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神戸連続児童殺傷事件 - Wikipedia

神戸連続児童殺傷事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

神戸連続児童殺傷事件(こうべれんぞくじどうさっしょうじけん)は、1997年兵庫県神戸市で発生した連続殺人事件。加害者の犯行声明に書かれた仮名から別名『酒鬼薔薇事件』とも呼ばれる。

目次

概要

数ヶ月にわたり、複数の被害者が殺傷された事件であり、その被害者はいずれも小学生である。通り魔的犯行や遺体の損壊が伴なったこと、特に少年の頭部が「声明文」とともに中学校の正門前に置かれたこと、地元新聞社に「挑戦状」が郵送されたことなど、強い暴力性が伴なう特異な部分が多い事件である。

犯行の声明文から容疑者の少年Aを「酒鬼薔薇聖斗」と称したり、俗に「酒鬼薔薇聖斗事件」とも呼ばれる。

警察は聞き込み捜査の結果、少年Aが動物への虐待行為を度々行っていたという情報や、被害者男児と顔見知りであることなどから、比較的早期から少年Aに対する嫌疑を深めていたが、対象が中学生である為、極めて慎重に捜査は進められた。

一方マスコミは、頭部が発見された早朝に中学校近くをうろついていたとされる「黒いポリ袋を持った20代から30代の体つきのがっしりした男性」について繰り返し報道していた。

事件の経緯

第一の事件

1997年2月10日午後4時頃、神戸市の路上で小学生の女児2人がハンマーで殴られ、1人が重傷を負った。

「犯人はブレザーを着て、学生鞄を持っていた」と娘から聞いた女児の父親は近隣の中学校に対し犯人が解るかもしれないので生徒の写真を見せて欲しいと要望する。

しかし学校側は警察を通して欲しいとして拒否した為、父親は警察に被害届を出して生徒写真の閲覧を再度要求したものの、結局開示されることは無かった。

この事実により、犯人逮捕後学校側に対し「この時点で何らかの対応をしていれば第二・第三の事件は防げたのではないか」「結果的に犯人を庇っていた事になる」との批判が起こった。

第二の事件

3月16日午後0時25分、神戸市内の公園で、付近にいた小学生の女児に手を洗える場所はないかと尋ね、学校に案内させた後「お礼を言いたいのでこっちを向いて下さい」(少年Aの日記による)と言い、振り返った女児を、八角げんのう(金槌の一種)で殴りつけ逃走した。女児は病院に運ばれたが、3月27日に脳挫傷で死亡した。

更に午後0時35分頃、別の小学生の女児の腹部を、小刀(刃渡り13センチ)で刺して2週間の怪我を負わせた。

第三の事件

5月24日午後、神戸市に住む男児を殺害。男児は祖父の家に行くと言って昼過ぎに家を出た後、少年Aと偶然出会ったとみられる。少年Aは男児に対し「青い色の亀がいる」といって近所の高台に誘い出し、その場で絞殺して遺体を隠した。男児は少年Aの兄弟の友人であり、たびたび少年Aの家に訪れていた。

5月25日、少年Aは前日の殺害現場を訪れ、男児の遺体の首を金のこぎりで切断、頭部のみ家に持ち帰った。

5月26日、男児の行方不明事件として警察が捜索開始。

5月27日早朝、被害男児の頭部が市内の中学校正門前で発見。頭部には二枚の紙片(犯行声明文)が添えられていた。この中で少年Aは自らを「酒鬼薔薇聖斗」(さかきばら・せいと)と称し、捜査機関等に対する挑戦的な文言を綴っている。

警察は記者会見で「酒鬼薔薇聖斗」を「さけ、おに、ばら…」と文字ごとに分割して読み、何を意味するか不明と発表、報道機関も警察発表と同じ表現をしていた。テレビ朝日の特別報道番組でジャーナリストの黒田清が「サカキバラセイトという人名ではないか」と発言。これ以降、マスコミや世間でも「さかきばら・せいと=人名」という解釈が広がっていった。

6月4日神戸新聞社宛てに「酒鬼薔薇聖斗」から、赤インクで書かれた第二の声明文が届く。内容はこれまでの報道において「さかきばら」を「おにばら」と誤って読んだ事に強く抗議し、再び間違えて読んだ場合は報復するとしたものだった。また自身を「透明なボク」と表現、自分の存在を世間にアピールするために殺人を犯したと記載している。

6月28日、少年A逮捕。

その後の少年の処遇

  • 1997年10月13日、神戸家庭裁判所は少年Aを医療少年院送致が相当と判断。少年Aは関東医療少年院に移される。
  • 1999年、第二の事件で死亡した女児の遺族と少年A側で約8,000万円の慰謝料を少年A側が支払うことで示談が成立した。
  • 2001年11月27日、治療が順調であるとの判断から、少年Aは東北中等少年院に移る。
  • 2002年7月、神戸家庭裁判所は、少年Aの治療は順調としながらも、なお綿密な教育が必要として、収容継続を決定。
  • 2004年3月10日、成人した加害男性Aは少年院を仮退院し、社会復帰への道を踏み出した。この仮退院の情報は法務省を通じて、被害者の家族に連絡された。
  • 2005年1月1日、男性Aの本退院が認められる。
  • 2005年5月24日、被害者少年の八周忌。男性Aが弁護士を通じて、遺族に献花を申し出ていた事が明らかになる。遺族は「受け入れられない」として申し出を断った。
  • 2007年3月、第二の事件で死亡した女児へ、医療少年院退院後、初めて男性Aの謝罪の手紙が届けられた。しかし遺族は「必死に生きようとする姿が見えてこない」と賠償についても疑問を投げかけ、現在遺族への慰謝料が男性Aの両親が出版した本の印税の他、1ヶ月に男性Aから4,000円と両親から8,000円支払われていると報道された[1]

マスコミ報道の様子

被害少年の首が学校の校門に晒されるという猟奇的な事件であったことも手伝い、マスコミはこの事件の報道を連日行った。

  • 各マスコミは犯罪心理学者や作家にプロファイリングを行わせたが、犯人が未成年男子であるという分析をしたのはロバート・K・レスラーのみであった[2]
  • 少年A逮捕後、マスコミの取材はますますエスカレートした。逮捕の速報時、須磨警察署前のテレビカメラに向かって、地元の少年たちがはしゃぎ、笑顔でピースサインする姿がマスコミで猛烈に批判された。だが一部マスコミは部数や視聴率アップのために、少年Aの同級生から写真を高額な値段で買い取り、同級生や近所の家に押しかけ、電話をかけ、インタビューをしつこく求めていた。これらの恥ずべき行動を含めた取材合戦について、後に産経新聞が「命の重さ取材して―神戸・児童連続殺傷事件」(産経新聞大阪本社編集局)に詳細に書き残している。

少年の情報漏洩騒動

少年法61条で、「家庭裁判所の審判に付された少年犯の氏名、年齢、住所、容貌などが明らかとなる記事や写真を、新聞および出版物に掲載してはならない」と制定されている。だが審判に付される前を狙って、新潮社が少年の顔写真を掲載した雑誌を販売。これをきっかけに新潮社の雑誌を主に少年法で守られるべき少年の情報漏洩が続いた。

新潮社の写真週刊誌『FOCUS(フォーカス)』(1997年7月9日号)に少年の顔写真と実名が掲載されることが判明、ただちにマスコミがバッシング。販売前夜までにマスコミの名を語る脅迫電話により、大半の大手業者が販売を自粛決定するも、新潮社は回収せず販売することを強行。一部の書店のみに販売された『FOCUS』はすぐに完売。さらに翌日、『週刊新潮』が少年の顔写真を目隠し入りで掲載して販売。翌日、法務省が『FOCUS』および『週刊新潮』を回収勧告するが、新潮社は回収拒否。『FOCUS』発売直後、少年Aや犯罪を扱ったウェブサイトに顔写真が掲載された。そのウェブサイトは海外のものだったため、法務省は管理者が使用している国内のインターネットサービスプロバイダに削除要請を出したことで削除された。

この後、新聞各社は加害少年の誕生日を特定されないよう、誕生日の前後は年齢の掲載をやめていたが、一部テレビのワイドショーでは年齢を報道し続けたため、少年Aの誕生日が判明している。

また審判終了後、文藝春秋社の『文藝春秋』(1998年3月号)に、検事供述調書が掲載されることが判明。一部で販売自粛、各地の公立図書館で閲覧停止措置となる。後の法務省の調査で、供述調書は革マル派が神戸市の病院に侵入してコピーしてフロッピーディスクに保存していたことが判明。塩田明男が逮捕される。

さらに『FOCUS』で、少年の犯行を記したノート、神戸市教育委員会の指導要録など、マスコミに流出するはずのない資料が次々と掲載された。

少年Aは冤罪か

逮捕された少年Aが犯行を認め、関連する犯罪についても述べているものの、冤罪を指摘する声も上がっている。

その多くは被害少年の首を切断した際の警察の報告書に対する疑問点や、捜査の手法、判決を批判したものである。また、物的証拠に不足、不自然な点があるとも指摘される。

具体的には、多くの冤罪事件を手がけてきた後藤昌次郎弁護士や、『神戸事件を読む―酒鬼薔薇は本当に少年Aなのか?』(鹿砦社)の著者の熊谷英彦、少年Aが在籍していた中学校の校長(当時)の岩田信義らが少年Aは冤罪であると主張しており、特に熊谷の著作は冤罪主張派にとって重要視されている。冤罪説の指摘のうち主なものは以下である。

  • 第二の事件で殺害された女児の頭の傷は八角げんのうを左手に持って殴りつけてできたと考えられ、右利きの少年Aがやったとは考えにくい。
  • 第三の事件で殺害された男児の首はきれいに切断されていたが、遺体を冷凍して切断した可能性が考えられる。
  • 筆跡鑑定の結果は、声明文が少年Aによって書かれたものだと断定はできないというものであった。ただし、声明文は赤インクの太字と定規を使用したと見られる直線で描かれたもので、筆跡鑑定を逃れるためのものであると考えられるため、筆跡鑑定の結果自体は冤罪の根拠とはならないという意見もある。
  • 取り調べにおいて警察官は、筆跡鑑定によって声明文は少年Aによって書かれたものだという結果が出たかのように説明し、それを受けて少年Aは犯行についての自白を始めた。これは違法な取り調べであり、家裁審判においてこの自白調書は証拠として採用されなかったが、少年Aの弁護士は非行事実について争おうとはしなかった。
  • 少年Aの素行についての証言が逮捕直後から多数報道されていたが、調査してみると証言の多くは伝聞情報ばかりで直接の目撃証言が確認できない。
  • 判決文による非行事実は荒唐無稽で実行不可能な部分が多い。
  • 14歳少年に実行可能な犯罪とは到底考えられない。

少年Aの両親も冤罪と思っているのかという点については、実際、母が2002年5月に少年Aと面会した際「冤罪ということはありえへんの」と問いかけたが、この際少年Aは「ありえへん」と否定している。

事件の影響

この事件を教訓に、こども110番の家が設置されるようになった。事件の残虐性に加えて、容疑者として逮捕されたのが当時14才の少年(少年Aとする)であったことも、社会に強い衝撃を与えた。結果、この事件を境に、少年事件やそれに関連する法整備、少年事件における「マスコミの対応」などが大きく注目されるようになった。

また、テレビ番組の猟奇シーンが少年に与えた影響が取りざたされたため、猟奇シーンの含まれるテレビドラマ(『銀狼怪奇ファイル』、『エコエコアザラク』等)の放送や新シリーズ制作が取りやめになり、特撮番組において頻繁に見られたヒーローが切断技で怪獣の首をはねたり真っ二つにして倒す演出が自粛されるようになった。
これ以外に当時、社会現象となるほどの人気であったミニ四駆の全国大会「ジャパンカップ」の関西大会(地区予選)が、社会情勢を考慮したためとの理由で中止になっている。

事件の謎の部分

少年Aが逮捕されるまで、マスコミは「犯人は中年の男性」等、連日報道していた。そんな中には謎めいた部分もあり、未だに分かっていない。

  • 第三の事件で被害児童の頭部が発見された、5月27日早朝に中学校正面門を見下ろせる丘に「黒いポリ袋を持った20代から30代の体つきのがっしりした男性」の存在。
  • 第三の事件後、県内及び近隣府県(岡山県大阪府京都府奈良県和歌山県)の複数の自動車解体業者に「黒色の車を解体してほしい」と電話があったものの結局は来なかった、ある解体業者によると電話の相手は「車種はマスコミで流している、第三の事件現場付近で目撃された黒色の車種」を述べていた事。

これらは警察が少年Aに「自分には捜査の手が回ってない」との油断を与える為に流した偽情報の説や、マスコミが「犯人は少年の可能性」と流した場合、少年Aが逃亡や自殺する可能性を危惧して、意図的マスコミ向けに流した偽情報の説がある。

脚注

  1. ^「必死な姿見えない」須磨事件・加害男性謝罪文神戸新聞、2007年3月31日。
  2. ^ だがレスラーは犯人を14歳ではなく「16歳から23歳くらいの男性」と分析していた。

関連書籍

関連項目

事件そのものに対しての関連

その他

外部リンク


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