Wikipedia:屋外美術を被写体とする写真の利用方針
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
この方針文書は、著作権の対象となっている著作物であって、一般公衆に開放されている屋外の場所、または一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置された美術の著作物について、その著作権法上の扱いについて説明するとともに、当該著作物を被写体とする写真をウィキペディア日本語版において利用する際に守るべき事項を定めたものです。この文書は、ウィキメディア財団のライセンス方針(2007年3月23日理事会決議。参考訳)に基づき、ウィキペディア日本語版における権利制限法理の適用方針(Exemption Doctrine Policy)の一つとして作成されたものです。
目次 |
[編集] 利用方針
[編集] 対象となる画像
本方針の対象となる画像は、以下の2要件を満たしたものです。
- 日本国またはアメリカ合衆国の著作権法の下で著作権の対象となっていて、かつGNU Free Documentation License(GFDL)またはGFDLと互換性を有するライセンスの下での利用許諾が得られていない著作物を被写体とする写真であること
- 被写体である著作物は、一般公衆に開放されている屋外の場所、または一般公衆の見やすい屋外の場所に、著作権者またはその許諾を受けた者によって恒常的に設置されている、美術の著作物の原作品であること
[編集] 画像利用の条件
本方針の対象となる画像をウィキペディア日本語版で利用するには、以下の条件をすべて満たさなければなりません。
- (解像度の制限)画像の縦横ピクセル数の積を310,000以下とする。
- (識別可能性)画像ページには、写真の著作物の著作権状態を表示するための著作権表示タグに加えて、{{屋外美術}}タグを貼付する。
- (出所表示)被写体である美術著作物の題号、著作者名、設置場所を画像ページに記載する。題号と著作者名が設置場所に表示されていない場合であっても、公表された文献に基づく調査を行い、それらが判明すれば記載する。一方、調査を行っても容易に判明しない場合は、記載する必要はない。また、著作者の意思により非公開としていると認められる場合には、記載してはならない。
- (記事内容の補完目的利用)画像は、被写体である美術著作物に密接に関連する事柄が記述されている1以上の記事(標準名前空間)で表示されなければならない。記事における画像表示は、画像のアップロード後すみやかに行い、将来、記事において画像を使用したいという漠然とした意思があるにすぎない状態では、画像のアップロードを避けること。なお、「美術著作物に密接に関連する事柄」を例示すると、概ね以下のとおりとなる。
- 美術著作物そのもの
- 美術著作物の著作者
- 美術著作物のモチーフとなっている人物、物
- 美術著作物が設置され、または描かれている土地、建造物、その他の物
- (最小限の利用)1つの記事で表示する画像は3つ以内とする。
- (目的外利用の禁止)標準名前空間以外には画像を表示させない。ただし、「新着画像ページ」に一時的に表示される場合、「新しい画像」や「秀逸な画像」として採択された画像をトップページなどに表示する場合を除く。
[編集] 違反時の対応
[編集] 本方針の対象外の画像である場合
上記「対象となる画像」の要件を満たさない画像は、本方針の対象外です。他の画像関連方針にしたがって問題点の有無を判断してください。{{屋外美術}}タグが貼付されていれば取り除いてください。
[編集] 利用の条件に違反している場合
本方針の対象となる画像が、上記「画像利用の条件」に違反して利用されている場合には、以下の対処を行います。
- 条件2に違反する画像は、ライセンス不明の画像として取り扱う。
- 条件3に違反する画像は、出典不明の画像として取り扱う。
- 条件1に違反する画像は、本方針違反を理由として削除対象となる。
- 条件4に違反する画像は、本方針違反を理由として削除対象となる。
- 条件5に違反している記事(標準名前空間)がある場合には、いずれかの画像を編集により除去し、本方針の対象となる画像を3つ以内とする。
- 条件6に違反しているページ(標準名前空間以外)がある場合には、当該ページから編集により画像を除去する。
本方針違反(条件1、4違反)を理由として削除対象となった場合、当該画像の投稿者の利用者ページにその旨を通知します。通知後、1週間経過しても違反状態が解消されない場合は、当該画像は削除されます。ただし、本方針違反の有無の判断に迷う場合は、通常の削除依頼をしてください。
[編集] 条件違反を理由として対処する前に
条件違反を理由とした対処を行う際には、以下の点にも注意してください。
- 誰でも、{{屋外美術}}タグの貼付、画像の出所情報の記載、名前空間への画像表示・消去など、違反状態の解消を目的とする編集をすることができる。
- 条件4違反への対処を行う際には、画像のアップロード直後である可能性も考慮し、性急な対処は避けること。
- 条件5違反への対処を行う際には、どの画像を残すかをめぐって編集合戦や論争が生じる可能性もあるので、十分な話し合いをすること。また、除去された画像が条件4違反となる可能性がある点にも注意すること。
[編集] 解説
[編集] 準拠すべき法律と方針
詳細はWikipedia:フリーでないコンテントの使用基準を参照
ウィキペディア日本語版は、ウィキメディア財団のライセンス方針(2007年3月23日理事会決議。参考訳)の趣旨にしたがい、サーバ所在地であるアメリカ合衆国と、アクセス元の多数を占めると考えられる日本国の著作権法に抵触しない方針を採用しています。また、財団理事会決議は、フリーではない画像(以下、非フリー画像)を利用する際の注意点として、アップロードされた非フリー画像は機械によっても識別可能とすること(決議2)、非フリーの画像の利用は最小限度にとどめ、百科事典の記事内容の補完などに目的を限定すること(決議3)などを、各国の著作権法とは独立して規定しています。
したがって、本方針も日米の著作権法および財団理事会決議に基づいて作成されています。
[編集] 著作物を被写体とする写真の法律上の扱い
[編集] 原則
日米いずれの国の著作権法においても、著作物を被写体とする写真は、被写体である著作物の複製物または二次的著作物として把握され、当該写真の利用に対しては、被写体である著作物の著作権の効力が及びます(日本国著作権法21条、28条、17 U.S.C. §102(a), §103)。したがって、日米両国の著作権法の下で、当該写真を被写体の著作物の著作権者の許諾を得ることなく適法に利用するには、両国の著作権法における著作権の制限規定に基づく必要があります。
ここで、「著作物を被写体とする写真」とは、著作物における表現形式上の本質的な特徴を、写真から直接感得できる程度の大きさ、位置、鮮明さにおいて、著作物が写りこんでいる写真をいうものと解します[1]。したがって、美術著作物がごく小さく、あるいは不鮮明に写りこんでいるに過ぎないために、写真を見ただけでは、美術著作物における表現上の特徴を判別できないような写真は、本方針の対象にならない点に注意が必要です。
次節以降では、屋外に恒常的に設置された美術著作物に関連する、日米両国の著作権法における権利制限規定について解説します。
[編集] 日本法における権利制限規定
日本の著作権法(昭和45年法律第48号)46条には、以下のような規定がみられます。これは、屋外が公共の場所であることに鑑み、著作権の制限の一態様として、著作権者の許諾なしに模写したり写真撮影したりすることを認めるものです。
(公開の美術の著作物等の利用)
第四十六条 美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所※に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合
※ 45条により「公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所」とされている。
本条文の解釈について、以下に簡単に説明します。
- 美術の著作物
- 原作品
- 被写体である美術著作物は、原作品である必要があります。「原作品」とは、著作者の思想・感情が第一義的に表現されている有体物をいいます。第二義的な複製物には、46条の適用はありません[5]。
- 被写体は美術著作物の原作品であるが、別の美術著作物の二次的著作物でもある場合は、46条にいう原作品に該当すると解します。たとえば、Aが著作者である絵画を元にして、BがAの許諾を得て彫像を作り屋外に恒常的に設置した場合、彫像を撮影してその写真を利用することに関してBの許諾を得る必要がないのは明らかです。これに対し、Aの許諾を得る必要があるか否かは、条文上明確ではありません。しかし、この場合は、AのBに対する許諾の過程で展示についても権利行使する機会があったはずなので、Aの許諾を得る必要はないと解されます。
- 前条第二項に規定する屋外の場所に
- 「前条第二項に規定する屋外の場所」とは、「公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所」(45条2項)をいいます。
- 恒常的に設置されているもの
- 次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる
- 屋外美術写真は原則として自由に利用できる一方で、その例外となる類型として1号、3号、4号が列挙されています。そのうちの4号は、専ら美術著作物の複製物の販売を目的として複製する行為を例外としています。たとえば、美術著作物をカレンダー、絵葉書などに複製して販売することは、著作権者の許諾が必要となります。このことから、日本法においては、屋外美術写真はフリーではないといえます。
[編集] 米国法における権利制限規定
米国の著作権法には、建築著作物の著作権の制限に関する規定(17 U.S.C. §120(a))はあっても、屋外の美術の著作物の著作権の制限に関する明文の規定がありません。したがって、米国法の下では、屋外の美術作品を撮影した写真の利用を正当化するためには、フェアユースの法理 (17 U.S.C. §107) によらざるを得ません。これは、美術の著作物が日本国内に設置されている場合であっても変わりません。
第107条 排他的権利の制限: フェア・ユース
第106条および第106A条の規定にかかわらず、批評、解説、ニュース報道、教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む)、研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェア・ユース(コピーまたはレコードへの複製その他第106条に定める手段による使用を含む)は、著作権の侵害とならない。著作物の使用がフェア・ユースとなるか否かを判断する場合に考慮すべき要素は、以下のものを含む。
- (1)使用の目的および性質(使用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的かを含む)。
- (2)著作権のある著作物の性質。
- (3)著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性。
- (4)著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響。
上記の全ての要素を考慮してフェア・ユースが認定された場合、著作物が未発行であるという事実自体は、かかる認定を妨げない。
※日本語訳は、社団法人著作権情報センターWebサイト(山本隆司・増田雅子共訳)による。
107条によれば、著作物の利用目的(1号)、著作物の使用量(2号)などがフェアユースの成立性に影響を与えることから、米国法においても、屋外美術写真はフリーではないといえます。
[編集] EDPの必要性
前節のとおり、ウィキペディア日本語版が考慮すべき日米両国の著作権法の下では、屋外美術写真はフリーではありません。したがって、ウィキペディア日本語版が屋外美術写真を受け入れるためには、日本の著作権法46条、米国の著作権法107条に基づく権利制限法理の適用方針(EDP)を定める必要があり(理事会決議6)、本方針がそれに相当するものです。
[編集] ウィキメディア・コモンズとの関係
[編集] 本方針の対象となる画像の受け入れ可能性
ウィキメディア・コモンズ(以下、コモンズ)とウィキペディア日本語版のライセンス方針の違いにより、本方針の対象となる画像の多くは、コモンズでは受け入れられません。
コモンズが受け入れる画像はコモンズにアップロードすることが推奨されていますが、コモンズが受け入れるか否の判断に迷った場合には、最初からウィキペディア日本語版にアップロードすることを推奨します。
また、コモンズに既にアップロードされている画像のうち、本方針の対象になるものは、今後削除される可能性が高いといえます。したがって、当該画像をウィキペディア日本語版の記事で利用したい場合には、コモンズの画像を直接呼び出すのではなく、当該画像をウィキペディア日本語版に再アップロードすることを推奨します。
[編集] 解説
コモンズのライセンス方針(2008年4月現在)によれば、コモンズは、アメリカ合衆国と著作物の本国(ベルヌ条約5条(4)に定義されている)の両国でフリーな素材のみを受け入れます。これは、アメリカ合衆国と日本の著作権法を考慮するウィキペディア日本語版の運用と異なります。
たとえば、本方針の対象となる画像のうち、米国法に基づく著作権が存続し、かつフリー・ライセンスの下での利用許諾が得られていない美術著作物を被写体とする写真は、被写体である美術著作物の本国や設置国がどこであるかにかかわらず、米国ではフリーではありません。したがって、コモンズでは受け入れられません。また、米国法に基づく著作権が消滅していても、その著作物の本国の著作権法の下で、屋外に恒常的に設置された美術著作物がフリーではない場合[9]、コモンズでは受け入れられません。
[編集] 脚注
- ^ 最高裁判所第三小法廷判決 昭和55年3月28日(パロディモンタージュ事件)
- ^ 中山信弘『著作権法』(有斐閣, 2007年), 74頁
- ^ 東京地方裁判所判決 平成11年3月29日(舞台装置事件)
- ^ 東京地方裁判所判決 昭和60年10月30日(動書事件)
- ^ 加戸守行『著作権法逐条講義(三訂新版)』(著作権情報センター, 2000年), 184頁
- ^ 加戸守行『著作権法逐条講義(三訂新版)』(著作権情報センター, 2000年), 284頁
- ^ 金井重彦、小倉秀夫『著作権法コンメンタール(上巻)』(東京布井出版, 2000年)、486頁(重田樹男執筆部分)
- ^ 東京地方裁判所判決 平成13年7月25日(バス車体絵画事件)
- ^ たとえば、ドイツの著作権法ではより広く自由利用が認められている(59条)。大韓民国の著作権法は日本法とほぼ同様の規定を持つ(32条(2))。一方、フランス法にはこのような場合に著作権の制限を認める規定がない。
[編集] 関連項目
- Wikipedia:著作権
- Wikipedia:画像利用の方針
- Wikipedia:画像
- Wikipedia:フリーでないコンテントの使用基準
- commons:Commons:Freedom of panorama(ウィキメディア・コモンズ)