紅皮症
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紅皮症(こうひしょう。英名Erythroderma)とは全身の皮膚の90%以上が潮紅して鱗屑(落屑)を伴う状態をさし、診断名というよりも一種の症候名である。剥脱性皮膚炎(はくだつせいひふえん)とも呼ばれる。
目次 |
[編集] 概説
以前は原因が分からない原発性紅皮症と、各種疾患に続発する続発性紅皮症に分別されていた。1970年代頃までの分類としては
- 原発性紅皮症
- 急性型:急性原発性紅皮症(急性良性剥脱性皮膚炎・再発性落屑性猩紅熱様紅斑)
- 亜急性型:ウィルソン・ブロック紅皮症(亜急性剥脱性皮膚炎)
- 慢性型:へブラ紅色粃糠疹(慢性剥脱性皮膚炎)
- ライネル落屑性紅皮症
- 続発性紅皮症
- 各種疾患続発性紅皮症
- 細網症性紅皮症
- 白血病性紅皮症
- 術後紅皮症
などに分かれていた。だが、現在では全ての紅皮症は先天性・後天性にかかわらず様々な原因によって皮疹が拡大・汎発化したことによって生じた症候群であるとされている。このため原発性紅皮症(急性原発性紅皮症、ウィルソン・ブロック紅皮症、へブラ紅色粃糠疹)という病名は現在まず使われることはない。ただし丘疹-紅皮症症候群の原因は不明である。
[編集] 症状
しばしば急激にあらわれる紅斑の拡大が初発症状である。おおよそ12時間から48時間までの間に全身に拡大、90パーセント以上の皮膚が熱感を伴うびまん性の鮮紅色の発赤に覆われる。腹部などのしわになる部分は発赤を欠き、正常な皮膚色となる。その後数日して多量の鱗屑を生じ、落屑する。かゆみを伴う。浮腫や掻痒の強い紅皮症は、かつてウィルソン・ブロック紅皮症と呼ばれていたものに相当する。
同時に全身症状として発熱(発汗異常や皮膚血流量増加などが関係する)、悪寒、全身倦怠感を伴い、これが持続すると爪の変形や脱毛を生じる。さらに表在性にリンパ節(特に鼠径リンパ節)が痛み無く腫脹する。このほか体温調節障害や脱水、感染症の誘発、全身衰弱をひき起こし、最悪のケースでは死亡する。色素沈着・皮膚萎縮を主体とし、鼠径リンパ節腫脹を伴い全身衰弱や脱水を起こして予後不良となる紅皮症は、かつてヘブラ紅色粃糠疹と呼ばれていたものに相当し、特有の疾患として認める主張もある。
[編集] 分類
[編集] 湿疹続発性紅皮症
紅皮症の原因としては最も多く、半数を占める。Tリンパ球機能異常や内分泌系機能障害、自律神経失調などを基礎に接触アレルゲンや不適当な外用療法、温泉療法などによって湿疹が汎発化した後に紅皮症化する。主な原因疾患としては接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、自家感作性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎、慢性光線過敏性皮膚炎などがある。
- アトピー性紅皮症:Hillが報告したものでヒル型紅皮症とも呼ばれる。通常の紅皮症と異なり、小児にも発症する。
- ライネル落屑性紅皮症:脂漏性皮膚炎の紅皮症化ともいわれているが、近年では補体第五成分(C5)の機能不全に伴う先天性免疫不全症候群という意見も多くなっている。しばしば生後6ヶ月以内の母乳栄養児に起こり、頭部や肛門周囲を初発として脂漏性の鱗屑が次第に全身へと拡大、比較的大きな落屑となる。下痢や粘液便などの消化管異常を伴う。予後良好といわれていたが、最近では消化管障害による全身衰弱や二次感染によって死亡する症例も多いといわれている。
[編集] 乾癬性紅皮症
尋常性乾癬が不適当な外用療法によって急性あるいは慢性に増悪し、全身へ拡大するが乾癬特有の皮疹が残っていたり、健康な皮膚が見られたりする。このタイプの乾癬性紅皮症は予後良好であるが、副腎皮質ホルモン剤の全身投与による誘発型や、急性汎発性膿疱性乾癬・関節症性乾癬からの移行型では発熱や全身倦怠感といった全身症状や皮疹が強く現れ、治療に抵抗する。
[編集] 先天性魚鱗癬様紅皮症
水疱型と非水疱型があり、前者は常染色体優性遺伝、後者は常染色体劣性遺伝の形態をとり特に後者は先天性魚鱗癬とも呼ばれる。両者とも出生時から症状があり、全身のびまん性潮紅と厚い鱗屑を有する。前者では水疱を生じるが成長するとともにこれらの紅皮症の症状は軽減し、代わって角質の異常増加(角化)が顕著となる。従って本来は遺伝性角化症に分類されるが、紅皮症の症状も有することから便宜上掲載する。
[編集] 薬剤誘発性紅皮症
紅皮症型薬疹とも呼ばれる。フェノバルビタール・フェニルブタゾン・ヒダントイン・イソニアジド・ペニシリン・クロルプロマジンなどの薬剤のほか、金・水銀・砒素などの重金属などによっても発症する。紅斑丘疹型薬疹などの発疹型薬疹から移行するケースが多い。症状は急激で発熱や浮腫を生じ、全身にすぐ拡大する。かつて急性原発性紅皮症や小水疱浮腫性紅皮症と呼ばれたものはこれに相当する。苔癬型薬疹からの移行型を除き、薬剤を中止すれば概ね軽快し予後は紅皮症の中では良好である。ただし中毒性表皮壊死症(ライエル症候群)では予後不良である。
[編集] 腫瘍随伴性紅皮症
原疾患としては血液悪性腫瘍が極めて多く、白血病(白血病性紅皮症)、悪性リンパ腫(細網症性紅皮症。菌状息肉症・セザリー症候群・ホジキン病など)から発症する。高度のリンパ節腫脹と激しい掻痒が特徴ではあるが、組織生検でも非特異的所見であり紅皮症から腫瘍性疾患が何であるかを推定することは困難である。
[編集] 感染症続発性紅皮症
代表的なのがブドウ球菌によるものであり、新生児・乳児を主に侵すブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)は紅皮症的な症状を起こす。このためかつてはRitter新生児剥脱性皮膚炎と呼ばれていた。またToxic-shock症候群でも紅皮症化を起こす。このほか免疫不全患者に発症した白癬・カンジダなどの皮膚真菌症や疥癬の重症型であるノルウェー疥癬でも紅皮症の症状を起こすことがある。
[編集] 丘疹-紅皮症症候群
紅皮症の中では未だに原因が不明の疾患である。高齢者を主に侵し全身に紅皮症の症状と丘疹が汎発化・混在する。丘疹部の組織には単球・好中球・好酸球が主体の細胞浸潤を認める。痒みや落屑は軽度。
[編集] その他
急性移植片対宿主病では全身の急速な紅皮症を起こす。これは1950年代大手術後にたびたび発生した術後紅皮症というものに相当する。また自己免疫疾患である落葉状天疱瘡やジューリング疱疹状皮膚炎でも紅皮症は起こり、落葉状天疱瘡では重症化すると全身が大量の鱗屑で埋もれてしまうという悲惨な外見となる。