ネグロイド
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ネグロイド (Negroid) は、人種のひとつ。黒人、黒色人種などとも言われる。ラテン語のnegro(ネグロ、黒)に由来するが、英語風にニグロイドともいう。
現生人類は、生物学上ホモ・サピエンスというただ一種に属している。過去の自然人類学や文化人類学上はオセアニアに見られるオーストラロイド、東アジア・東南アジア・ポリネシア・南北アメリカ大陸などに見られるモンゴロイド(黄色人種)、北アフリカ・ヨーロッパ・西アジア・アラブ・南アジアなどに見られるコーカソイド(白色人種)、及びネグロイドを4大人種という。
なお、黒人という呼称はアフリカを起源とする肌の黒い人々を指す呼称であるが、現生人類自体の起源がアフリカにあると見られている。また、過去の人種区分は欧米人の主観が強く反映されたものであり、20世紀後半までは中東地域・インド亜大陸に住む褐色のコーカソイドも黒人あるいは有色人種として扱われた。
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[編集] 区分
近年のDNA分析の成果によれば、現生人類発祥の地はアフリカにあるとされ、ネグロイドはその直系の子孫とされる。また、人種間の遺伝的距離を計ると、人種はネグロイドとコーカソイドのグループと、オーストラロイドとモンゴロイドとネイティブアメリカンのグループの、二つのグループに大別することができる。このことから黒人と白人とは、一般的な肌の色は対照的であるが近縁であると定義することが出来る[1]。肌の色はヒトという種の進化の過程で選択圧を受けやすく最も短期間に変化する形質の一つであり、肌の色の類似または相違でいわゆる「人種」を区別することはできない。肌の色を発現させる遺伝子についても同様である。言語などの文化をも基準とした「民族」と、生物学的な特徴に基づく「人種」の概念は明確に区別されなければならない。
- 図はDNA分析により証明された人種の系統である。
- アフリカン(ネグロイド)からコーカソイド(白人)が分岐し、コーカソイドからオセアニアン(オーストラロイド)・イーストアジアン(モンゴロイド)が分岐、そしてイーストアジアンからネイティブ・アメリカンが分岐した。
[編集] 伝統的な区分
伝統的な区分によれば、黒人は更に、
- メラノ・アフリカ人種
- エチオピア人種
- ネグリロ人種 (Negrillo)
- コイサン人種
などに分けられてきた[2]。
ネグロイドをコンゴイドとカポイドの二人種にわけ、これとモンゴロイド、コーカソイド、オーストラロイドを合わせて5大人種とすることがある。また、ネイティブ・アメリカンをモンゴロイドから分け、6大人種とする場合もある。
コンゴイドとカポイドは身体的特徴だけでなく、言語及び(欧米化以前の)生活様式によっても区分された。
- コンゴイドはニジェール・コルドファン語族やナイル・サハラ語族の言語を話し、農耕牧畜生活を送っていた(もしくは現在も送っている)。
- カポイドはコイサン語族の言語を話し、狩猟採集生活を送っていた(もしくは現在も送っている)。
- 遺伝子の分析によると身長の低いネグリロは周囲のカポイドと近縁である。ネグリロの代表例はアフリカのコンゴのイトゥリの森に住むムブティ族。ピグミーとも呼ばれるが、侮蔑的だととらえる向きもある。
[編集] オセアニア人やインド人との違い
オーストラリアのアボリジニやメラネシアンなどオセアニアの先住民たちは、その肌の黒さから黒人と思われる場合もあるが、彼らはオーストラロイドである。またポリネシアン、ミクロネシアンはモンゴロイドである。同様にインド亜大陸のアーリア人も同じく肌の色から黒人だと思われる場合があるが、彼らの場合はコーカソイド(白色人種)である。
[編集] 呼称とポリティカル・コレクトネス
米国などではニグロイド(ネグロイドの英語発音)という言い方は差別用語とされ、最も丁寧な呼び方として「アフリカ系の○○ (African-○○)」を使うことがある。例えばアメリカ人であった場合、アフリカ系アメリカ人 (African-American) という。ネグロイドは元来、人種に対する呼称であり、差別的なニュアンスは主に黒人奴隷を使用していた欧米諸国の社会的要因から派生したものである。ニグロと縮めて呼ぶのは前時代的な語法であり、現在では明らかな差別用語とされている。さらに「ニガー (nigger)」とした場合、その差別的意味は強まる。
米国以外の英語圏では、ブラック・パーソン(black person、複数形はブラック・ピープル - black people)と呼ぶのが社会的、政治的に正しいとされている。これは、南アジア、カリブ、太平洋諸島などアフリカ以外の地域にも肌が黒い人種が存在し、彼らを誤って「アフリカ系」と呼んでしまうことを避けるためである。「ブラック」と縮めた場合は、非公式な意味合いが強まる。
最近の米国では「アフリカ系」がよく使われるが、米国においても、必ずしも「ブラック」という呼称が差別用語にあたるとは限らない。実際に黒人は自分達のことをブラックと呼ぶことも多く、テレビのニュース番組でも「ブラック」という言葉はしばしば用いられる。ただし、明確な差別用語であるニガーという呼称も、アフリカ系同士の間では、仲間意識を込めた呼びかけとしても使用されることからもわかるように、こうした用語をアフリカ系の人が使用する場合と他人種の人が使用する場合では意味合いや受け取られ方が異なる。白人や黄色人種が用いる際は用いる文脈に考慮し慎重を期さねば差別語的意味を汲み取られる可能性もあることに注意する必要がある。すなわち「ブラック」という呼称はある意味で転換されたスティグマであり、当該の主体が用いる場合と、第三者が用いることには全く意味が違うことに留意すべきである。
さらに米国における黒人自らの文脈で「ブラック」を用いた例として、黒人公民権運動の中で用いられてきたBlack is Beautifulというスローガンは象徴的である。同様に黒人コミュニティに関係した団体組織の多くが自ら名称に「ブラック」を用いている。また『Black Hair Style』という黒人専門のヘアスタイル情報誌や、『Black Enterprise』といった黒人専門のビジネス雑誌の存在もこの用例であろう。
[編集] 脚註
- ^ 斎藤成也『DNAから見た日本人』筑摩書房 ちくま新書 525 ISBN 978-4480062253
- ^ 米山俊直『アフリカ学への招待』日本放送出版協会 NHKブックス 503 1986年6月 ISBN 9784140015032