などを通して客を誘導しなくても、客の側から商品を検索して探し当ててくれる率が高くなる(特にオークションサイトでは、そのシステム上で扱う出品物別に細かくカテゴリーが分けられている事が多い)ため、宣伝広告費を削減できるメリットがある。
その一方で消費者側にとっても、店舗の客が残した評価の履歴があるため、客観的にその商店が信頼できるかどうかを判断する材料となる。サイトによっては先に挙げたサイト運営側の責任もあって、不誠実な出品者により落札者が損害を被った場合に、これを保証する制度を持つところもあるため、初めての業者を利用する際の、通販(特にオンライン通販)にありがちな不安を解消することもできる[9]。
[編集] 脚注
- ^ 「米国でネットオークションが下火に かつて花形だったオークション事業をイーベイは再生できるのか?」『日経ビジネスオンライン』日経BP社、2008年6月12日付配信
- ^ ヤフー、オークション手数料5%に値上げ、システム面の増強図る - マイコミジャーナル(2006年4月19日)
- ^ 2006年9月30日に行われた『日本エアコミューター(JAC)・沖永良部空港発鹿児島空港行YS-11最終便搭乗券』1枚が、2ヶ月前の発売開始日7月30日後に出品されたことがある。しかし、インターネットオークション運営会社とJACの協力で出品から強制削除されたうえ、当該の搭乗券は「無効扱い」にされた。なお出品時の価格は「10万円」だったといわれている。
- ^ Yahoo!オークション - 知的財産権保護プログラム
- ^ 厳密な定義が敷かれているわけではないが、コミックとらのあなやメロンブックス程度の規模を有する店舗で、かつ同人誌に適正な実売価格が設定されているショップを指す(特に秋葉原のショップにおける実売価格を適正価格の基準とすることが多い)。
- ^ 2007年1月頃から品薄が解消される方向へ向かい、現在はかえって供給過多に陥っており、希望小売価格通りの価格で販売されている。
- ^ 例えば楽天市場では2006年秋より郵政公社と共同で、楽天IDのみでエスクローサービスの郵便物が届くサービスを開始([1])しており、物品の売り手・買い手双方が相手側に住所が知られることのないようになっている。
- ^ Yahoo!Japanインターネット公売
- ^ なお日本では、個人が自身の所有物を中古品として売買する場合は特に問題無いが、業務として中古品を購入する場合には、古物商として公安委員会に申請し、許可を受ける必要がある。その場合は取引の際に古物商登録(許可)番号を客に提示しなければならない。