絵因果経
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絵因果経(えいんがきよう)は仏伝経典の代表的なものの1つである『過去現在因果経』の写本の一種で、巻子本の下段に経文を書写し、上段に経文の内容を説明した絵画を描いたもので、日本において平安時代以降盛行する絵巻物の源流とされている。
『過去現在因果経』は、釈迦の前世における善行から現世で悟りを開くまでの伝記を説いた経典であり、これに絵を描き加えて、釈迦の生涯を分かりやすく伝える手段として作成されたのが絵因果経である。絵因果経の遺品には奈良時代制作のものと、同様の形式で鎌倉時代に制作されたものとがある。前者を「古因果経」といい、遺品の少ない奈良時代絵画の研究上、重要な資料とされている。巻子本の下段に経文を書写し、上段にそれを絵解きした絵画を描く形式は中国にその源流があり、敦煌出土品などに類似の例がある。
絵因果経は、絵巻物の源流とも言われるが、絵因果経の画風はきわめて古風で素朴なもので、平安時代以降に盛んに制作された絵巻物と直接の影響関係があるかどうかについては疑問もある。
奈良時代の作例としては東京芸術大学本(国宝)、京都・上品蓮台寺本(国宝)、京都・醍醐寺本(国宝)、東京・出光美術館本(重文)などがある。『過去現在因果経』は全4巻の経典であり、絵因果経の場合は、各巻を「上・下」に分けた計8巻となっている。ただし、前述の諸本はいずれも1巻のみの残巻である。また、前述の諸本はそれぞれ画風が微妙に異なっており、別々のセットから1巻だけが残ったものと思われる。