神無ノ鳥
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ジャンル | ボーイズラブゲーム ショタゲー |
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対応機種 | Windows98/2000/Me/Xp Mac OS 9.1 日本語版以降 Mac OS X 10.1.3 日本語版以降 |
開発元 | すたじおみりす team L←→R |
発売元 | すたじおみりす |
人数 | 1人 |
メディア | CD-ROM |
発売日 | 2002年11月29日 |
価格 | 5800円(税別) |
対象年齢 | 18禁 |
必要環境 | Windows 版 PentiumⅡ 300MHz以上(500MHz以上推奨) 64MBメモリ(128MB以上推奨) ハードディスク1.5GB以上 640x480ハイカラー Macintosh 版 PowerPC G4 400 以上搭載機種 640x480ハイカラー 128MBメモリ(150MB以上推奨) |
神無ノ鳥(かんなぎのとり)はすたじおみりす team L←→R制作著作のボーイズラブゲームである。ショタゲーにも属する。人間の生死を扱った、独特の宗教観とも言うべき世界観が全編を支配する特徴的な作品であり、いずれのルートを辿ってもメインキャラクターの誰かが必ず死ぬことから鬱ゲーと称されることもある[要出典]。amazon.co.jpも含めて、本作はしばしば「神無ノ島」と誤植されるが、これは誤りである。
目次 |
[編集] 「神無ノ鳥」について
本作は、特有の用語や世界観を持つ。
「神無ノ鳥」とは、本作における死神の呼称である。神無ノ鳥は、いわゆる霊界にあたる「神無山(かんなぎさん)」に住まい、人間から見ると特異な衣装を纏う少年の姿をしている。しかし、彼らの姿を人間が認識できるのは死が迫ったときなど、ごく一部に限られる。少年の姿とは言っても、神無ノ鳥はその役割を終えたと認められるまでの極めて長い間存在、すなわち人間の概念でいうところの「生存」をする。個々の神無ノ鳥が、その役割を終えるべきかどうかを判断するのは、常闇の間(とこやみのま)にいる「あの方(あのかた)」と呼ばれる存在であり、これは神無ノ鳥たちを取り締まる地位にある。
「神無山」は石を積み重ねて造った複数のフロアから成る迷路のような構造を持ち、無数の部屋が存在している。この一つひとつの部屋が、基本的には個々の神無ノ鳥たちの住処となっており、常闇の間もこれらの部屋のひとつになる。常闇の間と、その主である「あの方」は人間の魂を浄化し、輪廻転生を司る。
神無ノ鳥はその名の通り、個々が鳥の名前を持つ。また、本作では人間の魂も鳥の姿をしているとされる。人の魂は、通常は白い羽根をしているが、死が近付くにつれ赤くなってゆく。羽根が真紅に染まったとき、その人間は死亡し、神無ノ鳥によって肉体から取り出され、「あの方」の待つ常闇の間へと連れていかれることとなる。こうして「浄化」された人間の魂は前世の出来事を忘れ、誕生とともに新たな人生を歩み出す。
[編集] あらすじ
主人公・イカルは人間の死を受け入れられず、これまで一度も魂の回収を果たせていない「変わり種」の神無ノ鳥であった。イカルに対して「あの方」は最終宣告を放つ。それは、1ヶ月後に事故死する琉宇という少年の魂を回収せよ、もし今回も回収できなかった場合には次は無い、というものだった。1ヶ月の間は特にすることもないため、琉宇なる少年を下見しに人間界に降りてくるも、その中でイカルは、死神には有り得ない、人間たちとの絆を紡いでゆく…。
えんどコイチの『死神くん』の、特に最終回に対するオマージュ的な作品とも言える内容になっている。
[編集] ゲーム内容
基本的にコマンド選択式分岐の、アドベンチャーゲームのセオリーに則った作りをしているが、選択肢を一つでも誤ると正解ルートに辿りつけないなど、フラグ面ではかなりシビアである。また何といってもそのテキスト量は特筆すべきボリュームであり、メッセージスキップを行っても新たなルートを辿ろうとすると、ボイスを全て再生するならばそれぞれ半日を要する大長編物でもある。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
個々のルートではそれぞれの人物と主人公イカルとの関わりを機軸として同一時間の流れにおける並行線上の物語が展開され、その人物の真相が明かされてゆき、その中で、イカル自身も含めて別の登場人物への新たな謎と伏線が提示される。ゲームとしてのシナリオを全てクリアすれば全員の秘密が明らかになるが、更に隠しシナリオの選択が可能になり、ここでは物語全体を被う、数百年単位の伏線が解明される。
[編集] 登場人物
[編集] 神無ノ鳥
- イカル(声:鈴村健一)
- 本編の主人公。神無ノ鳥としては有り得ない、人間味に満ちた心の持ち主であり、人の死を受け入れることができない。それ故に、生まれてから、人間の時間では気の遠くなるような年月を存在してきたにも関わらず、これまでに一度も魂の回収に成功していない。
- 「イカル」の名前はスズメ目アトリ科のイカルに由来する。
- レンジャク(声:緑川光)
- 神無ノ鳥の優等生。無口で冷静沈着。任務執行、すなわち魂の回収という職務を完全なまでに遂行する。一方でイカルを気遣う配慮も持ち合わす。「あの方」とは関係を持っているが、それが何を意味するのかをレンジャクは理解していない。
- 「レンジャク」の名前はスズメ目レンジャク科のレンジャクに由来する。
- ハッカン(声:遊佐浩二)
- ひょうひょうとした、半ばいい加減な性格にも見受けられる神無ノ鳥で、冗談を言いイカルをからかっては喜んでいる。イカルの兄貴分。衣装に凝る趣味があるらしく、イカルが下界に降り立つ際に着る、いわゆる「人間の服装」はハッカンから借りたものである。何故かほかの神無ノ鳥の知り得ない情報を身に付けていたり、自分の部屋以外は開けられないはずの神無山であるのにイカルの部屋に入り込んで来たりと、奇妙な技術を有する。全編の真相を知る者。
- 「ハッカン」の名前はキジ目キジ科のハッカンに由来する。
- あの方(声:平川大輔)
- 常闇の間にあり、巨木の姿として表される。無数に存在する神無ノ鳥の総元締めで、どの神無ノ鳥が誰の魂をいつ回収するかを取り決め、命令を出したり、回収された魂の浄化を行うなどを担う。レンジャクと交わるときのみ、人のような姿に存在を集める。名前で呼ばれることは無く、彼が何者であるのかを知る神無ノ鳥は、ハッカンを除くと一人もいない。イカルは「あいつ」と呼び、一方的な態度に反発を感じている。なお、エンディングでは「主」という名で表される。
[編集] 人間
- 綿貫 琉宇(わたぬき るう)(声:山口勝平)
- 当人は知る由もないが、1ヶ月後に死亡する予定の少年。優しい心の持ち主だが、気が弱く、自分で物事を決めることができない。後述のハムスター、みりすの口から、自分の本音をしゃべらせている。家庭内の事情から深町の家で暮しているが、そうした性格から、転校して来た今の学校にもあまり通うことはなく、クラスメートも彼のことをあまり知らない。
- 深町 康哉(ふかまち やすなり)(声:森川智之)
- 過去に恋人を事故で亡くしたという作家。しかしその当時のことをあまり語ろうとはしない。琉宇の母方の叔父で、家に住まわせている。琉宇よろしく、優しい心にあふれ、また、やや気の弱いところもある。死ぬ予定にはないにも関わらず、何故か神無ノ鳥であるイカルの姿を見ることができ、それがきっかけでイカルは「深町のおっちゃん」と呼び、彼の家に出入りするようになる。
- 真部 章仁(まなべ あきひと)(声:千葉進歩)
- 深町の死んだ恋人の弟。何があったのかを問い質そうと深町の元に度々訪れるが、その度に要領を得ない答えをする深町に苛立ち、激昂することもある。無愛想だが、自分に素直になれない、不器用な青年。彼もイカルの姿を見ることができ、実際、近いうちに自殺すると知らされる。
- 竹中君
- 琉宇のクラスメート。下見のためにイカルが人間界に降りてきたときに、彼が学校を休んでいた琉宇にプリントを持ってくる場面に遭遇する。もちろん死ぬ予定の無い彼にはイカルの姿を見ることはできない。展開によっては琉宇と仲のよい友人になる。
- 真部 恭子(まなべ きょうこ)(声:前川優子)
- 深町の恋人と言われている、真部がまだ幼い頃に死んだ姉。真部のもとを去るときに彼女は、自分には会わねばならない人がいると言い残していた。当時、恭子が深町と知り合っていた形跡は無く、まだ幼かったとは言え、今もなお、真部にとっては解せないことばかりである。二人がどのようにして出会い、そして二人の間に何があったのかを深町は語ろうとはせず、それが許せずに真部は深町に対して不信感にも似た感情を抱く。
- 紗(うすぎぬ)(声:原西きひろ)
- 神無ノ鳥が誰もいない常闇の間で「あの方」がたびたび口にする謎の女性の名前。それは遠い過去の盲目の少女であったという。
- 少年
- 冒頭でビルの屋上から飛び降り自殺を図ろうとする少年。魂の回収を担当させられていたイカルによって助けられたが、後に改めて列車に飛び込み、死亡する。
- 脇役ではあるが、本作における神無ノ鳥の役目と、人間の運命の不可避という根幹となる定義を位置付けるキャラクターと言える。
[編集] 動物
神無ノ鳥は前述のように、特に死ぬ予定にない人間には原則として見ることはできない。しかし動物は、死ぬ予定の有無に関わらず、彼らの姿を見ることができる。
- みりす
- 琉宇の飼っているペットのハムスター。「うじゅー」としか鳴けず、表向きにはこの言葉を理解できるのは琉宇だけ、ということになっている。しかし、みりすの言葉を借りて琉宇が自分の心を打ち明けているというのが本当のところである。
- なお、みりすとは本作を開発したすたじおみりすのマスコットキャラクターでもあり、ファンサービス的な存在ともいえる。
- リトル
- 路上に捨てられていた仔猫。展開によって琉宇のところでしばらく面倒をみることになったり、あるいは真部が拾っていくこともある。脇役ではあるが、閉ざしがちな登場人物の心を開き、イカルとの接点を築いていく存在。また、真部ルートで使用されるフォークソング調のテーマ音楽はこの仔猫とイカルを描いたものであることをコンポーザーのたくまるは述べている。
- なお、本作にはパッチをあてていない状態ではバグが存在し、ルートによっては真部が拾っていったにも関わらずいつのまにか琉宇が面倒を見ていたりという展開になることもある。
[編集] 音楽
- 挿入歌
- 「刹那の羽」
- 「魂のうた」
- 「ふたりの場所」
[編集] 本作に対する評価
本作に限らず、またコンピューターゲーム作品に限らず、いかなる分野であっても賛否の声はあるものだが、本作における反応ほど両面性のある声も珍しく、たとえファンであってもここは好きだがこの部分はどうしても受け入れがたいというものが少なくない。
物語が複雑な伏線によって絡み合い、大きな流れを構成している。このため、それだけでもゲーム全体のシナリオ規模が大きくなるのだが、加えて実質的ヒロインに相当する琉宇の性格ゆえと、その彼がペットのみりすを通じて心の内を話すという流れが大半を占めるために冗長とも思える、物語の極めて遅い展開に結び付いている。他の主なアドベンチャーゲームにもあるように、本作でも原則としていつでもセーブができる仕組みにはなっており、また、メッセージスキップも可能であるが、こうした機能を使っても一つのルートを解くのに相当の時間を要する作品は珍しく、それ故に閉口するユーザーも存在する。また、そうした事情から、本来ヒロイン役に相当する琉宇や、鳴き声が過度に目立つみりす、更に主人公イカルに対する悪い印象が植付けられてしまい、彼らに感情移入できないという声も相当の数に上る。更にアダルトゲームであるにも関わらず、Hシーンがなかなか始まらないこと、いざ始まってもそれまでの流れを踏まえたときに、やや唐突な印象が拭えないなどの意見もみられる。
その上、冒頭でも記したように、いかなるエンディングへ通ずるルートであっても、必ず誰かが死ぬ展開となる。人間の生死や、死神というテーマを扱ったゲームである故とは言え、プロローグで自殺する少年は別としても、メインキャラクターが必ず何らかの形で命を落とし、あるいは神無ノ鳥の場合は消滅させられるなどを余儀なくされ、これには主人公イカルも含まれる。加えて、琉宇の父親は琉宇に対して精神的な虐待を強いていることもあり、いずれの登場人物も何らかの形で心に負う部分を持っている。全編、どこをどう切っても痛々しく、女性向けゲームで最大の鬱ゲーと称されることもある。その切なさは賛否が大きく分かれ、せめてエンディングの1つくらいは誰も死なない展開があってもよかったのではないか、という声がある一方で、この稀に見る鬱振りへの感動から「神ゲー」と称える者もいる。
反面、緻密に張られた伏線や、次第に明かされるとともに新たに深まる謎の数々、最後に解明される衝撃の事実など、物語そのものに対する評価は極めて高く、コンシューマーへの移植を希望する声は非常に多い。
また、例外はあるものの平均的にみると、女性ユーザーと男性ユーザーとで好むキャラクターがほとんど真っ二つに分かれているという点も特徴的であり、特に琉宇は一般に女性受けが悪く男性受けが良い傾向が目立つ。本作の琉宇がきっかけでボーイズラブやショタに目覚める男性も少なくないほどである。これは女性的感覚と男性的感覚の相違を如実に物語っている現象としても注目すべき点であろう。
[編集] 豆知識
- 宗教的な概念
- 本作は人の生死や霊魂、輪廻転生といった宗教的なものをテーマとしているが、作中、ほこらが登場する以外には特に固有の宗教もしくは宗派を意味するものは出てこない。いわゆる「この世ならぬ者」は「あの方」を含めた神無ノ鳥しか登場せず、これ以外には固有の天使や神、あるいは精霊、悪魔といった類のものも現れない。しかし、本作で扱われる輪廻転生は、前世・現世・来世であっても人との繋がりは別の形で繰り返されるとされており、こうした要素は仏教、あるいは幸福の科学の教義に見出すことができる。
- 主人公たちの名前とアラビア語の関係
- 登場人物の章にもあるように、神無ノ鳥の名前は鳥のそれに由来している。ところで本編終盤ではハッカンが全ての真相を理解している者であることがわかり、彼が何者であるのかが明かされる。一方、そのハッカンはイカルを名前で呼ぼうとはしない。これも本編終盤になりようやくハッカンの口から、ある理由によってイカルの名前を呼ぶことに戸惑いを感じている事情が明かされる。それでもイカルは名前を呼ぶことを望み、訴える。本作のシナリオライターは恐らく知らないであろうし、全くの偶然でしかないが、アラビア語では「わかった」を意味する語が「حقا(Haqqan)」であり、「言え、呼べ」を意味する語も「イカル」と良く似た発音の「إقل(iqola)」となっている。
[編集] 外部リンク
- 神無ノ鳥(ラッセル特設ページ)