認知的不協和
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認知的不協和(にんちてきふきょうわ、英:cognitive dissonance)は、人がある認知(知識、経験、行動など)と矛盾した認知に遭遇した時に感じる不協和(不快感)を解決しようとする心理状態、社会心理学用語。イソップ物語のすっぱい葡萄としても知られる。アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱された。
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[編集] 認知的不協和の仮説(フェスティンガー)
- 不協和の存在はその不協和を低減させるためになんらかの圧力を起こす。
- 不協和を低減させる圧力の強弱は、不協和の大きさの関数である。
[編集] 概要
- よく挙げられる例として、「喫煙者」の不協和がある。
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喫煙者が喫煙の肺ガンの危険性(認知2)を知る 認知1 私、喫煙者Aは煙草を吸う 認知2 煙草を吸うと肺ガンになりやすい
- このとき認知1と認知2は矛盾する。肺ガンになりやすい(認知2)を知りながら、煙草を吸っている(認知1)を行っているため、喫煙者Aは自分の行動に矛盾を感じる。そのため喫煙者Aは認知1と認知2の矛盾を解消しようとする。
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自分の行動(認知1)の変更 認知3(認知1の変更) 私、喫煙者Aは禁煙する 認知2 煙草を吸うと肺ガンになりやすい
- 一番論理的なのは認知1を変更することだ。「喫煙」(認知1)を「禁煙」(認知3)に変更すれば、「煙草を吸うと肺ガンになりやすい」(認知2)と全く矛盾しない。
- これが小さなことならば、例えば漢字を間違って覚えていたならば、自分の行動を変更することで足りる。しかし、喫煙はニコチンにより、中毒性があるため、禁煙行為は苦痛を伴う。喫煙(認知1)は変えることができない人も多い。そこで認知2を変える必要がある。
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新たな認知(認知4または認知5)の追加 認知1 私、喫煙者Aは煙草を吸う 認知2 煙草を吸うと肺ガンになりやすい 認知4 喫煙者で長寿の人もいる 認知5 交通事故で死亡する確率の方が高い
- 喫煙者で長寿の人もいる(認知4)を加えれば、肺ガンになりやすいと言っても人によると認知2を弱めることができる。または、交通事故で死亡する確率の方が高い(認知5)をつけ加えれば、肺ガンでの死亡による恐怖をやわらげることができる。
- なおアメリカの煙草会社はキャンペーンで以下のように主張する。煙草を吸う人が肺ガンになりやすいのは、煙草が肺ガンを誘引するのではない。ストレスを抱えている人がストレスを和らげるために煙草を吸うだけであり、ストレスが要因となって肺ガンを引き起こすだけで、煙草と肺ガンの間に因果関係はない。この主張は「煙草を吸うと肺ガンになりやすい」(認知2)を変化させることで、認知的不協和状態を解消させようというものである。
[編集] フェスティンガーの実験
- 上記の煙草の例は、対照実験をすることが難しいため、認知的不協和の提唱者フェスティンガーは実以下の実験を考案した。フェスティンガーは、単調な作業を行わせた学生に対して報酬を支払い、次に同じ作業をする学生にその作業の楽しさを伝えさせる実験を行った。
- この実験では、実際にはつまらない作業という認知と矛盾する楽しさを伝えるという認知から不協和が発生するが、報酬の多寡で楽しさを伝える度合いが異なる事を確かめた。
- 報酬が少ない学生は、報酬が多い学生よりも楽しさを伝える度合いが強く、割に合わない報酬に対して「本当は面白かったのかもしれない」と認知を変えて不協和を解決しようとする心理が強く働いているとした。
[編集] 関連項目