法の不遡及
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法の不遡及(法の不溯及、ほうのふそきゅう)とは、実行時に適法であった行為を事後に定めた罰則により遡って処罰すること、ないし、実行時よりも後に定められたより厳しい罰に処すことを禁止した、近代刑法における原則。「不遡及(ふそきゅう)」を「ふさきゅう」と呼ぶこともある。事後法の禁止(じごほうのきんし)あるいは遡及処罰の禁止(そきゅうしょばつのきんし)ともいう。 ただしこの原則は行為者の利益のためのものであるため、本人に有利になる場合はこの限りでは無い(例えば、行為後に法定刑が軽減された場合、軽い方の刑に処せられる。例としては尊属殺人罪の廃止、犯行時死刑適応年齢の16歳から18歳への引き上げが挙げられる)。
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[編集] 概要
刑法の自由保障機能(罪刑法定主義)の要請により認められた原則である。大陸法、英米法どちらにおいても採用された原則であり、フランス人権宣言第8条にその原型がある。また、アメリカ合衆国憲法第1条第9節ならびにドイツ連邦共和国憲法第103条2項に規定がある。
[編集] 日本
日本においても同原則は採用されており、憲法、刑法、刑事訴訟法にそれぞれ規定がある。まず、日本国憲法第39条前段に規定されている。この規定を受けて刑法第6条に犯罪後の法律によって刑の変更があった場合にはその軽い刑によって処罰するとの規定が設けられた。判決前に法改正によって刑が廃止された場合には免訴の言い渡しがされる(刑事訴訟法第337条第2号)。判決があった後に刑の廃止、変更または大赦があった場合にはそれを理由として控訴申し立てができる(刑事訴訟法第383条第2号)。また、再審事由ともなる(刑事訴訟法第435条)。
なお、日本においては判例は法源とはされないため、判例変更による解釈の変更は法の不遡及の問題ではない。しかし、理論上、違法性の意識の可能性の欠如による故意の阻却の問題や期待可能性の欠如による責任阻却の問題を生じうる。
[編集] 法の不遡及に反するという指摘がある近現代の立法例、裁判例
[編集] 韓国法
大韓民国においては、大韓民国憲法第13条1項において、罪刑法定主義が採用され、第13条2項において遡及立法による財産の剥奪も禁じられているが、以下の法律は韓国法において違憲の疑いがあると指摘されている。
[編集] 戦犯法廷
第二次世界大戦以前は国家機関として行為した個人には刑事免責が認められるとされていた(国家行為の法理)が、第二次世界大戦の敗戦国の指導者達には国家行為の法理は適用されず、犯罪者として刑事責任に問われたため、この処置は法の不遡及に反するという指摘がなされている。
[編集] 不作為責任
薬害エイズ事件で厚生省官僚の不作為責任が追及されたが、事件発生当時不作為が罪になるという感覚は存在しなかった。また、飲酒運転に対する世論が厳しくなるきっかけとなった事件が、その事件がきっかけで厳しくなった社会通念を基準に裁かれるなど、事件当時に存在しなかった裁判時点の空気や世論によって裁かれる例は非常に多い。