エスカレータ
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エスカレーター(Escalator)とは、主として建物の各階を移動する目的で設置・利用される階段状の輸送機器である。
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[編集] 概要
「エスカレーター (Escalator)」は、もともと米国オーチス・エレベーター社(Otis Elevator Company)の登録商標で、商品名であった。しかし、当時この自動式階段を表す適当な語句が無く、一般に「エスカレーター (Escalator)」と呼ばれたため、普通名称となった経緯がある。オーチス・エレベーター社では、既に商標権を放棄している。
[編集] 日本における様々なエスカレーター
日本では、1914年(大正3年)に開催された大正博覧会において、初めて設置された。運転試験が行われた3月8日は「エスカレーターの日」とされている。
日本でもっとも長いエスカレーターは、香川県丸亀市にあるニューレオマワールドのエスカレーター「マジックストロー」が高低差42m全長96mで日本一となっている。
なお、和歌山県那智勝浦町のホテル浦島の3基乗継ぎのエスカレーター「スペースウオーカー」は、高低差約80m(地上1階から32階まで)、全長154mである。
もっとも短いエスカレーターは、川崎駅前の地下街アゼリアと川崎岡田屋モアーズ地下2階を結ぶ下りエスカレーター(アゼリアはモアーズの地下1階と地下2階の間に接する)で、ステップ4段分しかない。エスカレーターを降りてもさらに階段が続くため、結果的に存在意義はないが、その短さゆえにギネスブックに登録されている。当初は階段まで含めて1基のエスカレーターとする計画であったが、施工の段階になって途中に撤去困難な梁が存在することが判明し、梁に干渉しない部分だけに短縮のうえで設置されたものである。日立製作所製。
川崎モアーズにある世界一短いエスカレーター |
踊場のあるエスカレーター(神戸モザイク) |
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ランドマークプラザにある曲線型エスカレーター(写真下) |
直線型エスカレーターと階段が併設されているスーパー |
カートの侵入を防ぐポールが設置された、関西国際空港のエスカレーター |
[編集] 機構
外観は階段に酷似し、自動で昇降する階段状の踏み面(ステップ)とステップと連動して動くベルト状の手すりを特徴とする。
機構の露出部分の多さから建物のインテリアに大きな影響を与えるので、意匠に工夫を凝らしたものが多い。らせん状のスパイラルエスカレーター(三菱電機製のみ、写真参照)や、途中で水平部分をもつエスカレーターも登場している。また、乗り降りを容易にするため、乗降口に水平部分を持たせた(踊場のある)エスカレーターも出回っている。最近では操作を行うことで複数のステップが水平部分を構築し、車椅子を乗せられるものもある。
規格としては、横幅(欄干有効幅)1,200mmと800mm、傾斜角度30度のものが標準的なものである。近年の建築基準法の改正で傾斜角度35度のエスカレーターの設置も認められている。また動く速度は通常、毎分30mであるが、変速装置を取り付けることで、毎分20mから40mまで調節できる(深い場所にある地下鉄駅で、最大の毎分40mに設定しているエスカレーターがある)。横幅はステップ幅、欄干有効幅、全体幅があり、800型、1200型等の規格は欄干有効幅で決まる。
ステップ幅 | 欄干有効幅 | 全体幅 | 備考 |
---|---|---|---|
604mm | 800mm | 1150mm | 標準800型、全メーカーで生産 |
802mm | 910mm | 1150mm | 数字は日立製作所製、日立、フジテックで生産 |
1004mm | 1200mm | 1330mm | 数字は日立製、三菱、日立、東芝で生産 |
1004mm | 1200mm | 1550mm | 標準1200型、全メーカーで生産 |
1095mm | 1300mm | 1550mm | 日立で生産 |
機構的にエレベーターに比べ省エネルギーであるが、近年ではさらに進んで赤外線センサによって人の接近を検知し、利用時のみ稼働するものも増えている。
[編集] 構成
- ステップ
- 踏板 - ステップのメインとなるところ
- ライザ - ステップの蹴上げ部分
- ステップチェーン - ステップ同士を連結するチェーン
- 駆動ローラ - ステップチェーンの左右についており、ステップを牽引するためのローラ
- 追従ローラ - ステップの左右についており、踏板を水平に保つためのローラ
- 駆動レール - 駆動ローラを走行させるレール
- 追従レール - 追従ローラを走行させるレール
- 車椅子専用ステップ - 特殊ステップがフォークを利用して車椅子が乗れる大きさにできる。
- スカートガード - ステップの両側の鉄板で、側面をふさぎ表面を平滑に保つ
- 駆動装置
- 駆動ユニット - 電動機と減速歯車からなり、ステップチェーンを走行させる
- 駆動チェーン - 駆動ユニットからステップチェーンに動力を伝達するチェーン
- 手すり
- 手すり駆動ローラ - 手すりを駆動させるためのローラ
- 手すりチェーン - 手すり駆動ローラを回転させ、手すりに動力を伝達するチェーン
- 加圧ローラ - 手すり駆動ローラと対になって手すりを表裏から挟み込み、手すり駆動ローラの摩擦力を確保するローラ
- 手すり案内レール
- インレット - 帰路側への手すりの出入り口で、手や物の引き込まれを防ぐために安全装置が設けられる
[編集] 利用シーン
エスカレーターの設置目的は大別して、
- 段差(高低差)の大きい場所における利用者の肉体的負担の緩和
- 交通量の多い階段における利用者の円滑かつ安全な移動の促進
- バリアフリーの観点から、高齢者などの弱者に配慮して設置する場合
などがある。但し階段に比べて非常に高価であり、保守点検等コストも掛かる事から、設置場所は主に百貨店、地下街などの商業施設、駅、空港、フェリーターミナルなどの交通機関の乗り場、病院やホテルなどの大型施設に限られる。
エスカレーターはステップが自動的に動くので、一度乗り込めば次の階に到着するまで立っているだけで良いのだが、急いでいる事を理由に階段を昇降するようにステップを自分で上り下りし移動速度を速める人が多数いるため、左右どちらかの片側を空けるのが慣例とされている。
ロンドン、ワシントン、ボストン、香港、ソウル、モスクワの地下鉄では右に立ち左を歩行者に空け、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドでは左側に立ち右側を歩行者に空けている。必ずしも道路通行の左右とは一致しない。右側に立ち左側を空けるのが国際的には多数であるといわれている。
日本では関東、福岡及び北海道、長野、岡山、東海では乗り込む際に左側に立ち右側を空け、関西及び仙台では右側に立ち左空けとなっている。
これは大阪万博の際、主に右立ち左空けが標準だった欧米諸国にならい左側を空けるようにしたため関西ではそれが定着し、その後首都圏に次々にエスカレーターが設置されるにあたっては従来からの「追い越しは右側」という習慣によって左右逆となったという経緯があるとされる。(いつしか暗黙の了解となっている) ただ、このようなどちらか左右を空けるという習慣そのものがない(単に前に居る人に合わせる等)といった地方も多い。 しかし、本来エスカレーターでの安全基準は、ステップ上に立ち止まって利用することを前提とされているため、エスカレーター上での歩行はその振動によってエスカレーターの安全装置が働き、緊急停止することがある。さらに、片側空けは荷重バランスを長時間に亘って崩し、エスカレーターに予期せぬ不具合を生じさせる事にもつながる。 こうしたエスカレーター自体への不具合に加え、腕の骨折などの要因により、片側の手すりにしかつかまる事のできない人への配慮、また歩行者によってバランスを崩した人が転倒し、それによって将棋倒し事故を招くなど、利用者に対しての危険性も極めて高い。実際、韓国では老人が転落する事故が発生して波紋を呼んだ。
このため、日本エレベーター協会ではエスカレーターでの歩行禁止をマナーとして呼びかけている。また、川崎駅前地下街「アゼリア」では過去の将棋倒し事故を教訓とし、歩行禁止を呼びかけている。
利用者に於いては「急いでいる人は階段を使えばいい、何の為のエスカレーターか(急ぎであってもエスカレーターを歩いても意味が無い)」といった意見も多く見受けられる。 しかし、エスカレーターに対し階段が一緒に併設されていない場所も数多く存在し、特に駅の様に乗降や乗換えの為の急ぎの乗客も多々利用する先述のエスカレーターの存在といった問題点もある。
2004年夏より、名古屋市営地下鉄では構内放送で歩行禁止を呼びかけている。これは全国初のことである。また、順次「エスカレーターでの歩行はおやめ下さい」のステッカーが貼られている。(ただ、普及しているとはいいがたい)。 都営地下鉄や横浜市営地下鉄でもエスカレーターでの歩行禁止を呼びかける掲示が出されている。だがこのような呼びかけがあるにもかかわらず、東京、名古屋、大阪などの大都市圏では、「そもそもエスカレーターでは片側は歩くもの」といった常識が一般に定着しているためかえって混乱を招き危険な状況である。
その一方で、ロンドン地下鉄の駅など交通の円滑化のため片側を空けることを積極的に呼びかけている国も有る。
[編集] 表記について
この機器は、「エスカレーター」と表記されたり「エスカレータ」と表記されたり、表記が一貫していないが、JIS(日本工業規格)では「エスカレータ」と表記している。
JIS の中には、用語や記述記号についての定めもある[1]。JISの表記の定めは、「JIS規格の文書中で使用する用語の定義」であり、日本で一般に使用する用語の定義ではない。ただし、その提案は業界の団体がおこなっているため、どの業界であってもJISに規格のある業界では特にその技術系においてJIS用語に規定された用語が広く使われている。技術仕様では官公庁への届出など公文書への添付などにも使用されることもあるためである。しかしながら、顧客志向に重きを置かれるようになってからは、世間一般と広く接する販売系、マーケティング系においては、たとえ企業向けの販売が多い場合であっても、世の中で広く受け入れられている用語が使用され、一般に、エレベーター、エスカレーターの表記が使われる。業界団体の名称は日本エレベータ協会である。一般広報には同様のアプローチをしている。
新聞や書籍などといった印刷媒体では、文字数が少なくてすむので長音符号を省く表記が抵抗なく受け入れられていったが、日本語会話における口語では「エスカレーター」と伸ばして発音する人も多い。
- ^ 一般には、外来語で、英語の語尾が「-er」「-or」「-ar」の場合、長音符号で表記する。従って「エスカレーター」となる。しかし、JISでは、学術用語や別の規格がある場合はそれに従うが、それ以外の場合、その言葉が3音以上であれば、長音符号を省くのが原則となっている。従って、JISでは、エスカレーターを「エスカレータ」と表記する。これらは、どちらが正しくてどちらが誤りと決められるものではない。
[編集] その他
中高一貫教育や中高(小中高大学、更に幼稚園までが加わる事も)一貫校など、無試験で内部進学が可能なことを、エスカレーターの動作に例えて俗に「エスカレーター式」あるいは「エレベーター式」と呼ぶ。