ナイトラス・オキサイド・システム
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ナイトラス・オキサイド・システム (NOS) とは、ナイトラス・オキサイド(亜酸化窒素(笑気ガス/N2O))と呼ばれるガスをエンジン内部に噴射するシステムのこと。ナイトラス・オキサイド・システム(NOS)という名称自体はHolley Performance社の子会社であるNOS社の登録商標であるが、以下で説明する方式は一般的な亜酸化窒素噴射方式とも共通性がある。元々は第二次大戦中にドイツ空軍の航空機用に開発されたシステムで、エンジン冷却と高い高度を飛んでも出力が低下しないようにするために用いられていた。
亜酸化窒素はその英訳であるnitrous oxideよりナイトロもしくはニトロと略称されることがあるが、名称が似ているニトログリセリンとは同じ窒素化合物ではあるが化学的特性は全く異なり、爆発性はなく安定した物質である。
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[編集] 概要
このシステムはシリンダー内におけるガソリンの燃焼促進を狙ったもので、大気中の空気の1.5倍もの酸素を含んだ亜酸化窒素を、約300度まで加熱し、窒素と酸素に分離させる事で分離前の1.5倍の体積となり、通常時と比べ約2.25倍もの空気をシリンダーへ送り込むことで、より強い燃焼効果を得るという原理のシステムである。圧縮した空気を送り込むという意味では、スーパーチャージャーやターボチャージャーと類似したシステムである。
また、高圧液化されたナイトラス・オキサイドが気化する際には、約-60度で周囲の熱を奪うため、高い冷却効果もあり、また、この冷却効果で温度が下がることにより空気の圧縮率も約1.1倍程度向上する。吸気冷却という意味では、インタークーラーと類似した効果が得られる。またインタークーラーに向けて吹き付けることにより、インタークーラーの冷却効率を上げるという技も存在する。
理論的には、通常時のエンジンの排気量に対して約247.5%の出力が得られる計算になるが、実際には吸気を補うものであり、吸気の全てを置き換えるものではないので約150%程度の出力となると言われている。
基本システムは3種類の方式に分類される。
- ドライショット:N2Oガスのみを吸気管に噴射する方式。ガスのみを噴射するので、パワーアップの上限が低い(燃料が足りなくなるため)。
- ウエットショット:N2Oガスと同時に燃料も噴射する方式。N2O・燃料それぞれの噴射量を調整して、理想的なA/F(空燃比)を実現できる。一番メジャーな方式である。
- ダイレクトポート(ショット):システムはウエットショットと同様であるが、各シリンダー毎に噴射口を設ける方式。単純に噴射量を多く取れる上、シリンダー毎に同一量噴射出来るので、燃焼状態を均一に出来るというメリットもある。パワーの上限が非常に高いうえ、エンジンコンディションを管理し易いので、競技用途では100%この方式が採用されている。
上記以外の方式としては、
- 基本はドライショットだが、純正インジェクターの噴射時間を延長する事によってウエットと同等の出力を実現する方式(VENOM・NXマキシマイザー等)
- 燃調や点火時期・噴射タイミング等をフルコン(FコンVプロ・モーテック等)で制御し、総合的にマネジメントする方式
- 後付けのオプションユニットにより、噴射時に点火時期・燃調等を制御させる方式(NOS/NXオプションパーツ・MSD等)など、様々な「亜種」が存在する。
ナイトラスチューンの最大のメリットは、そのコストパフォーマンスの高さにある。「1馬力1万円」という事がまことしやかに囁かれるチューニング業界において、例えば20万円前後の投資で50馬力以上の出力向上が可能なチューニングは他にない。また、汎用性が高いので、車を乗り換えても再度使用出来ることや、噴射さえしなければ純正となんら変わらない状態で走行できることも魅力のうちである。
アメリカでは絶大な人気を誇るメジャーなチューニング手段であるにも拘らず、日本国内では未だに「エンジンが壊れ易い」「爆発する」などという偏見がまかりとおっているが、その原因は亜酸化窒素がニトログリセリンと勘違いされている事、施工する店舗の知識/経験の不足・噴射時における点火時期の遅角(リタード)が重要な点が理解されていない等の要素がある。特に、施工するショップが少ないことは問題で、他のチューニングと同様、専門知識を必要とするセッティングが必要なのは当然であるのに、一般ユーザーがネットオークションや並行輸入で直接購入して、見よう見まねで自分で取り付けるケースが多いのも、「壊れやすい」というイメージを助長している一因と考えられる。
留意すべき点はただ単にナイトラスを加える事によって酸素比を増やすだけで燃料ポンプの強化を施し増量供給をしなければ逆にシリンダー内の金属が高温酸素で腐食される事がエンジン劣化に影響している。
ただ、近年のスポコンブームや、全日本プロドリフト選手権で使用する車輌が多くなってきた事で、以前よりは認知されている傾向にある。
[編集] 主なメーカー
- NOS
- NX(ナイトラスエクスプレス)
- VENOM(ベノム)
- エーデルブロック
- ZEX(ゼックス)
- ナイトラスワークス
[編集] 備考
ガスの充填だが、液化状態で充填しなければならないので、専用の圧送充填器が必要になる。充填器はNOS社とNX社のものが中心である。
使用する液化亜酸化窒素ガスは各装置メーカー製ではなく一般のガス会社より購入して使う。液化状態にて充填するので、残念ながらボトルをガス会社に持ち込んでも充填を断られる場合が多い。
オプションパーツのひとつに「パージバルブ」というものがある。本来の設計はスーパーチャージャー・ターボチャージャー等の過給機で規定以上の加圧がされてしまった際の安全弁だが、故意的にナイトラス使用前に配管内のエアを抜き、ガスで満たすことによって、噴射使用時のタイムラグを無くす目的として使える部品である。噴射時の様子が非常に派手なので、近年はショー的な要素が高まっている部品である。このパーツは映画 ワイルドスピードX2でGT-Rが行っていた事で認知度が高まった。
[編集] 関連項目
- 過給機 - 吸気を圧縮する装置(スーパーチャージャーやターボチャージャーを含む)
- 水メタノール噴射装置 - 吸気を冷却してエンジンの熱効率を上げるための装置(インタークーラーと類似の効果がある)