大衆小説
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大衆小説(たいしゅうしょうせつ)とは、純文学に対して、芸術性よりも娯楽性・商業性を重んじる小説の総称である。「娯楽小説」「娯楽文学」「大衆文学」は同義語。「通俗小説」「通俗文学」とも呼ばれた。
[編集] 日本の大衆小説
坪内逍遙の『小説神髄』における「小説の主脳は人情なり、世態風俗これに次ぐ」という主張や、尾崎紅葉らの硯友社による文学の娯楽性の追及から、後の大衆小説の原型となる人情小説・風俗小説の流れが生まれた。
「大衆」文学という語の初出は、博文館発行の『講談雑誌』(1924年春の号)に使われた、「見よ、大衆文学のこの偉観」という惹句とされている。この造語により、それまで人情小説・風俗小説と呼ばれていたジャンルが、歴史小説、時代小説等を取り込んで、大衆小説として統合されることになった。
芥川龍之介らと共に『新思潮』を創刊した菊池寛が、通俗小説に新境地を見出し、文壇の大御所として後生の育成に努めることにより、大衆小説はその全盛期を迎える。
大衆作家は、新聞の連載小説や、『キング』『週刊朝日』といった大衆雑誌を活躍の場とした。
主な大衆小説の書き手としては、
- 時代小説の中里介山、白井喬二、林不忘、直木三十五、山本周五郎、柴田錬三郎
- 伝奇小説の国枝史郎、山田風太郎
- 風俗小説の永井荷風、黒岩重吾
- 歴史小説の吉川英治、山岡荘八、司馬遼太郎
- 探偵小説の江戸川乱歩、横溝正史
- 科学小説の海野十三
- 官能小説の川上宗薫
が挙げられる。上では便宜上作家を分類しているが、大衆小説家は幾つかのジャンルにまたがって作品を執筆するのが普通であり、上の分類も大雑把なものに過ぎない。
一般に大衆小説の作家やその作品は、同時代の純文学作家とその作品に比べ、不当に低く評価されがちである。しかし、大衆小説の持つ大衆小説ゆえの文学性が、同時代、あるいは後代の文学者に評価される例も、決して少なくはない。
現代では、自ら積極的に大衆小説作家を名乗る作家は多くない。しかし、それは大衆小説の衰亡を意味するのではない。時代小説や風俗小説を手掛ける作家自体は、現代でも数多く存在するし、探偵小説は推理小説、科学小説はSFに名前を変えてジャンルを存続させている。