時空の哲学
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時空の哲学(じくう-てつがく)とは、時間や空間の本質について、現代の物理学の知見などをふまえつつ、哲学的に考察するという領域であり、科学哲学における物理学の哲学の一分野である。
[編集] 時間と空間についての現代物理学の見方
時間は過去から未来へと続くひとつの構造体であり1次元座標で表される。この座標を表す物理量も時間と呼ばれる。 物理量としての時間はスカラー量であり、「長さ」「質量」「電荷」などとともに基本物理量のひとつである。時間を他の基本物理量と組み合わせて、速度、運動量、エネルギー、場といった別の物理量を導出している。 物理量としての時間は、その測定方法によって定義される。国際単位系では時間の基本単位として秒を定義しており、1秒は「セシウム133原子(133Cs)の基底状態にある二つの超微細準位間の遷移に対応する放射の周期の 9,192,631,770回にかかる時間」と定義されている(ISO 31-1)。
20世紀にいたるまで、ニュートンやガリレオといった偉大な物理学者もふくめ、ほとんどの人が、時間というものはだれにとってもどこでも同じだと考えていた。しかし、アインシュタインの特殊相対性理論によれば、時間の進み方は観測者の置かれた場所(慣性系)によって異なっている。また、時間は連続的なものであると一般に考えられているが、マックス・プランクは測定することのできる最小の時間単位があることを示し、これがプランク時間(光子がプランク長の距離を通過するのに必要な時間)と呼ばれる。
物理的空間は3次元座標で表される構造体である。空間内の2点間の隔たりは距離または長さと呼ばれ、基本物理量の一つである。物理量としての時間と同様に、距離もまたスカラー量であり、その測定方法で定義される。現在のISOにおける定義は、1メートルを「真空中を通る光が1/299792458秒の間に通過する距離」とするものである。これは真空中では光速度が座標系に関わらず一定であるという特殊相対性理論の基本原理をふまえたものである。
ニュートン以降20世紀にいたるまで、物理空間は三次元のユークリッド空間であると考えられてきた。しかし、相対性理論によってこの考え方は否定された。 まず、特殊相対性理論によって時間と空間は別のものではなく、統一的な四次元空間(ミンコフスキー空間)をなしていることが示された。時間の流れは慣性系によって違うが、ミンコフスキー空間上の「距離」は慣性系にかかわらず一定である。 さらに、一般相対性理論では、時空はユークリッド幾何学ではなく非ユークリッド的なリーマン幾何学に従うリーマン空間(より正確にはミンコフスキー空間を張り合わせた擬リーマン空間)とされた。
[編集] 時間と空間についての哲学的問題
こうした物理学の発展をふまえて、時空の哲学では以下のような問いが考察されている。
- 時間の反実在論ではジョン・マクタガートが有名。空間の関係説を唱えた哲学者としてはゴットフリート・ライプニッツやエルンスト・マッハが知られる。
- 時空が存在するとして、それは実体を持つ存在なのか。
- アインシュタインの一般相対性理論は時空を実体的に捉えるものと通常は理解され、もしそうならば実体説(substantivism)に立つことになる。時空の反実体説の側の論者としてジョン・アーマンなどがいる。
- 時空の構造がリーマン幾何学的であるというのは客観的事実なのか、それとも記述の仕方に相対的な単なる規約なのか。
- アインシュタインは一般相対性理論の時空がリーマン空間であることを客観的な事実と考えていたが、これを単なる規約と考える哲学者(規約主義者)も多い。 規約主義をとった哲学者としてアンリ・ポアンカレ、ハンス・ライヘンバッハなどがいる。
- 時間の向きを決めるものは何か(時間の矢)。
- 基本的な物理法則はすべて時間対称であるため、これらによっては時間の向きは定義できない。そこで、熱力学の第二法則を使って時間の向きを定義する考え方、宇宙の膨張を使って時間の向きを定義する考え方、量子力学における波束の収束を使って時間の向きを定義する考え方などが提案されてきた。
- 時間と空間が本質的には異ならないことが相対性理論で示されたことから、光速を超えて移動することで逆向き因果や過去へのタイムトラベルもできるのではないかという可能性が示唆された。しかし、タイムトラベルはやはり原理的に不可能だと考える論者もいる。
[編集] 文献
- イアン・ヒンクフス『時間と空間の哲学』村上陽一郎、熊倉功二訳、紀伊國屋書店 1979年
- 内井惣七『空間の謎・時間の謎』中公新書、2006年
- 橋元淳一郎『時間はどこで生まれるのか』集英社新書、2007年
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