妙本寺
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妙本寺 | |
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祖師堂 |
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所在地 | 神奈川県鎌倉市大町1-15-1 |
位置 | 北緯35度19分3.39秒 東経139度33分20.85秒 |
山号 | 長興山(ちょうこうざん) |
宗派 | 日蓮宗本山(霊蹟寺院) |
本尊 | 十界曼荼羅 |
創建年 | 文応元年(1260年) |
開基 | 比企能本、日朗(開山) |
札所等 | 日蓮聖人霊跡 |
文化財 | 銅造雲版(重文) |
妙本寺は神奈川県鎌倉市大町にある日蓮宗の本山(霊蹟寺院)。山号は長興山(ちょうこうざん)で文応元年(1260年)の創建。開基は比企能本、開山は日朗、十界曼荼羅を本尊とする。
目次 |
[編集] 歴史
現在妙本寺のある谷戸は、現在は比企ヶ谷と呼ばれ、鎌倉時代には比企能員(よしかず)一族の屋敷があった。比企能員は源頼朝の乳母、比企尼の養子であり、1180年以後は頼朝の信任を得て、御家人となった。源平合戦から奥州征伐まで数多くの功績があり、後に能員の妻は源頼家の乳母となり、その娘、若狭局(わかさのつぼね)は頼家の妻となり、頼家の子、一幡(いちまん)を生むなど、源氏とかなり深い関係を持つようになる。 このため、源頼朝の妻、北条政子の実家である北条氏は、次第に勢力を増す比企氏を危険視し、頼朝の死後は、いっそうその対立は顕著なものとなった。建仁3年(1203年)に頼家が病気で倒れると、次の将軍を誰にするかで、千幡(後の源実朝)を将軍にしようとする北条氏と、若狭局が生んだ一幡を将軍にしようとする比企氏の間で争いが起きた。能員は頼家と北条氏討伐を謀るが、察知され、北条時政の名越にある別邸で殺害されてしまう。 比企一族は、能員殺害後、比企ヶ谷の谷戸(小御所)に篭って北条氏らの軍勢と戦うが、敗れ、屋敷に火を放って自害した(小御所合戦、比企の乱、比企能員の変)。若狭局は、井戸(蛇苦止の井)に身を投げて自害し、一幡も戦火の中で死んだ。
比企ヶ谷での戦闘の後、比企能員の末子、能本は比企の乱が起きた時は2歳であった。生き残って京都へ行き、順徳天皇に仕え、承久の乱で順徳天皇が配流になると、佐渡まで供をした。幕府として見れば、能本は比企の乱での敗者側であり、また承久の乱での天皇方であったが、彼の姪にあたる竹の御所(源頼家の子)が4代将軍九条頼経(よりつね)の妻になったことから許されて鎌倉に帰った。文暦元年(1234年)に竹の御所は出産時に死去、その菩提を弔うために能本が法華堂を比企ヶ谷に建てたのが、妙本寺の前身である。能本は鎌倉で布教していた日蓮に帰依していたため、この法華堂は日朗が住職となり、以後日蓮宗の重要な拠点となった。日蓮入滅地池上本門寺と当山は両山一首制で一人の住職が管理していた。江戸時代には本門寺に住職がおり当山は塔頭常住院の住職が管理していた。両山一首制は昭和22年(1947年)まで続いた。江戸初期の弾圧までは日蓮宗不受不施派の末寺を多く抱えていた。26寺で末寺の68%を占めていた。
平成16年4月由緒寺院から霊蹟寺院に昇格。
- 当山79世加藤日暉上人は平成20年3月19日に御遷化されました。後任の貫首は大田区本妙院御住職早水日秀上人に決定いたしました。池上法縁五本山の一つ。
[編集] 寺宝
- 本尊 十界曼荼羅は、日蓮が池上宗仲邸(現在の本行寺)で臨終の際に枕元に掛けられたものと言われ、「臨滅度時の御本尊」と呼ばれ日蓮宗の宗定本尊。
- 釈迦如来像 竹の御所の供養堂であった新釈迦堂にあったもの。新釈迦堂は今はない。
- 木造日蓮上人像 祖師堂に安置。
- 銅造 雲版 国の重要文化財。
[編集] 境内
- 一幡の袖塚 比企の乱後、焼け跡の中からわずかに見つかったという袖をまつる。戦火の中、6歳で死んだ一幡の袖だという。
- 比企一族の墓 祖師堂横に並ぶ。
- 前田利家室塔 前田利家の妻、まつの供養塔と伝えられる大五輪塔。
- 蛇苦止堂 比企の乱で井戸に飛び込んで自害したという若狭局を祀る。自害した若狭局は、後に北条政村の娘に霊となって憑いたことから祀られた。
- 蛇苦止の井 若狭局が身を投げたという井戸
- 万葉集研究遺跡の碑 鎌倉初期に比企ヶ谷新釈迦堂で僧の仙覚が成した現在の万葉集研究につながる重要な研究を顕彰したもの。
- 祇園山ハイキングコース 裏手墓地から祇園山ハイキングコースの途中につながる。
- 祖師堂の前の海棠 初春(桜のあと)に咲く。女性をめぐって喧嘩していた中原中也と小林秀雄はここで和解した。
- 国木田独歩は「鎌倉妙本寺懐古」(1910年)という詩を作った。これには曲がつき、戦前の教科書に採用されて親しまれていた。境内の芙蓉の花が歌われている。
[編集] 国木田独歩の「鎌倉妙本寺懐古」
夕日いざよふ妙本寺/法威のあとを弔へば/芙蓉の花の影さびて/我世の末をなげくかな。
法よ、おきてよ、人の子よ/時の力をいかにせん/永劫の神またたきて/金字玉殿いたづらに/懐古の客を誘ふかな。
梢の鳩の歌ふらく/ありし昔も今も尚ほ/夕日いざよふ妙本寺/芙蓉の花の美なるかな。