核燃料サイクル
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核燃料サイクル(かくねんりょう- )とは、鉱山からの鉱石の採鉱、精錬、ウランの濃縮、核燃料(燃料集合体)への加工、原子力発電所での発電、原子力発電所から出た使用済み核燃料を、再処理して、核燃料として使用できるようにすること、および放射性廃棄物の処理処分を含む、一連の流れのことである。通常は原子炉での発電については核燃料サイクルに含めない。鉱山からの鉱石の採鉱から核燃料への加工までをフロントエンド、再処理以降をバックエンドと呼ぶこともある。核燃料リサイクルや、原子燃料サイクルということもある。
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[編集] 概要
原子力発電所から出る使用済み核燃料は、「燃えないウラン」である非核分裂性のウラン238の比率が高いが、ウランから生成されたプルトニウムや、僅かながら「燃えるウラン」である核分裂性核種のウラン235も混じっている。このプルトニウムやウラン235を抽出し核燃料として再利用すれば、単に廃棄処分することに比べ多くのエネルギーを産出できる。また、使用済み核燃料の燃えるウランやプルトニウムの比率を下げることになるため、廃棄処分される使用済み核燃料の放射能を減少させることにもなる。更にウランは割合政情が安定した国に多いため、ウランを全面的に輸入に頼る国でもエネルギーセキュリティ上のリスクは少ないが、核燃料サイクルで核燃料の有効活用と長期使用が出来ればよりリスクを低減できることになる。
一方、核関連施設や運搬が増える為、特にプルトニウムを扱うために高いセキュリティが要求されるとの指摘もある。
なお、サイクル事業は濃縮事業、埋設事業、再処理事業、廃棄物管理事業に分けられる。
[編集] プルトニウムの使用法
プルトニウムの核燃料としての使用法は現在のところ2種類に大別出来る。一つはMOX燃料の形で軽水炉で燃やす方法であり、この方法は日本ではプルサーマルという造語で呼ばれている[1]。プルサーマルは1960年代に開始され、2002年時点で55基がプルサーマル運転の実績を持っている[2]。
もう一つは、高速炉(高速増殖炉を含む概念であるが、高速増殖炉のようにウラン238をプルトニウム239に転換しながらの運転を行わない概念も存在する)を使ってプルトニウムを燃焼させる方法である。高速炉を用いた核燃料サイクル計画は近年、研究開発が停滞していたが、2006年にアメリカが開始した国際原子力パートナーシップにはこれまでに日本を含む19ヶ国が参加を決定している。
プルサーマル、国際原子力パートナーシップの詳細についてはそれぞれの項目を参照のこと。
[編集] 現在の日本の核燃料サイクル政策
[編集] 核燃料サイクル政策の検討
2005年に「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」の見直しが行われ、以下の四つのシナリオが検討された。
- シナリオ1 全量再処理(現行路線)
使用済み核燃料は六ヶ所再処理施設で再処理を行う。処理能力を超えた分は中間貯蔵を経た上で同じように再処理を行う。
- シナリオ2 部分再処理
使用済み核燃料は六ヶ所再処理施設で再処理を行う。処理能力を超えた分は中間貯蔵を経た上でそのまま埋設して直接処分する。
- シナリオ3 全量直接処分
使用済み核燃料はすべて中間貯蔵を経た上でそのまま埋設して直接処分する。
- シナリオ4 当面貯蔵
使用済み核燃料はすべて当面の間中間貯蔵する。
なお、内閣府から2005年10月14日に発表された「原子力の研究、開発及び利用の推進(原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画)」の事後評価には、どのシナリオが最適であるかの結論が述べられておらず、わずかに原子力の推進にはプルトニウム、ウラン等の有効利用が適切であると触れられているのみである。
なお、シナリオ3およびシナリオ4は再処理を行わないという選択であり、これは事実上の核燃料サイクル政策の中止を意味する。
[編集] 現在の核燃料サイクル政策
上記シナリオ1から4までについて、10項目の視点から評価を行った結果、原子力委員会では、原子力政策大綱(2005年(平成17年)10月11日原子力委員会決定)において、「使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することを基本方針とする。」ことを決定しており、原子力政策大綱は、2005年(平成17年)10月14日、原子力政策に関する基本方針として閣議決定されている。[1]
[編集] 核燃料サイクル基地
この他、放射性物質等を陸揚げするむつ小川原港へは、専用道路が通っている。
[編集] 核燃料サイクルの系列
非核分裂性の元素から核燃料として使用できる核分裂性の元素へと転換するサイクルとしては、次の二つの系列が考えられる:
- ウラン-プルトニウム系列
- トリウム-ウラン系列
トリウム232(天然・非核分裂性)+中性子 → トリウム233 → プロトアクチニウム233 → ウラン233(核燃料)
現在実用化が研究されているのはウラン-プルトニウム系列が多い。トリウム系列については、 過去に、アメリカ合衆国エネルギー省のオークリッジ国立研究所(en:Oak Ridge National Laboratory)で1950年代から70年代中頃まで熔融塩炉(en:Molten Salt Reactor)による研究が行なわれ有望な結果を得た。 現在ではインドで重水炉による実用化研究が行なわれている。
[編集] 出典
[編集] 参考文献
【推進側の視点から】
【反対側の視点から】
- 高木仁三郎『核燃料サイクル施設批判』七つ森書館 (1991/01)
- 原子力教育を考える会『よくわかる原子力「核燃料は「リサイクル」できる?」』