リングワールド
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『リングワールド』 (Ringworld) は1970年にラリー・ニーヴンが発表したノウンスペースを舞台とするSF小説。ヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞。SF小説の中でも有名なもののひとつである。続編として3つの長編小説が発表されており、また他の数々のノウンスペースシリーズの作品とも結びついている。
日本語訳版は小隅黎が翻訳し、早川書房より出版された(ISBN 4150106169)。
目次 |
[編集] あらすじ
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
2850年、ある恒星をリング状に取り囲む巨大な謎の人工構造物「リングワールド」への探検隊が組織された。選ばれたのは二人の人類と二人の宇宙人である。テレポーテーションや絶対に壊れない宇宙船船殻などを実現した、非常に科学技術が進歩した世界を舞台としている。
主人公のルイス・ウーは元冒険家で200歳の誕生パーティーを迎えたところである。その年齢にもかかわらず、進歩した医療技術や細胞賦活剤(ブースタースパイス)のおかげで、肉体的には青年そのものである。彼は、自分の誕生日を地球上の各地に用意したパーティー会場を日付が変る前に転移ボックスで移動してすごしていた。しかし、実際にはこのような生活に飽き始めていた。
ネサスは、高度に進歩したテクノロジーを持つとともに、非常に臆病なことで知られるパペッティア人である。ネサスは、まだほとんど未知の存在であるリングワールドへの探検隊員を集めるため地球に派遣された。パペッティア人はこのような仕事には他の種族を操り、自らは危険を犯さないことで有名なのである。
「獣への話し手(スピーカー・トゥ・アニマルズ)」は、ネコに似た獰猛で肉食性の種族、クジン人である。クジン人はかつて人類との戦争に敗れた種族である。彼は警備担当として探検隊に加わる。 クジン人の振る舞いは日本のサムライをモデルにしていると思われる。例えば、「話し手(スピーカー)」によればみずからの名誉を守るために戦う時、長々と挑戦の言葉を口にする必要はないという。「"You scream and you leap."(ひと声わめいて、とびかかれ)」ただそれだけだと。
四人目の隊員ティーラ・ブラウンは、若い人間の女性で、探検でどのような役割を果たすかは、すぐには分からない。だが、ネサスは意味も無く何かをする者ではない。彼女の役割は、物語がすすむにつれて明らかになる、
探検隊の宇宙船はリングワールド上に墜落してしまい、彼らは宇宙に戻るための方法を探さねばならなくなる。彼らは、非常に長距離を旅しながら、奇妙な変化を遂げた生態系を目の当たりにし、様々な原始的な文明と接触する。そして、リングワールドの住民がテクノロジーを失うことになった原因を知ることになるが、誰が何のためにリングワールドを建設したのかは謎のままとなる。
[編集] コンセプト
ニーブンは、他のノウンスペースシリーズの作品に登場する様々な異星人や面白いコンセプトを本作品にもちりばめている。それは、下記のようなものである。
- パペッティアのゼネラル・プロダクツ製の船殻は、可視光と重力以外のすべてを遮断し、反物質以外のなにものにも破壊されることがない。
- スレイヴァーの停滞(ステイシス)フィールドは、内部の時間を停滞状態にすることができる。時間がほとんど停止状態にあるため、停滞状態の物質は朽ちることがない。
- 非常な幸運は遺伝する形質であり、この世界で行われている出産権抽籤という"自然淘汰"により生じた遺伝子によるものである。
- タスプは、ボタンを押すことで脳の快楽中枢に極上の快楽を引き起こす装置で、相手を傷つけることなく骨抜きにする際に使用される。
- 耐衝装甲服(インパクト・アーマー)は、柔らかな素材の衣類だが、急激な応力の変化(例えば発射された弾丸の衝撃)により瞬時に鋼鉄よりも硬い状態になる。この技術は現実のものとなりつつあり、実際に2006年冬季オリンピック [1]で試用された。
- ひまわり花はスレイヴァーの奴隷種族テゥヌクティプによって開発された植物で花びらが反射鏡となっている。群生全体で光を反射させ集中させることで外敵を焼き殺すことが出来る。
- シンクレアの単分子チェーンはひとつの分子で構成されたきわめて強靭なケーブルである。
- 自在剣はシンクレアの単分子チェーンを停滞フィールドで包んだものでありきわめて細く見えないほどだがどんなものでも切断することが出来る。
この小説は宗教的原理主義も風刺している。リングワールドの住民は優れたテクノロジーを失って久しく、いまやリングワールドの驚異は神のなせる業と考えている。四人の探検隊は司祭、群集、狂信者の集団といった人々に出会うことになる。
だが、もっとも読者を楽しませるのは、リングワールドというアイディアそのものだろう。ニーヴンは、リングワールドの桁外れの巨大さや、地表面に立ってみると全体がどのように見えるか等、様々な観点でその驚異を描いてみせている。
[編集] リングワールド (人工天体)
半径 | 約1.5×108 km(約1天文単位) |
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周囲 | 約9.7×108 km |
幅 | 1,600,000 km |
側壁の高さ | 1,600 km |
質量 | 2×1027 kg(1,250,000 kg/m²、つまり厚さ250 m、5,000 kg/m³) |
地表面の面積 | 1.6×1015 km²、地球の表面積の300万倍。 |
地表面の重力 | 0.992 G(=9.69 m/s²) |
自転速度 | 約1,200,000 m/s |
主星のスペクトル分類 | G2に近いG3、太陽よりやや小型で低温。 |
1日の長さ | 30時間 |
自転周期 | 7.5リングワールド日(225時間、9.375地球日) |
リングワールド上では1日より長い時間単位として「ファラン」がある。1ファランは10回転あるいは75リングワールド日(93.75地球日)である。すなわち4ファランが1地球年強に相当する。 |
“リングワールド”は幅が約100万マイル、直径がほぼ地球の公転軌道(周囲が約6億マイル)の人工のリング状天体である。中心に恒星があり、“リングワールド”を回転させることで地球に近い人工重力を作り出している。リングの内側は地球の表面の約300万倍の広さがあり、居住可能となっている。リングの両縁には高さ1000マイルの壁があり、大気が逃げ出さないようになっている。 リングワールドはダイソン球を薄く輪切りにしたものとみなすことができ、多くの似通った特性を持つ。ニーブン自身、リングワールドのことを「ダイソン球と惑星との中間の形態」と考えている。
“リングワールド”(正確には“ニーヴンのリング”というべきであろうが)は、このような構造物をさす一般用語として使われることもある。他のSF作家もニーヴンのリングワールドのバリエーション的なものを考案している。特にイアン・バンクスの『Culture Orbital』はミニチュアのリングワールド群を最もよく描いているし、他にも同名のビデオゲームもあるリング状のヘイロー構造体などがある。
[編集] リングワールドの地理
リングワールドでの方位は、円周に沿った向きが「回転方向(スピンワード)」「反回転方向(アンチスピンワード)」、側壁の向きが「右舷(スターボード)」「左舷(ポート)」と呼ばれる。
”床”および側壁は、極めて密度の高い「構成物質(スクライス)」でできている。厚さ30m以下の「スクライス」の表面(内側)に土砂が盛られ、植物が生えている。”床”の裏、つまり、外側は、発泡した「スクライス」で覆われ、隕石からの保護層となっている。山、川、海などのあらゆる地形は「スクライス」自体によって型取りされた上に作られており、裏から見ると凹凸が逆になっている。後述する「大海洋(グレート・オーシャン)」を除けば、海の深さは10mに満たない。海は自動機械によって浚渫され、海底に堆積した土砂は太いパイプを通って側壁の高さ数十マイルにある開口部から放出される。開口部の下は円錐を縦に割ったような形の「こぼれ山(スピルマウンテン)」になっている。「こぼれ山」は両側の壁に沿って一定間隔で立ち並び、リングワールド全体でおよそ5万個ある。
側壁の外側の張り出し部分に宇宙船の発着場が設けられている。ここでリングワールドから外へ出れば、宇宙船はリングワールドの自転速度で飛び出すことになるので、それだけで恒星からの脱出速度以上の速度が得られる。到着した宇宙船を減速させるために側壁の上にマスドライバーのような施設が用意されているが、これはリングワールドの建設後にそこで進化した種族の一つが設置したもので、当初からあったわけではないらしい。
「大海洋(グレート・オーシャン)」は、リングワールド上の恒星を挟んで向かい合う二ヶ所に作られた、地球の表面積の何十倍もの広さの海である。その中には地球、火星、ジンクス、クジンなどといった近隣の恒星を巡る惑星の、リングワールドが建造された当時(おそらく数百万年前)の姿を投影した、ほぼ実物大の「地図」がある。
「神の拳(フィスト・オヴ・ゴッド)」は、「大海洋」のひとつから回転方向に数万キロのあたりにそびえる巨大な山で、過去のいつか、リングワールドの外側に衝突した巨大隕石が「スクライス」を突き破った跡である。その山頂は大気圏の上まで飛び出し、オーストラリア大陸ほどの広さの穴になっている。山麓は地球の表面積よりも広い範囲が隆起し、山頂に近づくにつれて砂漠化あるいは永久凍土化し、ついには「スクライス」が剥き出しになっている。
リングワールドの住人については『リングワールドふたたび』を参照。
[編集] リングワールドの工学
リングワールドの建設は空想の域を出ない。仮にこのようなものが作られたとすれば、内面には途方もない広さの居住可能な土地を持たせられるであろう。だが、建設および回転させるために必要なエネルギーは莫大なもの(主星から得られる全エネルギーの数世紀分に相当)となるだろう。これまで考えられなかった何らかのエネルギー源が利用できるようにならなければ、人類の時間感覚で許容可能な期間内で建設は不可能かもしれない。
さらに、「構成物質(スクライス)」に必要な引張り強度も核の強い相互作用と同程度のものが必要である(人工重力は通常の重力と違いがないので、リングは極端にスパンの長い吊り橋とみなすことができる)。自然界にはこれほど強靭な物質は発見されていない。ニーヴンのリングワールドを扱った作品中では、「スクライス」は物質変換装置で人工的に作られたことになっている。ただしこれは、使わざるを得なかった充分に発達したテクノロジーに、単に名前をつけただけに過ぎない。
注意すべきは、小説『リングワールド』で示された状態では、リングワールドは力学的に不安定であるということである。リング自体は1200 km/sで回転しているものの、リングワールドの重心は恒星に対して運動してない。つまり、リングワールドが全体として恒星の公転軌道(慣性軌道)にのっているわけではない。また、リングワールドの各部は連結されているので、リングワールドの各部が慣性軌道にのっているわけでもない。この状態では、摂動等によりリングワールドの重心が恒星からずれると、そのずれはしだいに大きくなり、最終的にはリングワールドは恒星に”落下”することになる。
この問題は『リングワールド』が出版された後に発覚した。これにより、ニーヴンは、「リングワールドは力学的に不安定」だと指摘し、この問題を解決のための続編を熱望する手紙を山のように受け取ることになった。また、1970年に開催された世界SF大会では、MITの学生がホールで同じことを大合唱したという。これらに対する彼の解答が『リングワールドふたたび』で描写された姿勢制御ジェットである。彼はその他の矛盾点についても続編でつじつまを合わせている。例えばリングワールドの海洋は塩分を含まずルイス・ウーは塩分摂取に困るはず、という問題点があった。このため『リングワールドふたたび』では「大海洋(グレート・オーシャン)」は塩分を含んでいるように描写されている。またシリーズの第四作『リングワールドの子供たち』で、リングワールドのいくつかの設計ミスを説明するための話を書いている。
ニーヴンのリングワールドには、通常の惑星と同様の昼夜を実現するため、主星の近傍に何枚もの「シャドウ・スクェア」をワイヤでつなげたリングがある。これはリングワールドの自転よりやや速く回転しており、昼夜帯の数と同じだけ薄明帯を作り出している。これらは莫大な量の日光エネルギーを受け、主要なエネルギー源としてリングワールド本体にビーム送信される。シャドウ・スクェア群も公転軌道にはないので、同様の軌道制御が必要である。『リングワールドの子供たち』ではシャドウ・スクェアはほかの欠陥が「明らか」にされている。これは充分な長さの5枚のシャドウ・スクェアが軌道上で順行・逆行運動すればよりよい昼夜サイクルを、より少ない薄明帯で実現できるというものである。ニーブンは続編『リングワールドふたたび』で、「シャドウ・スクェア」はリングワールド表面の防御システムの一翼をになっているということを明らかにした。「補修センター」から「スクライス」に埋め込まれた超伝導体の格子(グリッド)を使って隕石防御装置となる太陽フレアを発生させ、レーザービームを誘導する機能も持っているということである。
「補修センター」は火星の「地図」の地下空洞にある多数の部屋でできた巨大な迷路である。火星の「地図」は火星の希薄な大気を再現するため、リングワールドの内面から約20マイルの高さにあり、1,120,000,000立方マイルの空洞がある。「補修センター」には何千ものパク人のプロテクターの生活空間があり、かれらの食料である植物「生命の樹」を栽培するのに充分な空間もある。他の空間は「隕石防御システム」などに使用される。
以上で物語・作品に関する核心部分の記述は終わりです。
[編集] 豆知識
リングワールドの初版本では、地球の自転方向が間違って描かれている。
[編集] 続編、翻案
「リングワールド」には3作の続編がある。『リングワールドふたたび』(1980年)、『リングワールドの玉座』(1996年)、『リングワールドの子供たち』(2004年)である。
1980年にリングワールドの設定を基にしたロールプレイングゲーム『リングワールド』がケイオシアムから発売された。
Tsunami Gamesはリングワールド関連のアドベンチャーゲームを2作品発表した。1992年の『Ringworld: Revenge of the Patriarch』および1994年の『Return to Ringworld』である。
2004年、サイファイチャンネルがリングワールドのTVシリーズを製作中であると発表した。[2]。 2001年、ラリー・ニーヴンは映画化の契約にサイン済みで、すでに初期構想の段階にあると発表した。監督はジェームズ・キャメロンとの噂が持ち上がった[3]。 ほかにも企画倒れに終わった映画化の話はいくつかある。
マイクロソフトXbox用のファーストパーソン・シューティングゲーム『ヘイロー コンバット エボルヴ』のプロットにもリングワールドに似た構造物が登場する。その寸法(直径10,000キロメートル)などはニーヴンの超巨大サイズのものより、イアン・バンクスの『Culture Orbitals』に近い。このゲームのファンはニーヴンのリングワールドが生み出したセンス・オヴ・ワンダー - プレイヤーは実際に他の恒星系での無茶苦茶な作戦に派遣され、墜落までする羽目になる、多少疲れきった人間を演じることになる - にハマることになるのである。ニーヴンが「アーチ」と表現する、リングの住民から見た宇宙にそびえるリングのほかの部分の描写もヘイローで見ることができる。