経度法
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経度法(けいどほう、the Longitude Act)とは1714年、海上の船舶の正確な経度を測定する方法を開発した者に懸賞金を与えることとした、英国議会によって制定された法律である。
緯度を測定することは、地平線からの北極星の角度が緯度とほぼ同じであることが知られていたため、比較的容易であった。地上においての経度はジョヴァンニ・カッシーニが木星の衛星食を観測することで計測が可能になっていたが、観測時間を長く要したため、実際上海上ではこの方法が使えず、海上の経度を正確に測定する方法は知られていなかった。
大航海時代を迎えて航海が増えるにつれ、船舶が海上での正確な位置、特に経度を把握できないためにおこる海難事故は深刻な問題になった。スペイン継承戦争を英仏両国が戦っていた1707年、仏領トゥーロン攻撃の帰途にあった英国海軍提督、クラウズリー・シャベルの艦隊は、霧のためシリー諸島沖で4隻が座礁し、1千人を超す犠牲者を出した。この事件によって航海時の海上での正確な位置の測定、とりわけ経度測定法確立の重要性の認識が英国内に喚起された。
英国議会はアイザック・ニュートンやエドモンド・ハレーをメンバーとする委員会を設立し、測定法につき研究させた。委員会は海上の揺れの中でも秒単位の精度が確保される時計があれば正しい経度が測定できることを明らかにしたが、当時の時計で海上で正確に時を刻むことができるものはなく、実践は不可能であった。正確な時計を用いる測定法は、船舶が出港時に母港の時間に時計を合わせ、その時計が正午を指したときの太陽の角度を測定することで経度が測定できるというものであった。
1714年英国議会は英国-西インド諸島間の航海で経度誤差が1度以内の測定方法を発見したものに懸賞金を与える「経度法」(海上経度測定問題解決のための懸賞案)を制定した。その内容は、船の位置の経度を1度(60分)以内の誤差で測定すれば1万ポンド、40分以内なら1万5千ポンド、30分(=1/2度)以内なら2万ポンドの懸賞金を与えるというものであった。
委員会が指摘した正確な時計による測定の他、月の運行表による測定法などが研究されたが、木工職人(Carpenterの訳語)のジョン・ハリソンが1759年にクロノメーターH4という高精度な懐中時計を完成させ、正確な時計による測定に貢献した。当初ハリソンの成果に委員会は疑問を示していたが、最終的にはハリソンに賞金を与えた。