医師不足
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
医師不足(いしぶそく)とは、医師の数が、医療に必要とされる人数に比べて不足すること。本項では日本における医師不足について記述する。
目次 |
[編集] 概要
日本国内においては、医学部を卒業し医師国家試験に合格することにより医籍に登録され、医師として活動することが出来る。もし、その数が増えすぎた場合、医師及び病院の間で過当競争が生まれてしまう。1975年前後に各県一医大の構想及び私立新設医学部の急増により医学部入学定員が大幅に増やされ逆に現実的に医師過剰が危惧されたため1984年以降、医学部の定員を最大時に比べて7%減らした。これにより医師一人あたりの収入の低下を防ぐことはできたものの、新臨床研修医制度の影響などにもより逆に昨今医療の場においては、医師の不足が叫ばれるようになってしまった。
医師不足は
- 医師の絶対数の不足
- 病院での必要医師数の不足
- 地域偏在による不足
- 診療科に属する医師の需給不均衡による不足
の4点に構成される。
[編集] 厚生労働省の見解
厚生労働省は「医師不足はなく、偏在しているだけである」という見解である[1]。
[編集] 医師の絶対数の不足
日本国内における医師の数は2005年現在、約29万人と言われている[2]。
これはOECD加盟国の平均以下の医師数しかおらず[3]、OECDの平均と比較すると医師数の絶対数は不足していると言える。しかしWHOは日本の医療に対し高い評価を与えている[4]。
現実は医師不足の解決としては、個々の医師の勤務時間の超過、頻回の当直などを個々の医療従事者の高い使命感や努力に支えられているのが実情である。
また女性医師が増え、結婚、出産、子育てなどと医療との両立させる環境が整っていない場合が多く、結果として臨床の現場に復帰できずに家庭に入ってしまうケースがある。そのために現場に出ている医師の数が減少している。
[編集] 病院での必要医師数の不足
従来地域の総合病院が医師を確保する方法として、医局の人事による派遣が主であった。病院は医局から送られてきた医師を直接雇用し治療に当たってきた。医師の交代などの人事権は各科の医局の一存で決まっていた。
このシステムによって、地域の総合病院は維持されていたが、それを理解しないマスコミや官僚により医局解体が叫ばれるようになった。
2004年4月からの新医師臨床研修制度の開始に伴い、臨床研修指定病院の要件が緩和された。それにより、大学病院など特定の病院においてのみ研修は出来なかったが、一般の民間病院においても研修が出来るようになった。
これにより新人医師は医局に属することもなく、初期研修を受けることが出来るようになり、医局の人事権は大きく損なわれることになった。事実上医局解体が始まったといえる。新人医師は多彩な症例が多い病院を選択する傾向があり、薄給で下働きが多いとされた大学病院での研修を避けるようになった。この流れにより大学病院での医師が不足するようになった。大学病院は一定水準の医療を維持するために地方の病院に派遣をしていた医師を引き上げる結果となった。これにより地域の総合病院などから医師が引き上げられて、診療科が閉鎖となるなどの問題を引き起こした。
また、医局人事にかかわらず、勤務医の過酷な労働条件に耐えかねて退職や開業をする医師が増え、総合病院等では、これもまた医師不足の一因となっている
[編集] 地域偏在による不足
医局人事の問題で従来僻地に派遣されていた医師が、医局人事により引き上げとなり、医師がいなくなるケースがある。そのため各病院は自力で医師を捜すことを強いられるようになった。
しかし都会の病院の方が症例数も多く、やり甲斐があると思う医師が多くそのために僻地と呼ばれる病院に勤務することを嫌がるケースがある。
また僻地病院の勤務状況は、ほぼ24時間365日の勤務を要求する地域があり、「体が持たない」と、辞めるケースがある。
居住する地域の利便性を考え、都会の病院を選択することもある。一部の地方病院では非常に高額な報酬を設定して医師を招聘するなどの試みが行われているが、求めに応じた医師に対して中傷めいた発言が市議やマスコミからあり、問題をはらんでいる。
[編集] 診療科に属する医師の需給不均衡による不足
外科、小児科、産科は過酷な勤務状態にあり、転科したり、そもそも志望する医学生が減ってきている。 2004年から始まった新医師臨床研修制度において2年間の臨床研修が事実上義務づけられた。今まではそのまま志望科の医局に入局していたが、希望の有無を問わず様々な科にも診療を行う必要が生じた。そのため、志望科の過酷な医療状況を目の当たりとし、志望を変えるケースもある。
特に産科は福島県立大野病院産科医逮捕事件の影響があり、「逮捕されるリスクがある」という認識が広がっており、産婦人科が婦人科のみにしたり、産婦人科を志望していた医学生がその志望の選択肢から除外する傾向が強くなっている。
また女性医師の増加により、家庭と育児の両立が可能な勤務形態が望まれており、それが実現していない科はますます不人気であり、よりいっそう労働環境が悪化するという悪循環も見られる。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ 医師の需給に関する検討会報告書
- ^ 厚生労働省ホームページページ内 医療動態調査より。
- ^ www.kaseikyohp.jp 医師不足
- ^ www.khk-dr.jp