図画工作
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図画工作(ずがこうさく)は、日本の初等教育における美術教育の科目で、中学校・高等学校の美術・技術に相当する。略して図工(ずこう)ともいう。
文部科学省の新学習指導要領によれば「表現及び鑑賞の活動を通して,つくりだす喜びを味わうようにするとともに造形的な創造活動の基礎的な能力を育て,豊かな情操を養う。」ことが目標とされる。
目次 |
[編集] 学習指導要領に見る図工教育の概要
[編集] 全体目標の概要
低学年・中学年・高学年の3段階に分けられ、発達段階に応じた学習目標が提示されている。活動内容は大きく「表現」と「鑑賞」に分けられる。両者を統合した全体目標は、3段階に分けて以下のように示されている。
- 低学年…表したいこと、つくりたいものを自分の表現方法でつくりだす喜びを味わうようにする。
- 中学年…豊かな発想や創造的な技能などを働かせ、その体験を深めることに関心をもつとともに、進んで表現する態度を育てるようにする。
- 高学年…造形的な能力を働かせるとともに、自らつくりだす喜びを味わい、様々な表し方や見方に触れ、創造的に表現する態度を育てるようにする。
このように、発達段階に応じた技能の蓄積と同時に、表現する喜びの享受と創造性の深化を目標としている。
[編集] 表現活動の概要
表現活動は図工教育の中心をなし、構想から作成までの全工程を指す。
- 低学年…材料をもとにした造形活動を楽しみ、豊かな発想をするなどして、体全体の感覚や技能などを働かせるようにする。
- 中学年…材料などから豊かな発想をし、手や体全体を十分に働かせ、表し方を工夫し、つくりだす能力、デザインの能力、創造的な工作の能力を伸ばすようにする。
- 高学年…材料などの特徴をとらえ、想像力を働かせて主題の表し方を構想するとともに、美しさなどを考え、創造表現の能力、デザインや創造的な工作の能力を高めるようにする。
このように、まず材料を中心とした表現活動を重視している。材料に応じた発想と技能の充実を図りつつ、目的に応じた作品の完成を目指すものである。
[編集] 鑑賞活動の概要
国民は芸術の生産者であるのみならず、芸術の消費者でもある。消費者として作品の理解を深めるために、鑑賞活動を盛り込んである。
- 低学年…かいたり、つくったりしたものなどを見ることに関心をもち、その楽しさを味わうようにする。
- 中学年…自分たちの作品や身近にある作品、材料のよさや美しさなどに関心をもって見るとともに、それらに対する感覚などを高めるようにする。
- 高学年…作品などを進んで鑑賞し、そのよさや美しさなどを感じ取り、感性を高めるとともに、それらを大切にするようにする。
このように、世に認められた芸術作品以上に、自分自身や身近な人々の作品への理解を深めることが主眼となっている。
[編集] 表現活動
図工教育の根幹を成す活動である。児童の知識の蓄積、身体技能の向上に合わせた素材・道具・構想・目的を提示してある。
小学生は6年間で著しく発達する。たとえば絵画項目であれば、児童画特有の観面混合やレントゲン画法が解消され、透視画法が使えるようになる。描画に用いる鉛筆やクレヨンの力加減が身について折らなくなる。視角の発達によって「空は青」「太陽は赤」などのパターン化された色使いが減少する。水彩絵の具で発生する滲み現象を逆に活用できるようになる。…などの変化が発達段階に応じて見られる。これを促す活動目標が設定されている。
また、「場や目的に応じた表現」を主眼とする。遊び道具であれば仕掛けや動きの工夫、展示物であれば保存性や仕上げの美しさ、小物であれば実用性など、目的に応じた工夫が施されるように、発達段階に応じた工夫が要求される。
[編集] 造形遊び
平成元年度指導要領から重要視されている表現活動である。身体の感覚器の発達も促すもので、材料への理解を深める全身活動が主体となる。特に低学年では生活科との連動が図られ、土地ならではの素材を得ることもできる。
具体的な活動としては、砂遊び(砂山つくり、トンネル、型抜き)・水遊び(水のお絵かき、船作り、色水遊び)・シャボン玉・落ち葉の造形などが低学年で行われる。中学年・高学年になると大掛かりなものとなり、かつては男子の典型的な遊びだった「秘密基地作り」を意図的に取り込むことがある。また社会科の歴史教材と組み合わせて竪穴式住居や貫頭衣の再現、実寸大の奈良の大仏の描画に取り組むケースもある。
伝統工芸との連携を図り、藍染・紙漉き・焼き物作り・一刀彫などの体験活動に発展させることもある。
[編集] 絵画・版画
立体彫塑の大量導入にともなって、減少傾向にある。その一方、歯の衛生週間・交通安全運動・火災予防週間・愛鳥週間などの行事と連動したポスター製作や読書感想画などと連動し、根強い人気がある。
低学年の間は、実際に目で見たものを表現する段階に達していない。大の字に四肢を広げた状態で「走っている」状態を表現していたり、正面向きの顔から鼻を横に長く伸ばすことで「横顔」を表現したりする観面混合の状態にとどまっていることがある。また、太陽は赤・空は青・雲は白と、色もパターン化されている。さらに陰影をつけるにも技量が到達していない。これらは図工教育のみならず、体育や理科による感覚器の発達や手の巧緻性の発達によって改善される。絵画表現活動はそれを実践的に促すものである。
なお、描画・版画に用いる画材や道具の使用時期については、学習指導要領では示されていない。クレヨンから水彩絵の具への転換、木版画と彫刻刀の導入といった具体的な転換点は教科書や各教育委員会のカリキュラムによって示される。
[編集] 紙細工
低学年の平面的な切り紙遊びから始まり、折り紙や箱作りなどの立体造形へと発展する分野である。この中で、はさみ・小刀などの工具、のりをはじめとする接着剤の導入が図られる。同時に表面へのデザインを付加することで、絵画分野との連動を図る。
[編集] 粘土細工
一般的に油粘土による反復した立体造形から入り、紙粘土など乾燥とともに作品の形が固定されるものへ発展していくが、益子・瀬戸・有田などの窯業が盛んな地域では、伝統文化の継承も兼ねて陶土を用いた造形に踏み込んでいる地域もある。立体造形に遷移するまでに、重心や強度を意識したり、芯を入れるなどの技量の向上を図る。
[編集] 木工・金工
美術分野よりも技術分野に特化したもので、拾った木片をそのまま接着する活動から始まり、鋸を使った加工、さらに高学年になると糸鋸を用いた曲線を活用した作品へと進化していく。金工は針金の屈曲を用いた簡単なもので、鉄板の折り曲げ加工などの複雑なものは、中学校での技術での学習になる。
これらの活動の中で、鋸・金槌・糸鋸・ペンチなどの簡単な工具の使い方を習得する側面を持つ。
[編集] 鑑賞活動
児童の特性として、表現する喜びが先行する傾向がある。芸術・技術の消費者として成長するために、鑑賞活動が行われる。発達段階に応じて、自分の作品から友達の作品、やがて先人たちの芸術作品へと鑑賞の対象を広げていく。自分の作品に関しては、製作時の思い出や作品の感想を振り返らせる手段が用いられる。友達の作品では、優劣の競い合いにならないことを前提として、優れた工夫や観点に気づかせることを主眼とする。先人の作品については、模写をして相違点に気づかせる手段もとられている。
鑑賞の場としては、高学年であれば美術館の見学が行われることもある。鑑賞の対象が身近な人の作品であるため、全学年を通して夏休みの作品展やポスター・読書感想画の掲示や教室展示が主な場面である。教室掲示は書写作品と並んで定番となっているが、児童の関心が長く続かないため、早めに差し替えることが留意される。また、いじめによる意図的な破壊にも注意を要する。