オペラ座の怪人
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『オペラ座の怪人』(オペラざのかいじん; もともと邦題は「オペラの怪人」であり、書籍や映画もこの邦題が使用されていたが、劇団四季によるミュージカル版上演に際して、フランス語原題に含まれる"l'Opera"の意味するところにより「オペラ座の怪人」と改題され(単なる“オペラ”ではなく固有名詞『オペラ座』)、現在はこの題でほぼ統一されている)
- ガストン・ルルーによって、1910年に発表された小説(原題:Le Fantome de l'Opera)。
- 1にもとづいて作られた映画、テレビ映画。多数が製作されている。
- 1に基づいて作られたミュージカル。
- ケン・ヒルによるもの(1976年初演)→オペラ座の怪人 (1976 ミュージカル)
- アンドリュー・ロイド=ウェバーによるもの(1986年初演)→オペラ座の怪人 (1986 ミュージカル)
- アーサー・コピット&モーリー・イェストンによるもの(1990年TV放映、1991年初演)。→ファントム (ミュージカル)
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
目次 |
[編集] 原作の概要
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1910年にガストン・ルルーが発表した怪奇小説。記者でもあったルルーの取材談のような疑似ノンフィクションテイストで書かれている。ルルーは執筆にあたり、実際のオペラ座の構造や地下の広大な奈落、建築経過などを詳しく取材しており、かつオペラ座が建設された当時の実際の幽霊話や陰惨な事件などを用いて、虚構と現実が入り交じったミステリアスな怪奇ロマンとして執筆した。
物語前半は、謎の『天使の声』に導かれ歌手として頭角を現す女優クリスティーヌ・ダーエと、彼女が謎の声に魅了されている様子を見て悩み苦しむ恋人ラウル・シャニュイ子爵の葛藤を中心とし、後半は『ファントム=怪人』ことエリックの暴走と悲劇的な素性、そして彼の秘密を知るペルシャ人・ダロガの手記という形で描かれている(この手記を手に入れたルルーが本作を執筆したという仮想現実構造になっている)。特に終盤はダロガが事実上の主役級になっているのが、後のミュージカル版等との大きな相違である。
現在国内では創元推理文庫、ハヤカワ・ミステリ文庫、角川文庫から邦訳本が発売されている。
[編集] あらすじ
19世紀末のパリ、オペラ座の若手女優クリスティーヌは、自分の楽屋の裏から聞こえる『天使の声』の指導で歌唱力を付け頭角を現すが、オペラ座には謎の怪人が住み着いており、月給2万フランと5番ボックス席の常時確保などを支配人に要求していた。クリスティーヌの恋人ラウル子爵は天使の声の主に嫉妬し謎を解こうとするが、その主こそ『怪人』であり、オペラ座の地下に広がる広大な水路の空間に住み着いた男エリックであった。エリックは生来の醜悪な人相に壊死した皮膚を持つ、見るもおぞましい異形の男であったが、投げ縄や奇術の天才であり、クリスティーヌに恋をしていた。エリックは遂にクリスティーヌを誘拐してオペラ座の地下深く消え、残されたラウルは謎のペルシャ人・ダロガと共にクリスティーヌを追ってオペラ座の地下へ潜入する。
[編集] 映画版の概要
[編集] 1925年版
- 原題「THE PHANTOM OF THE OPERA」
- 邦題「オペラの怪人」
- 監督:ルパート・ジュリアン
- 出演:ロン・チェイニー(エリック)
- サイレント・モノクロ・上映時間75分。
- オペラ座の怪人初の映画化作品。登場人物を必要最低限に減らした点と結末が異なる点以外は原作に比較的忠実な映画化。なおエリックが「音楽と奇術に明るい、脱獄した猟奇犯罪者」と設定が変更されている。これ以降の映画版ではいずれもエリックが火事や事故などで醜悪な人相になった等と、その原因を様々にアレンジして描いているが、本作は原作通り生来の醜さで、性格俳優ロン・チェイニーが特殊メイクを施して『ドクロのような人相のおぞましい化物』という描写をほぼ忠実に再現しているのが特徴。またエリックがクリスティーヌに向ける愛もやはり原作通り身勝手でストーカーまがいの狂気じみたものであり、ミュージカル版で顕著になった三角関係という解釈はまだなく、純粋な怪奇映画の体裁を持っている。現在国内においてもビデオソフトは繰り返し発売されているため視聴は容易。
[編集] 1943年版
- 原題「THE PHANTOM OF THE OPERA」
- 邦題「オペラの怪人」
- 監督:アーサー・ルービン
- 出演:クロード・レインズ(エリック)、スザンナ・フォスター(クリスティーヌ)、エドガー・バリア(ラウル)、ネルソン・エディ(アナトール)
- カラーで制作された2度目の映画化作品で、常軌を逸する以前のエリックの悲劇を物語冒頭に組み込むことで、彼を「怪物」扱いすることなしに、一人の人間として描き出そうという試みがみられる。エリックは、20年来オペラ座で演奏を続ける初老のバイオリニスト、という設定で、舞台袖に立つ新人・クリスティーヌの歌声に類稀なる才能を見出すと同時に、その可憐さと美しさに密かに恋焦がれる。エリックは、演奏して得られるわずかばかりの給与を、すべて匿名にてクリスティーヌのレッスン料につぎこみ、自らは貧しさのなかで古アパートに暮らしていた。度重なる悲劇に見舞われ、遂には下水溝の暗闇に身を隠すエリックとは対照的に、クリスティーヌは自らの才能を徐々に開花させ、多くの男性から恋心を寄せられる、天使のようなプリマドンナへと成長を遂げる。本作において、クリスティーヌがエリックに心惹かれるシーンは残念ながら皆無である。エリックの、醜く歪んでいながらも、ひたむきな愛が彼女に理解されることはなく、クリスティーヌは哀れみと憎悪以外の何ものもエリックに対して抱くことはないままに終わった。43年度アカデミー撮影賞、舞台装置賞を受賞。
[編集] 1962年版
[編集] 1974年版
- 原題「PHANTOM OF THE PARADISE」
- 邦題「ファントム・オブ・パラダイス」
- 監督:ブライアン・デ・パルマ
- 出演:ウィリアム・フィンリー(ウィンスロー・リーチ)
- ブライアン・デ・パルマ監督が、現代を舞台にしたロックミュージカルとしてアレンジした作品。大物のロックプロモーターに新作を盗まれた上、濡れ衣を着せられて刑務所に送られてしまった主人公が復讐のために脱獄するも、忍び込んだレコード会社でプレス機に挟まれて顔を潰されてしまう。以後彼は仮面を被りファントムとなって、プロモーターの経営するコンサート会場「パラダイス座」の楽屋に忍び込み復讐の機会を伺う。過激な画面構成と終盤の意外な展開によって、原作の物語からは大きく離れているものの非常に人気の高い作品。
[編集] 1989年版
- 原題「THE PHANTOM OF THE OPERA」
- 邦題「オペラ座の怪人」
- 監督:ドワイト・H・リトル
- 出演:ロバート・イングランド(エリック)
- 現代のニューヨークで、かつてエリックが作曲した「勝ち誇るドン・ジョヴァンニ」の楽譜を発見した女優クリスティーヌが100年前のパリにタイムスリップし、エリックと出会うというアレンジの作品。ファントムことエリックを「エルム街の悪夢」で主演したロバート・イングランドが演じ、ホラーテイストが強い作品となった。エリックは悪魔と契約して戯曲を完成させたことと引き替えに顔面の皮を剥がされた男という設定であるが、お馴染みの仮面を被らず、死体の皮を自らの顔面に縫いつけて行動するという猟奇的なキャラクターである。殺人場面も残酷で、カルロッタの首を斬り落とし調理して仮面舞踏会のディナーに出したり、犠牲者を吊し斬りにしたり内臓を掴み出したり等、ファントムをジェイソンやフレディ等のシリアルキラーと同様の暴力的連続殺人鬼として描いた過激な場面が多い。クリスティーヌがエリックの本性を察知してからは恐怖の念しか持たない点では原作のイメージに比較的近い作品である。
[編集] 1990年版
- 原題「THE PHANTOM OF THE OPERA」
- 邦題「オペラ座の怪人」
- 監督:トニー・リチャードソン
- 出演:バート・ランカスター(ジェラール・カリエール)
[編集] 1998年版
- 原題「Il Fantasma de l' Opera」
- 邦題「オペラ座の怪人」
- 監督:ダリオ・アルジェント
- 出演:ジュリアン・サンズ、アーシア・アルジェント
- 音楽:エンニオ・モリコーネ
- イタリア・ホラー界の巨匠ダリオ・アルジェント監督の手による翻案映画化作品。ファントムは下水に捨てられた捨て子で、流れ着いた地下迷宮のネズミに育てられたという大胆な設定の背景を持たされている。そして何よりもファントムが美形の金髪青年という改編がなされており、従って仮面などを被って行動することはない。一方クリスティーヌを演じるのは監督の娘にして既にイタリアでも名声を得ていた実力派のアーシア・アルジェント。美形のファントムとクリスティーヌの官能的性愛描写が強い。音楽はイタリア映画界の重鎮エンニオ・モリコーネが担当し、後のミュージカル版に匹敵する高い完成度のサントラとなった。一方ダリオ監督らしい惨劇風の殺戮描写も多く、89年のロバート・イングランド主演版と同様、残酷描写の強さでは「オペラ座の怪人」全映像化作品中、最も過激なものの部類に入る。
[編集] 2004年版
- 原題「THE PHANTOM OF THE OPERA」
- 邦題「オペラ座の怪人」
- 監督:ジョエル・シュマッカー
- 出演:ジェラルド・バトラー(ファントム)、エミー・ロッサム(クリスティーヌ)、パトリック・ウィルソン(ラウル)、ミランダ・リチャードソン(マダム・ジリー)、ミニー・ドライヴァー(カルロッタ)。
- これまでの映像化作品と異なり、アンドリュー・ロイド・ウェバー版のミュージカルをベースにした作品。歌唱部分も吹き替え無しでそれぞれの役者が歌っている。(カルロッタ役のミニー・ドライヴァーのみ吹き替えであったが、ドライヴァーも歌唱力を生かしてエンディング・テーマを歌った)
原作、舞台など従来からのファンからは敬遠される傾向があるが[要出典]、この作品で初めてオペラ座の怪人に触れた新規のファンからの評判は高い[要出典]。
[編集] ミュージカル版の概要
[編集] アンドリュー・ロイド・ウェバー版
詳細な記事はオペラ座の怪人 (1986 ミュージカル)。
[編集] アーサー・コピット&モーリー・イェストン版
詳細な記事はファントム (ミュージカル)。