トミー・スミス
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オリンピック | ||
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陸上競技 | ||
金 | 1968 | 男子200m |
トミー・スミス(Tommie Smith, 1944年6月5日 - )は1968年メキシコシティオリンピックで男子200mを制したアメリカの著名な男子短距離陸上選手。
[編集] 経歴
トミー・スミスはカリフォルニア州リムーアで生まれた。サンノゼ州立大学(San Jose State)での学生時代、全米体育協会(Amateur Athletic Union 略称:AUU)の1ハロン走(201メートル競走)王者に加え、1967年全国大学選手権220ヤード走(201メートル競走)のタイトルを獲得した。彼は1968年全米アマチュア競技連盟の200mを連覇、メキシコシティオリンピックのアメリカ・ナショナルチームの一員に選ばれた。1968年メキシコシティオリンピック男子200mにおいて19秒83の世界新記録で金メダルを獲得。しかし、その表彰台で後述するアメリカ国内の黒人差別に抗議するパフォーマンスを行い、アメリカオリンピック委員会(United States Olympic Committee 略称:USOC)によってオリンピックから追放される。
トミー・スミスはリムーア高校在学中でさえ、そのとてつもない潜在力の片鱗を示し、今も破られていない多くの記録を含め、ほとんどの陸上競技で校内記録を打ち立てた。大学卒業後の3年間、シンシナティ・ベンガルズ(Cincinnati Bengals)でプロフットボール選手となった。その後、オハイオ州のオーバーリン・カレッジ(Oberlin College)で陸上競技のコーチとなる。彼はここで社会学も教えていた。そして、現在はカリフォルニア州サンタモニカにあるサンタモニカ大学で学部教授となっている。
トミー・スミスは生涯7つの個人世界新記録を樹立している。そしてサンノゼ州立大学時代はいくつかの世界記録を獲得した陸上リレーチームの一員でもあった。100mの10秒1、200mの19秒83、そして400mの44秒5という最高タイムを持ち、今日でも依然として記録リスト(the All-time Records)の上位にランクされている。また現在はほとんど行われないが、直線路の200m走においては、19秒5というとてつもないタイムを記録している。
1978年、全米陸上競技の殿堂(the National Track and Field Hall of Fame)入りメンバーとなった。1996年、トニー・スミスはカリフォルニア黒人スポーツ栄誉殿堂(the California Black Sports Hall of Fame)入りし、1999年にはスポーツマン・ミレニアム賞(the Sportsman of the Millennium Award)を受賞している.2000年から2001年、ロサンゼルス郡やテキサス州はCommendation, Recognition and Proclamation Awardsを送っている。
[編集] オリンピックでの抗議パフォーマンス
1968年メキシコシティオリンピック男子200mにおいて金メダルを獲得したスミスは、メダル授与の際、銅メダルを獲得したチームメイトのジョン・カルロスと共に黒手袋をつけ、靴を脱いで黒いストッキングを見せる格好で表彰台に上がった。アメリカ国内の人種差別に抗議するために彼らは星条旗が掲揚されている間中、ブラックパワー・サリュート(Black Power salute)という拳を高く掲げるブラックパワーを誇示するパフォーマンスを行ったのである。同競技の銀メダリストでオーストラリアの白人ピーター・ノーマンも2人の抗議行動を支援、彼もまた表彰台で人権を求めるオリンピック・プロジェクト(Olympic Project for Human Rights 略称:OPHR)のバッチを着けていた。アメリカオリンピック委員会(United States Olympic Committee 略称:USOC)は2人のパフォーマンスを政治的パフォーマンスとして非難、アメリカ・ナショナルチームから即日除名すると共に、オリンピック村から強制的に追放した。しかし、オリンピックという国際舞台でのジョン・カルロスとトミー・スミスの抗議パフォーマンスは、アメリカ公民権運動上の画期的な事件の一つとなった。
両名に厳しい措置がとられたも関わらず、その後もメキシコシティオリンピックの表彰台ではアフリカ系アメリカ人による抗議のパフォーマンスが繰り広げられた。男子400mを独占したアメリカのリー・エンバス、ラリー・ジェイムズ、ロン・フリーマンは黒いベレー帽をかぶり、トニー・スミスら同様に拳を掲げた。男子走幅跳の金メダリストボブ・ビーモンは黒いソックスを履き、同じく男子走幅跳のラルフ・ボストンは素足で壇上に上がった。いずれも「黒」を強調することでブラックパワーを誇示するパフォーマンスである。表面上、非政治性・政治的中立性を装うオリンピックは、奇しくも競技者の身体的表現によって、アメリカ国内における人種問題の矛盾を全世界に表明する政治的な「場」となったのである。