司法取引
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司法取引(しほうとりひき)とは、 刑事裁判において、被告人と検察が取引し、被告人が罪状を認めるか、あるいは共犯者を法廷で告発する、あるいは捜査に協力することで、当該の刑の軽減、またはいくつかの罪状の取り下げを行うこと。
主に、米国、英国など英米法(コモン・ロー)の国で、実施されている。
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[編集] 概要
犯罪の多い米国では、刑事裁判の大部分が司法取引で行われている。また、英国やオーストラリアでは、司法取引により余罪の起訴の取り下げを行うが、罪状そのものには適正な刑罰を与えるべきだとして、当該の罪に関する刑罰の軽減は行わない。
一方、大陸法(シビル・ロー)の国(日本も含まれる)では、基本的に被告人による罪状の認定/否認という制度が無く(被告人が罪を認めても裁判は行われ、裁判官が有罪にする十分な証拠がないと判断すれば、無罪となる)、司法取引を行わないか、限定している国が多い。
[編集] メリット・デメリット
司法取引のメリット
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- 本人が犯行を深く反省し刑罰を受け入れると決心したときなどは、情状を酌量する代わりに刑罰を軽減し、裁判にかかる時間と費用を節約できる(犯罪件数が多い国では重要である)。
- より重要な犯罪の捜査の進展に役立つ情報を得ることができる
- ほぼ犯人に間違いないが、その動機などの証明に証拠が不十分な場合、ある程度の刑罰を与えることが可能である。
- 証言することにより自身も刑事訴追を受けるおそれがあるため証言を躊躇う証人に対し、刑事免責と引き換えに証言を引き出せる。
- 不法入国者が重要な証人となる場合、在留許可を与える代わりに証言させる。
司法取引への批判
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- 検察官による脅しや、被告人の知識不足で罪状を認めてしまうことがあり、冤罪を起こしやすい。
- 法廷で死刑を宣告される可能性を避けるために無罪の人間が罪を認めて終身刑を受け入れる可能性がある。
- テロリストなど国家にとって好ましからざる人物を正式裁判にかけると、(陪審により)万に一つでも無罪となることが考えられる場合、死刑を終身刑にするなどと司法取引を強制して裁判によらず監獄に幽閉する危険がある。
- 真犯人が重刑を避けるために司法取引を行い無罪の人間に対して偽証を行う可能性がある。アメリカで頻繁に起こる共犯による強盗殺人の場合、誰が殺人を本当に起こした事実と関係なく司法側と先に取引を行った共犯者が別の共犯者に対して証言し死刑を免れる可能性を指摘されている。
- 取引であるため、優秀な弁護士を雇える金持ちが有利な取引を行いやすく法の下の平等に反する場合がある。
- 公正であるべき司法の場で取引を行うことは、法の公正さを損なう。
- 取引の条件として共犯者を法廷で告発する場合にこの証言が偽証である可能性が高い。アメリカなどではこれにより多くの冤罪が生まれている可能性が指摘されている。
[編集] 司法取引の例
- 比較的単純な犯罪で、正式な裁判をするのが面倒な場合、求刑を多少軽減し罪状を認めさせる。
- マフィアの組織犯罪を捜査する場合、証言した構成員の罪を軽減する代わりに得た情報により、組織全体の犯罪を暴く。企業犯罪や汚職事件なども同様。
- 被告が多くの罪状で起訴されている場合、全ての罪状を審議するのは時間がかかるため、主要な罪状の捜査への協力の代わりに、軽い罪状の起訴を取り下げる。
- 状況証拠から、ほぼ間違いないが、裁判で確実に有罪にできるほどの物的証拠が無い場合、刑の軽減を条件に罪状を認めさせる。
[編集] 日本の事情
日本では聞き慣れない言葉だが、最近では、チャールズ・ジェンキンスが軍法会議で司法取引に応じて減刑を受けたことにより、日本でも耳目を集めた。
日本では法制度としての司法取引は無いが、罪を認めたり、被害者との間で示談が成立した場合に検察官が起訴猶予処分にして公訴を提起しないことを一種の司法取引と見ることができる。