リン酸
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リン酸 | |
---|---|
一般情報 | |
IUPAC名 | リン酸 |
別名 | オルトリン酸 |
分子式 | H3PO4 |
分子量 | 98.00 g/mol |
組成式 | |
式量 | g/mol |
形状 | 斜方晶系に属す不安定な結晶、またはシロップ状の無色の液体 |
CAS登録番号 | [7664-38-2] |
SMILES | OP(O)(O)=O |
性質 | |
密度と相 | 1.685 g/cm3, (固体) |
相対蒸気密度 | (空気 = 1) |
水への溶解度 | |
への溶解度 | |
への溶解度 | |
融点 | 42.35 °C |
沸点 | 213 °C(分解) |
昇華点 | °C |
pKa | 2.12, 7.21, 12.67 |
pKb | |
比旋光度 [α]D | |
比旋光度 [α]D | |
粘度 | |
屈折率 | |
出典 | ICSC |
リン酸(リンさん、燐酸、英:phosphoric acid)はオキソ酸の一種で、化学式 H3PO4の無機酸である。オルトリン酸とも呼ばれる。リン酸骨格をもつ他の類似化合物群(ピロリン酸など)はリン酸類(リンさんるい、英:phosphoric acids)と呼ばれている。リン酸類に属する化合物を「リン酸」と略することがあるため、注意が必要である。リン酸化物に水を反応させることで生成する。
単体は斜方晶系に属す不安定な結晶、またはシロップ状の無色の液体。融点 42.35 ℃。水・アルコール・エーテルに可溶。
生化学において最も重要な無機オキソ酸といっても過言ではなく、DNA、ATPを構成するため非常に重要。生化学反応では、低分子化合物の代謝においてリン酸が付加した化合物(リン酸エステルなど)が中間体として用いられることが多い。またタンパク質の機能調節(またそれによるシグナル伝達)においてもリン酸化は重要である。これらのリン酸化は多くの場合ATPを用い、特定のリン酸化酵素によって行われる。
このほか、肥料・洗剤の製造、エチレン製造の触媒、清涼剤(コーラの酸味料など)、歯科用セメント、金属表面処理剤、ゴム乳液の凝結剤、医薬、微生物による廃水浄化など用途は幅広い。
目次 |
[編集] 性質
純粋な無水リン酸は常圧で融点42.35 ℃の白色固体であり、融解後は無色透明な液体となる。
オルトリン酸という別名があるが、この別名が用いられる場合はポリリン酸類と区別するという意味で用いられる。オルトリン酸は環境に無害な無機物であり、3価のやや弱い酸である。極性の高い化合物であるため、水に溶けやすい。オルトリン酸を含むリン酸類のリン原子の酸化数は+5であり、酸素の酸化数は-2、水素の酸化数は+1である。3価の酸であるため、水と反応すると電離して3つの水素イオン(H+)を放出する。
- H3PO4(s) + H2O(l) H3O+(aq) + H2PO4–(aq) Ka1= 7.5×10−3
- H2PO4–(aq)+ H2O(l) H3O+(aq) + HPO42–(aq) Ka2= 6.2×10−8
- HPO42–(aq)+ H2O(l) H3O+(aq) + PO43–(aq) Ka3= 2.14×10−13
1段階目の電離により発生するアニオンはH2PO4–である。以下同様に2段階目の電離によりHPO42–が、3段階目の電離によりPO43–が発生する。25℃における平衡反応式と酸解離定数(Ka1, Ka2, and Ka3)の値は上に示す通りであり、pKaの値もそれぞれpKa1=2.12、pKa2=7.21、pKa3=12.67(各25℃)となる。
pKaの値からも分かるように、オルトリン酸の共役塩基は幅広いpHに渡って存在することができる。この性質を利用し、リン酸塩としたものが緩衝溶液に用いられている。リン酸塩類は生物学の分野においても多々登場しており、特にDNAやRNA、アデノシン三リン酸などのリン酸化された糖がよく知られている。詳細については記事リン酸塩を参照のこと。
オルトリン酸を加熱すると脱水反応が起こる。150 ℃で無水物となり、200 ℃で2つのオルトリン酸が反応し徐々にピロリン酸(H4P2O7)が生成する。300 ℃以上では1つのリン酸ユニットにつき1つの水分子が脱離してメタリン酸(ポリリン酸、示性式:HPO3)が生成する[1]。メタリン酸はオルトリン酸が縮合した、水分を含まない化合物とみなすことが可能である。それ以上の脱水は非常に難しいが、脱水したら五酸化二リン(十酸化四リン)が生成する。五酸化二リンは水と激しく反応する固体であり、乾燥剤としても用いられる。
75~85%の純粋な水溶液は、無色透明で無臭、揮発性のない粘性液体である。一般的には85%の水溶液として用いられることが多い。高濃度では腐食性を持つが、希薄溶液にすると腐食性は下がる。高濃度の溶液では温度によりオルトリン酸とポリリン酸の間で平衡が存在するが、表記の簡略化のため市販の濃リン酸は成分の全てがオルトリン酸であると表記されている。
[編集] 利用
[編集] ハロゲン化水素の調製
リン酸と無機ハロゲン化物を反応させると、対応するハロゲン化水素ガスが発生する。これは研究室レベルでハロゲン化水素を入手する簡単な方法である。
- 3NaCl(s)+H3PO4(l) → NaH2PO4(s)+HCl(g)
- 3NaBr(s)+H3PO4(l) → NaH2PO4(s)+HBr(g)
- 3NaI (s)+H3PO4(l) → NaH2PO4(s)+HI (g)
[編集] さびの除去
リン酸は錆びた鉄の表面に存在する酸化鉄を水溶性のリン酸塩へと変換し、その後水洗することで鉄さびを除去することができる。この廃液処理は環境に配慮する必要がある。
[編集] 食品添加物
リン酸塩としたものが食品添加物として用いられている。リン酸塩が身体に与える影響について、様々な議論が交わされている。
[編集] 合成
- 熱合成法
- リン単体を燃焼させ五酸化二リンを生成させ、これを希薄なリン酸水溶液に溶解させることで純粋なリン酸が得られる。最も環境にやさしい合成法であるが、鉱山から採掘されたリン単体に含まれる不純物を取り除く必要がある。
- 3H2SO4(aq) + Ca3(PO4)2(aq) + 6H2O(l) ↔ 2H3PO4(aq) + 3CaSO4(aq)+ 6H2O(l)
- 湿式合成法
- 約35%の硫酸をリン鉱石(リン酸カルシウム)と反応させることで得られる。
- 3H2SO4(aq) + Ca3(PO4)2(aq) + 6H2O(l) ↔ 2H3PO4(aq) + 3CaSO4(aq)+ 6H2O(l)
- 10H2SO4(aq) + 3Ca3(PO4)2・CaF2 + 20H2O(l) ↔ 6H3PO4(aq) + 10(CaSO4・2H2O)+ 2HF(g)
- ろ過により精製可能であるが、フッ化水素酸などの不純物が混入することがあるため、熱合成法と比較すると純度が落ちる。
[編集] 参考文献
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- International Chemical Safety Card 1008
- National Pollutant Inventory - Phosphoric acid fact sheet
- NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards
- Excel spreadsheet containing phosphoric acid titration curve, distribution diagram and buffer pH calculation
- General Hydroponics Liquid pH Down MSDS fact sheet
|
|
---|---|
アルコール - アルデヒド - アルカン - アルケン - アルキン - アミド - アミン - アゾ化合物 - ベンゼン - カルボン酸 - シアネート - ジスルフィド - エステル - エーテル - ハロゲン化アルキル - イミン - イソニトリル - ケトン - ニトリル - ニトロ化合物 - ニトロソ化合物 - ペルオキシド - リン酸 - ピリジン - スルホン - スルホン酸 - スルホキシド - チオエステル - スルフィド - チオール |