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日本の書道史 - Wikipedia

日本の書道史

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

日本の歴史

橘逸勢筆

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日本の書道史(にほんのしょどうし)とは、有史以来、現在までの日本における歴史である。本項では時代ごとに、その背景、書風、筆跡書人、師弟関係、組織、教育など書に関連した事跡を記している。

目次

[編集] 飛鳥時代

日本の書道は漢字の伝来に始まる。漢字が多く用いられるようになったのは仏教の伝来以後と見られ、聖徳太子自筆の「法華義疏」四巻が、現存する書跡では最も古い。

この時代の筆跡

[編集] 奈良時代

この時代の書風は、六朝風の外に、書風が行われ、仏教興隆に伴い写経が流行した。また、律令制度下の教育機関である大学寮書博士という役職が設置され、後に「書道」と呼ばれる学科が形成されたが、早い段階で衰退している。

この時代に書名のあった人物

詳細は日本の書家一覧#奈良時代を参照

この時代の筆跡
  • 紫紙金字金光明最勝王経(国分寺経)
  • 和銅五年長屋王発願大般若経
  • 聖武天皇勅願一切経
  • 光明皇后発願一切経(五月一日願経)
  • 称徳天皇勅願一切経(神護景雲経)
  • 過去現在因果経(絵因果経
  • 小治田安万侶墓誌
  • 石川年足墓誌
  • 多胡碑
  • 仏足跡歌碑(薬師寺
  • 多賀城碑
  • 興福寺観禅院鐘銘
  • 金光明四天王護国之寺門額(東大寺
  • 唐招提寺門額

[編集] 平安時代

[編集] 初期

『風信帖』(部分) 空海筆
『風信帖』(部分) 空海筆
高野切 第1巻 巻頭 五島美術館蔵
高野切 第1巻 巻頭 五島美術館蔵

空海橘逸勢嵯峨天皇三筆をはじめ、名家が輩出し、名筆が遺存した時代である。最澄、空海、橘逸勢などが、804年に入唐したとき、唐の文化は既に衰頽期に入っていた。彼等は当時の新風を模せず、晋及び初唐の醇正な書道を自主的に摂取している。

この時代に書名のあった人物

詳細は日本の書家一覧#初期を参照

[編集] 中期

宇多天皇遣唐使を停められて以来、日本の書道は日本趣味を増した。中でも注目すべきは、かなの出現である。かくて、かなと漢字との調和が日本書道の大きな課題として提示され、これに応じて和様書道が完成された。その完成者は、小野道風である。彼の後、藤原佐理藤原行成と、いわゆる三跡が相継ぎ、黄金時代を現出したのが中期の特色である。

この時代に書名のあった人物

詳細は日本の書家一覧#中期を参照

[編集] 後期

平安時代末期は、武家の擡頭、貴族社会の混乱衰頽を反映して、優美なものから個性的意思的な傾向を示し、鎌倉時代へと移行する。

この時代に書名のあった人物

詳細は日本の書家一覧#後期を参照

この時代の筆跡
  • 西本願寺本三十六人集
  • 元暦校本万葉集
  • 平家納経
  • 扇面法華冊子

[編集] 鎌倉時代

寂室元光(1290-1367) 墨跡  (部分) 米元章風
寂室元光(1290-1367) 墨跡 (部分) 米元章風

この時代には和様書道の外に再び中国の代の書風が中国、日本両国の禅僧によって移入され、その簡明高雅な書法は力強く、和様書道界に清風を注いだ。

宋代の書風とは、中国の禅僧の間に流行した蘇軾黄庭堅米芾などの書を指し、晋唐の規範や伝統から解放された自由剛健なもので、奈良朝以来行われた線の軟らかい王羲之風のものとは全く趣きを異にするものである。

宋の滅亡後、が興ったが、禅僧の往来は益々頻繁であった。かくて禅林の書道は盛行したが、それとともに和様の諸流派、すなわち、行成を祖とする世尊寺流、世尊寺流から藤原忠通によって分かれた法性寺流、俊成流、定家流、伏見流、宗尊親王上代様尊円法親王を祖とする御家流が競い興っている。

この時代に書名のあった人物

詳細は日本の書家一覧#鎌倉時代を参照

[編集] 室町安土桃山時代

室町時代は乱世で、書道は和漢ともに頽れた。桃山時代に入り、古筆を愛玩賞味する風潮が興り、わずかに生気を保った。

鎌倉時代からこの時代にかけて、三筆、三跡を祖とする和様が現れているが、最も勢力があったのは、行成伝統の世尊寺流、忠通伝統の法性寺流、尊円法親王伝統の尊円流(御家流)、基春伝統の持明院流の四派であり、何れも行成の流れをくむものである。また、この時代の唐風の書を五山流と呼ぶ。

この時代に書名のあった人物

詳細は日本の書家一覧#室町・安土桃山時代を参照

[編集] 江戸時代

蓮下絵和歌巻  本阿弥光悦   (部分)
蓮下絵和歌巻 本阿弥光悦 (部分)

江戸幕府の文教政策によって書道界にも革新の風が起こり、唐様、和様に大きな変化があった。

[編集] 唐様

唐様は黄檗僧の書風、文徴明米芾趙孟頫、祝允明、董其昌などの書風が、主として武士、漢学者、僧侶の間に用いられ、黄檗僧の中で特に隠元隆琦木庵性瑫即非如一の3人は、黄檗の三筆と称された。江戸末期には市河米庵巻菱湖貫名菘翁の3人の書名が高く、幕末の三筆と称され、武家や儒者に信奉者が多く、特に江戸の市河米庵は諸大名にも門弟があった。巻菱湖、貫名菘翁らはの書風を学ぶ晋唐派で、市河米庵などは派であった。この二派の流れは明治時代になってからも続いた。

この時代に書名のあった人物

詳細は日本の書家一覧#唐様を参照

[編集] 和様

和様は御家流持明院流、賀茂流などが、主として歌人、公卿、国学者に愛好された。近衛信尹本阿弥光悦松花堂昭乗の3人は、寛永の三筆と称された。

この時代に書名のあった人物

詳細は日本の書家一覧#和様を参照

[編集] 明治時代

[編集] 和様から唐様へ

江戸時代までの書風は和様と唐様に二分されていたが、この時代の実権者のほとんどが漢学の素養があったことから唐様の書風に傾いていった。その主流は晋唐派と明清派の2つの流派であり、その中で菱湖流が盛り上がりを見せた。

菱湖流

巻菱湖の書風を菱湖流と称し、欧陽詢の書法を取り入れた新鮮で明るい書風と菱湖の知的な明快さが、明治維新の新興の感覚に受け入れられ、明治政府の官用文字は御家流から菱湖流に改められた。やがて菱湖の楷書は益々人気が高まり一世を風靡した。菱湖の門弟として中沢雪城が師風をよく継承し、のちに巌谷一六西川春洞などの大家を輩出する。また、菱湖の門弟の巻菱潭が習字教科書の執筆者になるなど、菱湖流は主に教育面と実用面でその後も貢献する。

[編集] 六朝書道

楊守敬の渡来とその影響

明治13年(1880年)楊守敬清国駐日公使何如璋の招きで六朝碑帖13000点を携えて来日し、4年間在留した。この出来事は、それまで貧弱な版本を頼りに研究するより他に方法のなかった日本の書道界に大きな影響を与えた。巌谷一六、松田雪柯、日下部鳴鶴の3人は常に楊守敬を訪ね書法を研究し六朝書道が盛んになった。こののち、日本人の渡清が相次ぐ。

木村重成碑(1886年)(部分)日下部鳴鶴書
木村重成碑(1886年)(部分)
日下部鳴鶴書

明治15年(1882年)中林梧竹が余元眉とともに渡清し、余元眉の師潘存(はんそん)を訪れ、続いて明治24年(1891年)日下部鳴鶴が渡清し、兪樾、楊峴、呉大澂などの大家を尋ねた。

徐三庚の影響

明治19年(1886年)秋山碧城(探淵、白巌ともいう)が渡清し、当時の大家徐三庚のもとで永年学び、師の書風を伝えている。西川春洞は日本で秋山碧城が清国から持ち帰った徐三庚の書を学び、徐三庚へ傾倒した。また北方心泉は明治10年(1877年)布教のために渡清し、その後も数度渡航し、兪樾と交わるが、徐三庚を最もよく学んだと言われる。
岸田吟香実業家)と円山大迂篆刻家)は明治12年(1879年)ごろ、吟香が上海に開いた商業上の関係を機縁として徐三庚に親近し教えを受けた。

[編集] 帖学派と碑学派

このように明治に入って清人の碑学派との交流により、北碑の書などを中心にこの碑学派に走る新しい思潮が生まれたが、これに同調しない動きもあった。成瀬大域長三洲、日高梅溪、吉田晩稼、金井金洞などは伝統的な書を守ろうとし、唐の顔真卿の書法(顔法)を主張した。そして長三洲の門弟の日高梅溪が国定習字教科書の執筆者となったことから、この時代の教科書の書風は顔法になっている。このような保守派と革新派との対立は、ちょうど清国の帖学派と碑学派に酷似している。

[編集] かな

庶民の間では依然として御家流が根強い人気であったが、かな古典に対する知識の普及に力を傾倒した「難波津(なにはづ)会」が明治23年(1890年)に三条梨堂、東久世竹亭、小杉榲邨、高崎正風、大口周魚、阪正臣、田中光顕らによって創設された。この「難波津会」の運動は、伝来の御家流に修正を加える努力を開始し、今日のかな書道の基底を形成する上に大きく貢献した。かな書道における重要な人々はほとんど「難波津会」に属していた。

[編集] 大正時代

この時代の書道界は、机上の研究から、小さいながらも一種のジャーナリスティックな世界をも形成し、盛んな論争が行われ、展示会が街頭に進出して一般の人に話題を提供するなど、次第に近代的な成長を遂げていく。

書道の刊行物の発行開始

書道思想の普及、宣伝の新たな方策として、明治時代末期から大正時代にかけて書道の刊行物が発行され、今日の書道界におけるPR運動の先駆けとなった。『談書会集帖』、『書苑』、『書道及画道』、『筆の友』、『書道研究』、『書勢』などが発行された。また前田黙鳳は不便な出版事情にあって貧弱な法帖出版から出発して、古典資料の普及にその半生を費やした。

[編集] 漢字

楊守敬より啓発を受けた日下部鳴鶴、巌谷一六の六朝書道、また、徐三庚に影響された西川春洞、さらに中林梧竹らの活躍によって、明治末から大正にかけての漢字書道界は華やかな動きを示している。

[編集] かな

かな書道界でも「難波津会」の啓蒙運動が清新な息吹を注入するが、その中で最も大きな出来事は、小野鵞堂を主柱とする斯華会の活動である。多田親愛、大口周魚などが純古典の領域で研鑽を重ねていたのに対し、鵞堂は平安朝の草がなを基底として独目の流麗なスタイルを案出し、婦人たちで習字をするものは、ほとんどこの組織で習うという盛況を呈した。

[編集] 昭和初期

書道展の開催や書道に関する各種の刊行物が多量に発行されたため、書道の普及、発達が著しい時期であった。大きな出来事は以下のとおりである。

  • 泰東書道院の結成
  • 東方書道会の結成
  • 大日本書道院の結成

詳細は書道展#書道団体、書展の歴史を参照

[編集] 学校の書道教育

近代書道教育の発展に貢献したのは小中学校の習字教科書の筆者ともいえる。その書風は明治初期の菱湖流から始まり、明治後期から顔法が昭和初期まで続いたが、このころから筆者である書家たちの古典研究が盛んになり、次第にその影響が現われてくるようになった。中でも学校の書道教育に影響力をもっていた丹羽海鶴がその教育基準を初唐の楷書におくことを提唱した。その結果、海鶴の門下である鈴木翠軒が国定の習字教科書の執筆をすることになり、この基準は確固たるものになった。明治初期からの習字教科書の筆者は以下のとおりである。

習字教科書の筆者 期間 区分
巻菱潭、村田海石、香川松石
玉木愛石、名和菱江、三宅盤鴻
西川春洞
明治5年 - 明治35年(1902年) 習字教科用図書検定制時代
日高梅溪 明治36年(1903年) - 明治42年(1909年) 国定一期本
日高梅溪、香川松石、板倉潭石 明治43年(1910年) - 大正6年(1917年) 国定二期本
日高梅溪、西脇呉石、山口半峯 大正7年(1918年) - 昭和7年(1932年) 国定三期本
鈴木翠軒、高塚竹堂
比田井小琴
昭和8年(1933年) - 昭和15年(1940年) 国定四期本
井上桂園 昭和16年(1941年) - 昭和20年(1945年) 国定五期本
金田心象 昭和22年(1947年) 文部省著作中学校用教科書

[編集] 戦後の書壇

戦後の日本の書道界の大きな出来事は以下のとおりである。

  • 日展(第五科)に書道が参加
  • 前衛書道の出現
  • 日本書道美術院が発足
  • 日本書作院の結成

詳細は書道展#戦後を参照

[編集] 主な人脈

[編集] 漢字

漢字書道界における巨星は日下部鳴鶴であった。六朝書道の主唱者であり、最も多くの門人を擁した明治書道界の啓蒙者であった。これに拮抗するものは西川春洞であった。今日の漢字書道界の基礎はほとんどこの2人を中心に造られたといえよう。

詳細は日本の漢字書家一覧を参照

[編集] かな

かな書道界における小野鵞堂もまた多くの門人を育成した。

詳細は日本のかな書家一覧を参照

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献


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