ジェームズ・モリアーティ
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ジェームズ・モリアーティ(James Moriarty、モリアーティ教授)は、イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルが19世紀に発表した推理小説『シャーロック・ホームズシリーズ』に登場するキャラクターの一人。
21歳にして素晴らしい科学論文を書くほどの高い知的能力をもった元数学教授という表の顔と、ロンドンに暗躍する悪党一味の統領として機智を振るい、狙った獲物は必ずしとめる犯罪者という裏の顔がある。シャーロック・ホームズとの接点が作品に描かれるのは、『最後の事件』・『空き家の冒険』・『恐怖の谷』の3回である(『恐怖の谷』事件は、『最後の事件』より前の出来事として描かれる)。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
ジェームズ・モリアーティは最低でも三人兄弟であり、弟が一人いる事が確認されている。一人は軍人でジェームズといい、弟は駅長をしている。多くの研究者の間でこれは一種の複合姓ではないかと考えられている。ホームズがモリアーティを表して曰く、「彼は犯罪のナポレオンだよ、ワトスン君。この大都会の半分の悪事、ほぼすべての迷宮入り事件が、彼の手によるのだ。(He is the Napoleon of crime, Watson. He is the organizer of half that is evil and of nearly all that is undetected in this great city.《最後の事件》)」。
21歳にして二項定理に関する数学論文を発表し、地方の小さな大学(ダラム大学とされる)に数学教授の職を得て、「小惑星の力学」という論文を発表するなどその才を発揮したが、同時に、犯罪者としての才も発揮し、それによって職を追われ、ロンドンで「軍人の家庭教師となった」と言われているが、これは翻訳の間違いである。原文はロンドンでan army coachになったと書いてある。これは「サンドハーストの陸軍士官学校を受験する学生のための予備校の教師」である。予備校教師の仕事はアリバイにもなり、格好の隠れ蓑だった。モリアーティはその天才的な頭脳により犯罪組織を統べ上げ、君臨し、自ら手をだすことなく、手下に計画を授けることでその目的を遂げる。
ホームズはモリアーティの容貌についてこう述べている。「彼はすこぶる背が高く痩せていて、白くカーブを描く突き出た額を持ち、深く窪んだ眼をしている。ひげは綺麗に剃られ、青白く、苦行者のようであり、顔立ちにおよそ教授らしきものを漂わせている。彼の背は長年の研究から曲がり、顔は前へ突き出、爬虫類のように奇妙に、いつでもゆらゆらと左右に動いている。(最後の事件)」。
モリアーティの人脈は多岐にわたる。作品内に登場した部下としては、ポーロック、セバスチャン・モラン大佐、フォン・ヘルダーの3人がいる。彼らはモリアーティに情報や殺人技量、武器などをそれぞれ提供する。情報網は緻密で、ホームズはそれを称して「千本もの糸を張り出したくもの巣の真ん中に動かないで坐っているよう」と言っている。その情報をもってモリアーティは判断をし、作戦を与えるのである。計画立案の見事さたるや、狙った獲物は必ず逃さないほどで、また、組織の巨大さにより計画が失敗しても、中心部にいるモリアーティらには全く嫌疑もかからなかった。その才を発揮している例が『恐怖の谷』のジョン・ダグラス殺しである。モリアーティはアメリカから渡ってきた復讐者に案を授けて実行させるが、それが失敗したのを見ると、またもや逃亡するジョン・ダグラスを自らの手下に暗殺させた。この事件はモリアーティの手下の一人であるポーロックによる殺人計画の告発に始まるが、この事件においても、モリアーティはホームズによるもの以外は何の嫌疑も掛けられていない。
[編集] モリアーティというキャラクター
モリアーティはもともと、ドイルがシャーロック・ホームズを終わらせるために作り上げた人物である。そのため、ホームズと同等の知能を持たされた。2人は自らの運命を託して勝負をし、大方はホームズの勝利に終わるが、しかし2人ともライヘンバッハの滝で命を落す、と『最後の事件』で書かれた。しかし、ホームズの復活を望む読者の声に押されて書かれた『空き家の冒険』でホームズは生きていたことにされ、モリアーティ教授の片腕を務めていたモラン大佐と対決する。モリアーティがライヘンバッハの滝壺に転落死した後、モリアーティ残党がホームズの復活とともに駆逐される。この点において、モリアーティは完敗である。そして、ホームズは『空き家の冒険』の次作『ノーウッドの建築業者』の冒頭で「モリアーティを失って以来、この町はつまらなくなった」と述べている。後に書かれた長編『恐怖の谷』においては、モリアーティはホームズと間接的に対決し、勝利を収める。これは、『最後の事件』に臨む前の対決である。 モリアーティは作者ドイルの母親メアリのスペルをもじって作り出した人物だといわれ、彼をホームズと共に、ライヘンバッハの滝に転落させたことから、作者ドイルの母親に対する感情が推測できる。
モリアーティはホームズシリーズの読者に強い印象を与えたが、言及も含めての登場は6作品に留まる。にも関わらず、かくもホームズファンにとって印象深いのは、ホームズが唯一苦戦した相手というのもあるだろう。
モリアーティがその後のフィクションに与えた影響は大きく、名探偵に相対する悪の組織の首魁、しかも自ら正体をあらわさず、手を汚さない犯罪立案者、というキャラクターは、ルパンのような爽快感を伴う「怪盗」キャラクターとは一線を画す「完全なる悪」として君臨し続けることになるのである。その名前は『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』の犯人役としても登場し(正確には犯人「森谷帝二」の名前のモデル)、探偵ファンには真犯人が誰かすぐにわかるとニヤリとさせていたこともある。『金田一少年の事件簿』に登場する一の宿敵「地獄の傀儡師」こと高遠遙一はこのモリアーティの日本版とも言えるだろう。
劇団四季が上演したミュージカル『キャッツ』の原作は詩人T・S・エリオットの『キャッツ - ポッサムおじさんの猫とつき合う法(The Old Possum's Book of Practical Cats)』であるが、そのなかに登場するマキャヴィティというキャラクターは、ホームズ・ファンであったエリオットがモリアーティをモデルに作ったものである。
アメリカの推理作家マイケル・クーランドは、モリアーティを主人公とし、ホームズと共闘させるという推理小説「千里眼を持つ男」(講談社文庫)を執筆している。
SFではTV『新スタートレック』第29話「ホログラムデッキの反逆者」及び第138話「甦ったモリアーティ教授」で登場。モリアーティ教授(の人格プログラム)が、その天才的な知性によって自分がプログラムに過ぎないことを知り、ホロデッキの外の世界に出ていこうとする話となっており、ホロデッキの抱える問題点を考えさせられる話となっている。