エノク
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エノク(חנוך)は、旧約聖書の『創世記』や旧約聖書偽典の『エノク書』などにその名前が現れる人物。エノクとは「従う者」という意味で、ヤレドの子、メトセトラの父とされる。イスラム教の経典・コーランでは、エノクは預言者イドリースとして記されている。『エノク書』は、彼に帰せられた物である。
『創世記』では、エノクという名前は二度現れる。初めは4章17節であり、カインの子としてその名が記される。カインは建てていた町に彼にちなんでエノクとつけたという。二度目は5章21節から24節である。その箇所によればイエレドの子であるエノクは、65歳でメトシェラをもうけ、365年生きたあと、「エノクは神と共にあゆみ、神が連れて行ったのでいなくなった」(24節)という。このエノクはノアの曽祖父にあたる。エノクは旧約聖書正典の中ではこの部分のみにしか現れないが、死についての記述がなく「神が連れて行った」という不思議な表現がされていることから以後の人々に好んで取り上げられることになった。
『エノク書』によれば、エノクは神によって天に上げられた後、天使メタトロンに変容させられたという。
新約聖書では、「ユダの手紙」の中で『エノク書』からエノクの最後の審判に関する預言の部分が引用されている。このことから初期キリスト教徒によっても「エノク書」が読まれていたことがうかがえる。
モルモン教の書『高価な真珠』によれば、エノクは邪悪な人々の多かった世界で義人だけの町シオンを築いたとされる。エノクとシオンの住人は神によって形を変えられ、洪水の前にこの世から姿を消したといい、メトシェラと一族が残ったことで人類は滅亡を免れたとされている。(大洪水参照)