同音の漢字による書きかえ
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同音の漢字による書きかえ(どうおんのかんじによるかきかえ)とは、当用漢字に入っていない文字を含む漢語について、同じ音の漢字で書き換えを行うための指針に供するために国語審議会において、1956年7月5日に発表されたものである。
目次 |
[編集] 概要
当用漢字に含まれなかった文字を含む熟語は、別の言葉に言い替えるか、その文字の部分を仮名で書く(交ぜ書き)必要が生じた[1]。別の言葉を使うと意味合いが異なる場合があり、また、面倒であることからあまり実施されなかった。交ぜ書きも行われてはいたが、できるだけ漢字を使いたいという欲求が国民(特にマスコミ)にはあった。そこで、当用漢字に含まれない漢字を同音の漢字で書き換えるということが行われるようになった。当初は出版・新聞各社が独自に書き換え方を定めていたが、書き換え方がまちまちであったため、混乱が生じていた。そこで、国語審議会で書き換えの指針を示すことになり、1956年の国語審議会報告の中の「同音の漢字による書きかえ」として発表された。
国語審議会の「同音の漢字による書きかえ」では、「代用字」と「代用語」を定めている。代用字とは使われている熟語にかかわらず、ある漢字を無条件で当用漢字内の漢字に書き換えるものである。『欲』という字を使う熟語は本来、『食慾』・『物慾』のように表記するが、慾は当用漢字になかったため、『食欲』、『物欲』のように表記する。また、『慾』という字を使う熟語すべてに使用される。代用語とは、熟語を特定して書き換え方を指定したものである。例えば、『綜』という字を使う熟語の場合、『綜合』は『総合』と書き換えるが、『錯綜』の場合は『錯総』とは書き換えない。
ちなみに、「磨」「妄」の2字は書き換えが示されているが、常用漢字表で追加されたため書き換えをしない。
なお、国語審議会の「同音の漢字による書きかえ」のほか、これに入らなかった熟語について日本新聞協会が定めた書き換えがあり、これも広く使われている。
韓国通信社の聯合ニュース、あるいは人名など固有名詞に含まれる場合は書き換えないのが本来の原則である。ただし、固有名詞は(満洲→満州)などの例もあり、現況により判断する方が現実的である。
[編集] 主な書き換えの例
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書き換えの中には、理窟→理屈など、それ以前は誤用として知られていたものも存在する。書き換えは当用漢字同士の熟語に限られ、当用漢字外の漢字の入った熟語には適用されないが、自然発生的に書き換えが行われたものもある(例:旱魃→干魃・干ばつ)。
[編集] 注意を要する書き換えの例
[編集] 「惣」→「総」
- 「惣」はもともと「揔」(總(総)の俗字)の書き誤りで本来意味は同じである。音が同じであることもあり書き換え(代用字)が行われた。しかし、「すべて」という元の意味を持たない言葉は書き換えられないため(元の意味を全く持たない書き換えもある(沈澱→沈殿)など)、室町時代の自治組織「惣」を示す場合は書き換えないのが普通。また、これに準じ「惣中」「惣村」なども書き換えも一般にしない。代用字であるにもかかわらず、漢和辞典で「書き換えることがある」などと表現されるのはこのためだと考えられる。
- 書き換える例:(惣菜→総菜)(惣作→総作)
- 書き換えない例:(「惣」→×「総」)(惣中→×総中)(惣村→×総村)
[編集] 「洲」→「州」
- 「洲」は「ヨーロッパ洲」「アジア洲」などという「大陸」を示す意味と「洲渚」「汀洲」などという「川の小島」を示す意味がある。このうち「川の小島」の意味では「ス」(呉音)という音がある。書き換えの「州」にも「ス」(呉音)という音がある。同音の漢字による書きかえが報告されたときは当用漢字改定音訓表(「州」は「シュウ」と「す」)がまだ答申されておらず、当用漢字音訓表(「州」は「シュウ」と「ス」)が用いられていた。このため「三角州」などはどれも音読みの漢語(サンカクス)であったが、現在の常用漢字表(および当用漢字改定音訓表)では(サンカクす)という読みになる。報告当時は「三角洲(サンカクス)→三角州(サンカクス)」で問題なかったものが、現在では三角州(サンカクす)になって正確には漢語でなくなってしまう(混種語)ことになる。しかしこのような経緯はあるものの(洲→州)は「ス」(「す」)の場合であっても意識せず通常は書き換える。なお、漢和辞典では「ス」はあっても「す」がないものがあり、わざわざ「常用漢字表では「す」と字訓に扱う」などと注意書きのあるものもある。(「漢字典」(旺文社)など)
- (洲→州)の書き換えは「し」のところにしか示されていないが、(坐洲→座州)の例からも分かるように「ス」(「す」)の音でも代用字として使う。「ス」(「す」)に関する詳しい経緯は前述の通り。
- 書き換える例:(濠洲→豪州)(坐洲→座州)
- 書き換えない例:特記事項なし
[編集] 書き換え前から二通りの表記が行われていたもの
もともと二通りの表記が行われていたが、慣用として当用外の表記を通常用いられた熟語も、書き換えの方針の対象となった。
- 饑餓→飢餓:饑も飢も「飢える、ひもじい」の意味。
- 糺弾→糾弾、糺明→糾明:糺は糾の異字体。
- 宏大→広大:広は物理的にひろい、宏は形而上的な意味にも用いられた。「弘大」とも。
- 沮止→阻止
[編集] 新語への影響
例えば「保母」は「保姆」の書きかえであり(姆は乳母(うば)の意)、書きかえによって「母」に対して「父」という位置づけが成り立ち、同職の男性が登場すると、女性の「保母」に対して男性は「保父」と(現在はどちらも保育士)呼ばれるようになった。
[編集] その他
日本語における書き換えられた漢字と中国語の簡体字が一致することもある。
- 例
- 廻→回
- 颱風→台風
[編集] 関連書籍
【…シリーズ…】日本人の手習い『旧字旧かな入門』(府川充男・小池和夫著、柏書房)ISBN 978-4-7601-1997-4
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
- 常用漢字
- 国語国字問題
- 文部科学省
- ポリティカル・コレクトネス(障害→障碍について)
- 略字