万引き
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万引き(まんびき)とは、窃盗の一種であり、営業時間中の商店・小売店(デパートやスーパーマーケット、コンビニエンスストア・書店)等において、販売を目的として展示・陳列してある商品(商品見本を含む)および展示・陳列のための備品等を、店側の目を盗んで窃取するものを言う。
語源としては、商品を勝手に間引くことから、「間引き」が転じたのに由来するという説がある。
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[編集] 定義
夜間や休業日に忍び入って商品を窃盗した場合、これは「空き巣」と呼ばれる。また、開店している時間帯に、堂々と武器等を持って押し入り、暴行や脅迫を行い商品を強奪した場合、「強盗」という別の犯罪概念となる。従って、
- 営業時間中に
- 客を装って来店し
- 店員の目を盗み物品を隠し持ち
- 隠し持った物品の会計をせず店を出る
という条件が揃った場合、「万引き」という行為が成立する。 ここでの注意点は、物品を服の中や鞄の中に隠し入れてたとしても、「会計をせずに店を出る」という行為がなければ逮捕することができない。
[編集] 万引きと窃盗罪
万引きとはある手法に対する世俗的通称であり、安易に行われているとする声があるが、刑法第235条の窃盗罪の成立する犯罪行為である。
占有移転が完了した時点、すなわち、商品を手に取って、自分の服のポケットやバッグに入れたり、手に持ったまま店から出たり、レジを通過した後の買い物袋に入れたりなどした時点で、窃盗既遂罪が成立する。いずれの時点であるかは被害物品の大きさ、形状、行為者の意思などにより左右されるが、レジの外に出た時点でほぼ確実に既遂は成立している。しかし、まだ店内、私有地につき、店員や警備員としては、この時点では犯人に声を掛け、呼び止めて停止させることは出来ない。声を掛ける場合、正確には市道、公道上に、犯人の両足の土踏まずが、しっかりと、地面に着地したことを確認した時点で、そこで初めて声を掛け、万引きは成立となる。窃盗罪の具体的な構成要件については窃盗罪の項目を参照。
また、窃盗罪には未遂も適用される(刑法243条)ので、万引きの実行に着手したが、自らの意思により実行を思いとどまった場合(中止未遂)、または何らかの原因で実行できなかった場合(障害未遂)にも犯罪として成立する。どの時点で実行に着手したといえるかは、はっきりしないが、そもそも万引きの場合は、未遂の時点では、通常の客との区別は、ほぼ不可能であり、窃盗未遂で検挙するということは、通常は考えられないから、実益に乏しい議論であろう。
「万引き」は場合によっては、窃盗よりも重い罪に問われることがある。店員や警備員が、万引きを阻止しようとしたとき暴力を振るえば、強盗罪が成立(事後強盗)し、そのときに店員や警備員に、かすり傷でもつけてしまえば強盗致傷罪が成立(この場合にかつては、執行猶予が不可能であったため、窃盗と傷害に分けて起訴する運用があったが、法改正により、法定刑の下限が引き下げられて、執行猶予が可能となった。)する。さらに店員や警備員が倒れ、当たり所が悪く死亡してしまったときには強盗致死罪となる。
以下に刑法の当該条文を引用する。
[編集] 刑法 第36章 窃盗及び強盗の罪
(窃盗)
- 第235条
- 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。
(事後強盗)
- 第238条
- 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
(強盗致死傷)
- 第240条
- 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
(未遂罪)
- 第243条
- 第235条から第236条まで及び第238条から第241条までの罪の未遂は、罰する。
[編集] 万置き
一度万引きをして、のちのち戻す行為を、一部では万置きと言うが、たとえ「万置き」したとしても、窃盗罪の成立は妨げられず、犯罪である。窃盗罪の構成要件を考慮すれば、不法領得の意思をもってすればごく一時的な占有でも窃盗罪に問われる可能性がある。
例えば、不法領得の意思があると(客観的に)認められるような方法で、服の袖に入れたり、人の服のポケットに入れたり、個人用のバッグに入れたり、手に持ったまま店から持ち出したり、レジを通過した後の買い物袋に入れたりなどすれば、その時点で窃盗罪が既遂となる(未遂罪とはならない)。いったん既遂となれば、その後、すぐにせよ時間を置いてにせよ、店に戻したとしても、窃盗罪の成立は妨げられない。
「万置き」は、後に述べる少年等の悪質な度胸試しとして行われる事が多い犯罪類型である。
その他
例えば、コンビニ店内に設置してある雑誌コーナーから、トイレ内(大便時)に雑誌を持ち込んで読んだ後、元の場所に返して置く行為は利益窃盗として不可罰だが、わざと封をしてある雑誌のビニール袋・テープを破る、その場所に雑誌を放置する行為が、故意になされたことが明らかである場合は器物損壊罪に該当する。
器物損壊罪とは他人の物を損壊し、それを傷害する行為を罰する罪であり、本罪としては人の生命・身体に対する行為と異なり、法益侵害が軽微に止まることが多い為に、親告罪であり過失犯規定もない。
[編集] 万引きの変遷
1970年代までは、経済的理由から万引き行為に走ることもあったが、それ以降は前述の通り、客を装って一点、若しくは複数点の商品をかすめ取る行為が主流で、少年グループの度胸試しの一環として行われる事もあった。後に、おとりを仕立てて、商品の説明をうけたり、支払いをしている最中に犯行を行うなどの巧妙な計画性のある手口が用られるようになった。
また、書店で店員の面前でボストンバッグなどに詰め込めるだけの商品を詰め込んで堂々と逃亡し、奪取した書籍を新古書店で売りさばくという大胆な万引き行為もある。ドラッグストアやコンビニエンスストア等で単価の高い商品(養毛剤、化粧品、健康食品等)のみを狙って、見張り役、実行役、隠蔽役、店員の気を引く役などで数人のチームを構成し、チームプレーにより同一商品を大量に窃取する事案が発生している。この場合、店側の金銭的損害は大規模なものになり、頻繁に行われると経営に影響を与えかねないケースもある。
一方で近年では主婦や未成年などが遊び感覚や軽い気持ちで万引きに手を染め、常習化するケースが増えており問題視されている。
また、『万引き』という犯罪を利用して人を陥れるために、店の商品を無断で無関係な他人のバッグ等に入れ、その人を万引き犯に仕立て上げてしまうケースもある。単に万引き犯に仕立て上げる事自体が目的のケースや、他の金品の万引きついでに面白半分に実行するケースもある。このような場合でも、事実が明らかになれば、窃盗の実行者は無断で他人のバッグ等に入れた者であり、窃盗の意思の無い入れられた者に犯罪は成立しない(間接正犯、道具の理論。なお、入れられた者に窃盗の意思がある場合は単なる共犯である)。
[編集] 万引き対策
食料品や雑貨などでは店員による目視、監視カメラの設置等が一般的である。しかし、店員の監視は人件費や通常の業務などを考えると、どうしても人を割けない事情もある。監視カメラにも死角があり、いずれも限界がある。
[編集] 万引き防止システム
電子機器やソフトウェアなど高額商品の場合、磁性体(磁気式-EM)やICチップ(電波式-RF)を利用した商品タグや小型のブザーを商品に貼付もしくは装着し、店舗入り口に設置された検知器で検出すると言う方式が一般に採用されている。 この方式ではコストはかかるものの、個別に防犯対策を施せる事から、各種量販店やレンタルビデオ店などでも普及している。 しかし、検知を無効化したり、防犯装置自体を破壊したりして窃盗する者も出現しており、犯行はより巧妙化している。
また、衣類に関しては、洗浄の難しい染料系インクを加圧封入したガラス管を装着した特殊なタグを容易に切断できない高張力高分子ワイヤで商品に装着し、所定の治具以外で取り外すと商品・犯人共にマーキングされるという方法で万引きを抑止している。
しかしながらシステム導入費用や導入後の維持に多大な手間と費用がかかることから小規模小売店などは導入に躊躇している。
[編集] 万引きGメン
また近年は、私服で巡回を行い不審者を監視する警備員「店内保安員」を配置する店が増えている。売り場にそぐわないごつい体格の男、しわくちゃになった小さなレジ袋(長時間の巡回によりしわくちゃになるものと思われる)を持っている者、あるいはどう見てもお買い物を楽しんでいる客とは思えない厳しい視線を投げかける者などが、店内を不自然にうろうろ歩いていることが多く直ぐに判別が付くので、犯罪抑止効果も狙っているものと思われる。しかしながら、買い物客としては行動があまりにも不自然なので、一般客から不快感を持たれたり逆に不審人物として制服警備員に通報されるケースもある。
ワイドショーや犯罪関係の番組などで、こうした警備員を「万引きGメン」として その勤務の模様を放送することがある。その勤務内容は、
- 店内で不審な行動を取っている客を監視し、その客がバッグやポケットに商品を入れるのを確認する。
- その後その客が店を出て、犯罪が成立した時点で声を掛ける
というものである。 一連の万引きGメンと万引き犯人のやりとりを放送することは万引きの抑止にもなるという声もあるが、この企画が放送されるとやらせではないのかなどと抗議・苦情が来る場合もある。
なお、犯人を捕まえて連行、警察官が駆けつけるのを待つ事を“キャッチ” “捕捉”と呼ぶ。
[編集] 犯人への対応
秋葉原電気街等の小型高価格製品を扱う店舗が多く、かつ、中古品の買い取りを行う店舗が存在する場合、荒稼ぎが可能となるとして、そのような個所では厳重な警戒が行われ、初犯であっても即座に警察に引き渡す・職場などに連絡するなどの厳しい措置が取られている。
また、刑法改正により窃盗罪にも罰金刑(最高50万円)が新設施行され、従来は起訴便宜主義により起訴猶予や微罪処分となっていた多くの万引き事犯でも、今後は略式命令等による罰金刑宣告処分が増加する可能性がある(ただし少年の保護事件の処理に影響あるかは不明である)。
[編集] 万引きに関連した事件など
2003年1月に、・京急線八丁畷駅近くの古書店で万引きをして店員に補導された少年が、その後引き渡された警察官のもとから逃走し、遮断機の降りた踏切を越えようとして走ってきた電車に撥ねられ死亡するという事故が起きた。
この事故がテレビ等で取り上げられた際、少年の父親やテレビでインタビューを受けた一般人の一部が書店側の責任を問う発言をし、マスメディアで放送された。その後、書店に対し全国から多数の抗議が寄せられ書店は閉店した。
その後、少年の万引きが初犯でなかったことや、補導時の少年の行動等に言及し、書店側の行動が妥当な対応であったとして、 書店を擁護する声が上がり、書店に対する多数の応援も寄せられた。
これを受けて書店側は営業を再開したが、その後再び閉店した。 以上の経緯から、マスメディアによる当初からの報道内容や姿勢、中立性について糾弾する声があがった(報道のあり方に関しては報道の自由ならびに報道被害の項を参照のこと)。
また、万引きをした犯人が、追跡してきた人間をナイフ等で傷害、殺害するという事件の例があり、この場合、事後強盗傷害罪または事後強盗殺人罪となる。反撃を恐れる店舗では、なるべく万引き犯を追わないようにと呼びかけていることがある。
また、被害を受けた店側が、連行した万引き犯に対して、警察に通報しない事を条件に引き替えとして、 不当な行為を要求して問題になる事例がある。 この場合、通常の社会的通念を越えた要求は脅迫罪、強要罪ないし恐喝罪を構成しうる。
ほかにも、捕まえた万引き犯に対し捕まえる際にもみ合ったり、店員が逆上したりして暴行を加えた結果数時間後に死亡し万引き犯を捕まえた店員が暴行致死で逮捕されるといった事例もある。
常習化された万引き犯が警察に行っても、引き取り手がいればすぐに出て来られるのが問題である(上記の暴行による死亡は万引き常習犯の老人男性が被害者だったケース)。
[編集] 現行犯について
一般人が犯人を逮捕できるのは現行犯に限られる(憲法第33条・刑事訴訟法第213条)。
先ず現行犯として逮捕するには、以下の要件を満たさなければならない。
(1)犯行と逮捕との時間的・場所的に接着性があること…
時間が経っていても、犯行を目撃してから追跡が継続していれば、その数時間後でも逮捕できるとされている。
(2)犯罪と犯人であることが明白であること…
逮捕の時点で、逮捕された者が犯人であることが、現場の状況などから、逮捕者する者にとって明らかでなくてはならない。
(3)逮捕の必要性があること…
逮捕は相手の身柄を拘束すると言う、人権侵害の危険の高い行為であり、また逃げる様子もなく、住所・氏名・職業(学生)など、明らかにしている者を、ことさらに逮捕することは違法となる。
これら(1)~(3)の要件を満たさない時、その場合は「不当逮捕」となる。
本来、犯人を逮捕する為には、事前に裁判所が逮捕の必要性について検討した結果、その発行した逮捕状が必要となる。現行犯の場合には、犯罪の実行が明らかであり誤認逮捕の危険性が低く、逮捕状なしに、一般人が逮捕することが認められている。後日、万引き犯人がコンビニ・デパートなどへ来店したとしても、一般人である店員に許されるのは、強制的な手段は一切用いらず口頭により、以前の万引き被害について説明し、犯人が納得した上で警察に出頭させること。その時に、犯人の体の一部(手首・腕)を掴んだり、衣類に触れるなど強制的に手を下し、犯人を警察に突き出すことは、現行犯ではない不当逮捕に当たる。デパートに常駐する警備員も同様、犯人の体の一部(手首・腕)を掴んだり、衣類に触れる行為、強引に体を捻じ伏せ押さえつける行為、背中を押したりする行為は形式的には暴行に当たり、それによって犯人が怪我した場合は傷害に当たる。実際に手を下さなくても、単に殴る真似をしただけでも罪に問われる場合もある。万引きの現場が撮影された防犯ビデオは証拠となるが、実際に何を盗まれたのか、それが明確に特定できない場合には、警察に被害届を出すことは困難であり、仮に被害届けを出したところで、まともに取り入って貰えない可能性は高いと思われる。
[編集] 万引き犯を逮捕したら
一部の事業所では万引きを逮捕した場合、警察に通報せず、被害売価の数倍の現金を要求したり、誓約書や念書を書かせる等を行っている。これは現行犯逮捕を正しく理解していない事に起因する場合が多い。
前述の万引きGメンにしてもそういった法令教育がなされていない場合が多い為、警備員(私人)であるにも係わらず、取調べ類似行為や脅迫まがいの行為を行う様な場面が時々テレビで放送されている。以下に逮捕後の留意事項を記するので諸法令を遵守する為、容疑者の権利を守るために参考にされたい。
- 司法機関への通報
- 万引きの容疑者を逮捕したら、
検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、
直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に
引き渡さなければならない。 - 留置場所の選定
- 現行犯人の逮捕後に留置する場所の選定にも留意されたい。
- 多くの事業所では、事務所や応接室又は会議室にそこから出られないような状態で留め置く場合が多いと思われるが、逮捕後直ちに通報してから警察官が臨場するまでの間である場合などでは逮捕の効力として許されるものの、そうでない限りは違法な逮捕ないし監禁罪にあたりうる。被疑者の退路を確保(扉を開け放つ等)すればこのような問題はない。
- 取調べないし取調べ類似行為
- 被疑者に対して、住所・氏名・年齢を開示する様に要求すること自体に問題はない。もっとも、大概の場合、警察官に適切な事情を説明すればある程度は被疑者の情報を教えてくれる。しかし、事業者や警備員が無理やり「教えないと大変な事になる」「教えないと帰さない」「書かないと学校に電話する」等と言って開示させるのは強要罪に当たりうる。又、「書け!!」と言いながら机を叩いたり、椅子を蹴り飛ばす等の行為は脅迫罪に当る可能性がある。
- 又、今後店に出入しない事を誓う「誓約書」や「念書」の提出を要求してもかまわないが、上記と同様の問題があることに留意する。
- その他
- 万引き犯にも人権があり、憲法で保障されている権利を有している。現行犯であってもそれは変わらず、私刑もまた(万引きと同じく)禁じられている。知識無く上記行為を行うと、逆に被疑者から訴えられる可能性がある。
現実には、客商売の建前上、未払代金の支払いを求めるかたちで当事者と交渉することが多いが、悪質な場合や常習者などは警察に引き渡すこともある。