倒産
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倒産(とうさん)とは、経済主体が経済的に破綻して弁済期にある債務を弁済できなくなり、経済活動をそのまま続けることが不可能になった状態、または不可能になることをいう。
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[編集] 概要
法学上の文面でも破産や会社更生、民事再生などのいわゆる法的倒産手続を総称する概念として「倒産」の文言を用いることがあるが、法令上に定義ある語ではない。「倒産」という言葉を初めて使ったのは株式会社東京商工リサーチ[要出典]。
日常用語としては経営が行き詰まり会社が無くなる、といった限定的なニュアンスで使われる場合もあるが、倒産の対象となる経済主体は会社だけではなく個人(自然人)も含まれる。また、会社を含む法人が経済主体の場合であっても、再生型の倒産手続があることから、必ずしも法人が無くなるとは限らない。会社の倒産については、新聞などの報道では、最近は経営破綻(または単に破綻)という言葉が使われることが多い。また、俗に「潰れる」という場合も多い。
日本国内の地方公共団体において俗にいう倒産とは、地方財政再建促進特別措置法(再建法)に基づき、自治体が財政再建団体の指定を申請し許可を受けた状態のことを指し、「自治体の倒産」と呼ばれる。自治体の倒産については、財政再建団体の項目を参照。
「経営破綻」(または「破綻」)と「自治体の倒産」も法令上の定義のある用語ではなく、事実上の用語として用いられている。
[編集] 倒産の定義
具体的にどのような時点を指して倒産と表現するかは困難であるが、東京商工リサーチでは、企業経営の主体であった者につき次のような状況になった際に「倒産」と表現している。
- 任意的整理
- 2回目の不渡りを出し、銀行取引停止処分を受ける
- 内整理する(代表が倒産を認めた時)
- 法的整理
毎月中頃、マスメディアを通じて前月倒産件数(4月は前年度倒産件数も)が発表されるが、これは東京商工リサーチと帝国データバンクがマスコミ各社に行ったプレスリリースを基にしている。帝国データバンクは、手形を使用しない商習慣の拡大や、個人情報保護法の施行などの理由により情報収集が困難になったとして、2005年に倒産集計の基準から「銀行取引停止処分」を削除した。東京商工リサーチは独自の情報網を通じての取材活動に拠れば、「銀行取引停止処分」の集計も可能として、これを据え置いた。これにより、統計的整合性を持つ倒産件数は、東京商工リサーチ発表によるもののみとなった。
[編集] 事実上の倒産
経済主体が企業である場合、 手形や小切手の1回目の不渡りから6か月以内に2回目の不渡りを出した場合、銀行取引停止処分となる。こうなると、すべての銀行において当座取引および貸付を受けることが不可能になるため、企業の資金繰りは断たれる。このような状態をして事実上の倒産と呼ぶ。このような場合でも、法人の解散事由(破産手続の開始等)が生じたわけではないから、法人としての存続は否定されたものではない。しかし、多くの場合には、法的倒産処理手続または任意的倒産処理(私的整理)に移行することから、当該時点において「事実上」という言い方を用いる。
なお、かつて新聞などでは、再建型の法的倒産処理手続(下節参照)に着手した場合でも「事実上の倒産」という言葉を使用していた。
[編集] 法的倒産処理手続
裁判所の監督の下で行われる倒産処理手続であり、この文脈では、「倒産」は経済主体が経済的に完全に破綻した場合のみならず、破綻するおそれがある場合をも含めて理解するのが一般的である。大まかに分類すると、清算型と再建型に分かれる。 清算型は、倒産状態になった債務者の財産を換価して債権者に可能な限り弁済することを目的とする制度であり、債務者が法人である場合にはその存続・再建を予定しないのに対し、再建型は、倒産状態になった債務者の財産を直ちに換価・分配することは必ずしも予定されず、債権者らの権利を変更(債務の減免、期限の猶予=分割弁済など)したうえで、現有財産を基礎にして収益を上げ、権利変更後の債務について弁済すること等により、債務者の事業又は経済生活の経済的再生を目的とする制度であるとされている。
もっとも、両者の差異は相対的なものであることに注意が必要である。清算型に位置づけられる破産手続は、これに付随する免責手続の存在により、いわゆる個人破産(消費者破産)の場面では再建型として事実上機能していることがほとんどであり、再建型に位置づけられる民事再生手続又は会社更生手続において、清算を目的とした再生計画案又は更生計画案が作成されることもある。
また、金融機関等の特殊な業態については、法的倒産処理手続以外に、特別法に基づく破綻処理が予定されているものがある。
[編集] 清算型手続
- 破産手続
- 破産法(平成16年法律第75号)により規律される手続であり、裁判所が選任した破産管財人が支払不能又は債務超過の状態にある者の財産を清算することを目的とした手続である。もっとも、消費者破産の急増により、個人が破産を申し立てる場合は、破産手続開始の決定はしつつも手続費用の不足を理由に破産管財人を選任しないことが多く(同時廃止)、その結果、財産の換価・清算ではなく専ら免責を得るために手続が利用されることが多い。
- 特別清算手続
- 会社法(平成17年法律第86号)第2編第9章第2節第1款により規律される手続であり、解散して清算手続に入った株式会社について、清算の遂行に著しい支障を来す事情がある場合や債務超過の疑いがある場合に、清算人が裁判所の監督の下で清算を行う手続である。会社法に組み込まれている手続であり独立した法典が存在しないが、倒産四法制の一つとして位置づけられている。破産手続と異なり、原則として従前の清算人がそのまま清算手続を行う。
[編集] 再建型手続
- 民事再生手続
- 民事再生法(平成11年法律第225号)により規律される手続であり、経済的に窮境にある者について、債権者の多数の同意を得てかつ裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等により、事業又は経済生活の再生を図ることを目的とする手続である。和議法(大正11年法律第72号)により規律されていた和議手続に代わるものとして設けられた(民事再生法の制定に伴い和議法は廃止)。民事再生手続の対象となる経済主体は特に限定されていないが、個人が手続を利用しやすくするために、小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則(個人再生手続)が設けられている。
- 会社更生手続
- 会社更生法(平成14年法律第154号)により規律される手続であり、窮境にある株式会社について、裁判所の監督の下に、裁判所が選任した更生管財人を中心として債権者や株主その他の利害関係人の利害を調整し、株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする手続である。
- 特定調停手続
- 特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律(平成11年法律第158号)により規律される手続であり、支払不能に陥る恐れのある者の経済的再生を資するための調停手続として、民事調停法(昭和26年法律第222号)の特例として設けられた手続である。いわゆる倒産処理手続のカテゴリーには含まれないことが多いが、現実的には、消費者破産を回避するために利用されることが多いため、倒産処理手続として把握される場合もある。
- (会社整理手続)
- 商法旧第2編第4章第7節により規律されていた手続であり、支払不能又は債務超過に陥る恐れがある株式会社について、裁判所の監督の下に、利害関係者の協力を得て整理案をまとめ、会社の維持を図る手続である。債権者の多数決制度が採られていない等の問題があることや、民事再生法の制定により利用価値が激減したこともあり、会社法の施行に伴い廃止された。
[編集] 任意的倒産処理
- 私的整理(任意整理・内整理)
- 債務者が債権者らと任意に協議して財産関係を処理することをいう。債務者が個人である場合には経済的再生を目的とすることになるが、法人である場合には清算を目的とすることも再生を目的とすることもある。法的倒産手続とは異なり、債権者と債務者の当事者間での合意に基づいて債権を処理するものである。債権者が消費者金融、クレジット会社、銀行などの場合は、債務者本人が任意整理をしようとしても債権者がこれを相手にすることは少ないため、通常は弁護士や司法書士などに依頼することになる。債権者らが消費者金融の場合、約定利息を利息制限法に引きなおすことで債務額を減額し、また36回から60回程度の分割払いで和解することによって債務を整理することが多い。法的倒産処理手続と異なり公の機関による監督がないため、時間的・経済的に有利ともいえるが、整理案に反対する債権者を拘束する手段がないことや、不平等な整理案が作られる可能性が高いなど不正が行われやすい弊害もある。
[編集] 私的整理に関するガイドライン
2001年9月に私的整理に関するガイドライン委員会が作成した「私的整理に関するガイドライン」を参照。
[編集] 事実上の倒産処理
[編集] 関連項目
- 決済
- 手形・小切手
- 不渡り
- 融資
- 負債
- 貸倒-貸倒引当金
- 連邦倒産法第11章
- 倒産予知モデル
- 未払賃金の立替払事業(倒産した場合に、未払いの賃金、退職金の一部を政府が立替払いする制度。倒産の定義が上記と異なる)