ルイ・ド・ブルボン (アンジュー公)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』
ルイス・アルフォンソ・ゴンザロ・ビクトル・マヌエル・マルコ・デ・ボルボーン・イ・マルチネス＝ボルディウ（スペイン語：Luis Alfonso Gonzalo Víctor Manuel Marco de Borbón y Martínez-Bordiú, 1974年4月25日 - ）は、スペイン・ブルボン家の王族で、支持者たちによってフランス・ブルボン家の王位継承者とされる人物。アンジュー公ルイ・ド・ブルボン（フランス語：Louis de Bourbon）、あるいはフランス王ルイ20世（Louis XX）と呼ばれる。
目次 |
[編集] 背景
“ルイ20世”の支持者は、王党派のなかでも正統派（レジティミスト：Legitimists）と呼ばれる。これは本来、1830年8月9日にシャルル10世が廃位され、オルレアン家のルイ・フィリップ（ルイ13世の6世孫）が「フランス人の王」に即位した後もシャルル10世を「正統な」国王として支持した人々を指していた（これに対し、オルレアン家のルイ・フィリップの支持者たちは「オルレアン派（オルレアニスト：Orléanists）」と呼ばれた）。1836年11月6日にシャルル10世が死去すると、正統派たちはその子アングレーム公ルイ・アントワーヌ（“ルイ19世”）、次いでアングレーム公の甥シャンボール伯アンリ（“アンリ5世”）を継承者と見なした。
男子のいない“アンリ5世”が後継者を定めず1883年8月24日に死去すると、一部の正統派はオルレアン家のルイ・フィリップの孫パリ伯フィリップを後継者（“フィリップ7世”）と認めたが、オルレアン家への支持を是としない正統派と、シャンボール伯の寡婦であるシャンボール伯夫人マリー・テレーズ・ド・モデーヌは、スペイン・ブルボン家（ルイ14世の孫、ルイ15世の叔父であるフェリペ5世に始まるスペインの現王家）のモンティソン伯フアン・カルロス（カルロス4世の孫で、カルリスタの支持するスペイン王位継承者でもあった）を“フランスとナバラの王ジャン3世”として王位継承者とした。スペイン・ブルボン家はスペイン継承戦争の結果、フランス王位継承権を放棄していたが、正統派はフィリップ平等公がフランス革命時に王位継承権を放棄していたにもかかわらず、その子ルイ・フィリップが即位したことを反例に、王位継承権放棄宣言は子孫にまで影響することはないとして[要出典]、男系の最近親“ジャン3世”を継承者としたのである。以後、ブルボン家の当主としてスペイン王家は（ユトレヒト条約によってスペインとフランスの同君連合は禁止されている[1]ものの）フランス王位請求権を継承している、と正統派たちは考えている。
正統派の主張するフランス王位はその後3人の継承者（スペイン王位請求者でもあった）を経て、スペイン国王アルフォンソ13世に継承された（“アルフォンス1世”）。アルフォンソ13世と王妃ビクトリア・エウヘニア（通称エナ）の次男ハイメ王子は聾唖者であったため、1933年6月23日にスペイン王位継承権を放棄し、この時セゴビア公の称号を父王より与えられたが、王制が廃止されていたフランコ政権時代の1941年、突然正統なフランス王位継承者である事を宣言し、アンジュー公を称した。正統派（レジティミスト）はセゴビア公ハイメを“フランス王アンリ6世”として認めた。この“アンリ6世”ことハイメが、ルイス・アルフォンソの祖父である。
ルイス・アルフォンソの支持者は、フランス語で「スペインの白」を意味する「ブラン・デスパーニュ」（Blancs d'Espagne）と呼ばれる。また対立者からは「アルフォンソ派」（Alfonsists）とも呼ばれる。
[編集] 経歴
ルイス・アルフォンソ・デ・ボルボーンは1974年、カディス公アルフォンソ・デ・ボルボーン・イ・ダンピエレ（Infante Don Alfonso Jaime Marcelino Manuel Víctor María de Borbón y de Dampierre, Duque de Cádiz）の子供としてマドリードで生まれた。アルフォンソ・デ・ボルボーンの妻ドニャ・マリア・デル・カルメン・マルチネス＝ボルディウ・イ・フランコ（Doña María del Carmen Martínez-Bordiú y Franco）はスペインの独裁者フランシスコ・フランコ・バハモンデの孫で（すなわちルイス・アルフォンソ・デ・ボルボーンはフランコの曾孫）、フランコは孫と孫の夫であるアルフォンソ・デ・ボルボーンに子供ができた際にアルフォンソ・デ・ボルボーンにカディス公殿下の称号を与えている。
1975年3月20日、アンジュー公およびセゴビア公を名乗っていた祖父ハイメの死去により、父アルフォンソは“フランス国王アルフォンス2世”となり、同時にアンジュー公の称号も継承した。ルイス・アルフォンソは1981年9月19日に父からトゥーレーヌ公（duc de Touraine）に叙され、1984年2月7日に兄のフランシスコが自動車事故で死去したため、加えてブルボン公（duc de Bourbon）の称号も帯びた。
1989年1月30日、父のアルフォンソ・デ・ボルボーンはアメリカ・コロラド州のビーヴァー・クリーク（Beaver Creek）でのスキー事故により死去した。これを受け、ルイス・アルフォンソは正統派の支持するフランス王家の長“ルイ20世”になり、アンジュー公の称号も継承した。ただしカディス公の称号は、スペイン政府が1987年に、世襲の称号ではなくこの称号はスペイン王室のみに属すると主張したため、継承していない。
ルイス・アルフォンソは大学で経済学を学び、銀行に勤務した。母親のいるフランスを定期的に訪れてはいるものの、専らスペインで暮らした。2003年11月にベネズエラ出身のマリーア・マルガリタ・バルガス・イ・サンタエリャ（María Margarita Vargas y Santaella）との婚約が発表され、翌2004年11月にドミニカのラ・ロマーナ（La Romana）で結婚式を挙げた。しかし スペイン国王フアン・カルロス1世とスペイン王族はこの結婚式に出席しなかった。これはフアン・カルロス王が、自身の父系の従甥であるルイス・アルフォンソがアンジュー公およびフランス王家の長の称号を名乗っていることを好んでいないのが理由と言われている。
ちなみにオルレアン派の支持するフランス王である、“フランス人の王アンリ7世”とも呼ばれる現パリ伯アンリは、フアン・カルロス王の母方の親戚である。またパリ伯は2004年に、甥のシャルル・フィリップにアンジュー公の称号を与えた。パリ伯は1987年から1989年に、正統派の支持するフランス王家の長であるルイス・アルフォンソ・デ・ボルボーンが、オルレアン派の支持するフランス王家の長である伯自身の主張に反して、アンジュー公およびフランス王家の長の称号を名乗っていることと、フランス王室の紋章を使用していることは違法であるとして、ルイス・アルフォンソをフランスの裁判所に提訴したが、フランス法廷は、現在のフランスは王国でなく共和国であり、このような訴訟はフランス共和国に関係なしとして、伯の訴えを退けた。
ルイス・アルフォンソとマリーア・マルガリタ・バルガス・イ・サンタエリャの2人は、2005年以降ベネズエラで暮らし、2007年3月5日には娘のエウヘニア（Eugenia）が生まれた。
ルイス・アルフォンソは、2006年の自分の母の3回目の結婚式に出席しなかった。これはルイス・アルフォンソが、母のセレブリティ的生活観と、自身が尊敬する母の前夫からの離婚を嫌っていたからだと言われている。
ルイス・アルフォンソの娘エウヘニアは、2007年6月にパリ駐在ローマ教皇庁外交使節館で洗礼を受けた。フランスの正統派はエウヘニアを王女ウジェニー・ド・ブルボン殿下として認めている。しかしスペインではドニャ・エウへニア・デ・ボルボーン・イ・バルガスと呼ばれる。
またフランス法務省はルイス・アルフォンソ・デ・ボルボーンを（スペイン王族として）“殿下”の称で呼んでいる。
[編集] 称号
現在ルイス・アルフォンソが所有している称号は、以下の通りである。
- アンジュー公
- ブルゴーニュ公
- トゥーレーヌ公
- ブルボン公
- （名目上の）フランス王
- （名目上の）エルサレム王
- ブルボン家家長
- マルタ騎士団名誉献身の大十字廷吏（Bailiff Grand Cross of Honour and Devotion of the Order of Malta）
[編集] フランス王位請求者（正統派）
- シャルル10世（ - 1836年）
- アングレーム公ルイ・アントワーヌ（ルイ19世、1836年 - 1844年）
- シャンボール伯アンリ・ダルトワ（アンリ5世、1844年 - 1883年）
- モンティソン伯フアン・カルロス（ジャン3世、1883年 - 1887年） スペイン王位請求者（カルリスタの王）
- マドリード公カルロス・マリーア（シャルル11世、1887年 - 1909年） スペイン王位請求者
- マドリード公ハイメ（ジャック1世、1909年 - 1931年） スペイン王位請求者
- サン・ハイメ公アルフォンス・カルロス（シャルル12世、1931年 - 1936年） スペイン王位請求者
- スペイン王アルフォンソ13世（アルフォンス1世、1936年 - 1941年）
- セゴビア公ハイメ（アンリ6世、1941年 - 1975年）
- カディス公アルフォンソ（アルフォンス2世、1975年 - 1989年）
- ルイス・アルフォンソ（ルイ20世、1989年 - ）
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ 友清理士 (2003年9月). "ユトレヒト条約（1713）" 歴史文書邦訳プロジェクト. 2007年11月15日閲覧.
|
|
|
