中心地理論
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中心地理論(ちゅうしんちりろん)は、都市機能の規模とその幾何学的な分布を示す都市地理学上の理論。1930年代にドイツの地理学者・都市学者であるクリスタラー(Walter Christaller 1893-1969)、及びレッシュ(August Lösch 1906-1945)によってそれぞれ作られた。原著の日本語訳はそれぞれ「南ドイツの中心地」、「経済の空間的秩序」である。
どちらも供給される財の到達範囲・中心地の規模 (階層) によって、幾何的・数学的に説明できる空間構造が生まれることを説明している。
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[編集] クリスタラーの中心地理論
サービスを含む財について、多く生産・供給する機能は少数の地点 (中心地) に集中し、その財は多数の消費者に到達する。その財を 中心的財 といい、その到達範囲の大きいものを「高次な財」、小さいものを「低次な財」と呼ぶ。そして、その財を消費者に供給する機能を 中心的機能と呼ぶ。中心地のもつ中心的機能は 中心性 と呼び、その大きさにより高次から低次までの階層ができる。
ここで、中心地の階層の説明として、教育施設の中心性とその立地を例として挙げる。中心性の高いものから並べる。
- 大学
- 広域から通学者を集め (=財の到達範囲が大きい)、数千数万人を抱える大規模な教育施設である。大学同士の距離も大きい。大都市にのみ立地していても、広い範囲の利用者が交通機関を用いて集まってくる。
- 高等学校
- 大学ほどではないが、比較的広い範囲から通学者を集める。電車やバスなどの交通機関を用いる通学者もいる。大学ほどではないが、まばらに立地する。
- 小中学校
- 学区は数キロメートル以内である。財の到達範囲が小さい。学齢期のすべての児童の徒歩圏に少なくとも一つの小学校が存在するように立地する。高等学校・大学と比べれば数も多く、大都市にも過疎地にもまんべんなく立地する。
中心地は、財の供給されない地点を埋め、なおかつ到達範囲の重なりを小さくする形で配置される。さらに「中心地機能は同一の中心地に集積する」といった前提を考慮すると、各階層の中心地は、その財の到達範囲の大きさに応じた正六角形を敷き詰めた各頂点に相当する位置に立地する。こうして「規則的・階層的な空間構造」が形作られていくというのが中心地理論である。地理学へのこうした数学的・幾何的なアプローチは、のちの計量地理学へと受け継がれてゆく。
クリスタラーは、この理論を、南ドイツの都市的機能をもつ集落の配置によって検証した。1930年前後、ドイツで自動車が普及しはじめたころである。その頃と比べれば、現代は流通コストの低下・交通網の発達により、距離の概念が格段に変化している。(その可能性は当初も指摘され、距離については「費用・時間・労力」を掛け合わせた「経済距離」の概念が使われた。)また、通信網の発達により、地理的な制約によらず遠隔の消費者に到達する財など、中心地理論がもはや適用できない例も増えつつある。しかし、物資的な流通や人の移動が地理的な距離の制約から逃れられない以上、中心地とその階層、財の到達を最適化するような立地という概念は消えることはないだろう。
[編集] レッシュの中心地理論
[編集] 中心地理論の活用例
- マヤ文明研究でテイセン・ポリゴン法として応用され、ピーター・マシューなどが主張しているが、マヤ諸都市の同盟対立、支配従属などの力関係や考古学的な調査結果に基かず機械的に中心地からの中間点で諸都市の勢力範囲、ないしや食料、黒曜石などの資源調達範囲(キャッチメント・エリア)を考えようとしているため、激しい批判にさらされている。また、弥生時代の集落間のキャッチメント・エリアについても奈良大学の酒井龍一氏が主張しているが、同じような理由で疑問をもたれるか、意識的に無視されている。
[編集] 参考文献
- 『地域と産業 ―経済地理学の基礎―』富田和暁著・大明堂