taspo
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
taspo(タスポ)は、社団法人日本たばこ協会(TIOJ)、全国たばこ販売協同組合連合会(全協)、日本自動販売機工業会(JVMA)が、未成年者の喫煙防止に向けた取り組みの更なる強化の一環として開発し、2008年3月から順次日本全国に導入されている、成人識別ICカードの名称、及び同カードを使用したシステムの総称である。
目次 |
[編集] 概要
2001年よりたばこ業界が中心となり自主的に取り組んでいる、未成年者の喫煙防止の更なる強化を目的とした施策のひとつ。また2005年2月27日に発効し、日本も署名している「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(たばこ規制枠組み条約)の第16条1項(d) により、締約国の義務として未成年者による自動販売機でのたばこの購入を防ぐ事を要求されている。そのため、日本国内では2008年3月以降順次、taspo対応成人識別たばこ自動販売機でたばこを購入するには、taspoによる成人識別が必要となる[1]。
2008年5月27日現在、日本全国に設置されている438,753台のたばこ自動販売機のうち、415,958台(94.8%に相当)がtaspo対応成人識別たばこ自動販売機となっている。またtaspo発行枚数は約470万枚に達している[2]。
2008年7月の全国稼働に向け、装置の取付や非対応自動販売機の撤去が進められている。
非接触型ICカード方式を採用したのは、
- 偽造や変造が困難であり、ICの成人証明情報の読み取りによる厳格な成人識別が可能。
- 付加機能の追加(電子マネー機能等)が可能。
- 非接触方式による簡便性、識別時間の短縮、機械稼動を伴わないため故障の可能性が低い。
等の理由による。
運転免許証による認識を排除したのは、
- たばこ喫煙者が全て運転免許証を所有しているわけではない。
- 読み取り時に機械稼動を伴うため、故障した際に免許証を取り込んだままになる可能性がある。
- 将来にわたり現在の免許証の形状、券面、仕様が継続される保証がないこと。
が挙げられる。
なお、2007年より生体認証の一種である顔認証方式のたばこ自動販売機が、唯一、自動販売機メーカーのフジタカによって開発・販売されているが、この方式のたばこ自動販売機の設置状況は非常に少ない(2008年5月現在は未認可)。
[編集] 申込方法
taspo発行のための申込み手続きは、通常、たばこ店の店頭等に置かれた申込書に必要事項を記入し、運転免許証、各種健康保険証、住民基本台帳カード、各種年金手帳、各種福祉手帳、外国人登録証明書のいずれか一点のコピー、または住民票(写し)と顔写真(縦45mm×横35mm・パスポートサイズ))を添えて、taspo運営センターに郵送する。日本たばこ協会による審査(成人であること、二重発行でないことなど)後、約2週間で本人の住所に配達記録郵便で郵送される。発行手数料・年会費は無料。
[編集] 申込イベント
前述の通り申込には写真、本人確認書類のコピーが必要となるが、日本たばこ協会、たばこメーカー、たばこ販売店等により、無料写真撮影や無料コピーサービスを行える申込イベント等を開催している。
日本たばこ協会主催イベントのスケジュール等は[3]参照。
- 即時発行イベント
- 日本たばこ協会主催。大都市イベント会場や大型量販店等で展開され、本人確認書類等があればその場で無料写真撮影、無料コピー等を行い、最短で30 - 60分程度でtaspoがその場で発行される。
- PRイベント
- 日本たばこ協会主催。大都市イベント会場や大型量販店等で展開され、無料写真撮影、無料コピー、申込書記入等の案内等を行っている。taspoの即日発行はできないが、申込手続きはイベントで完結でき、投函(受付コーナーに申請)もできる。
- 店頭イベント
- たばこメーカー、たばこ販売店主催。たばこ販売店店頭等で無料写真撮影、コピー、申込書記入等の案内等を行っている。
[編集] カード券面
taspoカードは持ち主の顔写真入りで、氏名、会員番号、有効期限が記載され、プリペイド方式の電子マネー機能(名称:「ピデル(Pidel)」)も搭載される。
但し、自動販売機の機種、通信環境、たばこ販売店の意向により、電子マネー機能が使用出来ない自動販売機も存在する。対応する自動販売機の前面にはピデルのステッカーが貼り付けられている。
[編集] 導入スケジュール
2008年の導入に先立ち、技術面・運用面での検証の為、以下のようなテストを行なってきた。
[編集] 第一次導入検証
2002年4月1日から1年間、千葉県八日市場市(現:匝瑳市)において第一次導入検証を行い、技術面・運用面での基礎的な知見の収集及び利用者の受容性を検証した。
[編集] 第二次導入検証
2004年5月10日から鹿児島県種子島において成人識別自動販売機の導入検証を開始。1年経過後の2005年時点の検証では「各業務、活動、カード、ハード面、使い勝手、販売店オペレーションでのトラブル、混乱もなく、順調に実験を行うことができている」(TIOJ発表)。この第二次導入検証から得た知見をもとに、全国展開に向けた仕様の策定を実施。
[編集] 本導入開始時期
エリア | 対象都道府県 | 申込開始 | 稼動開始 |
---|---|---|---|
パイロットエリア | 宮崎県 鹿児島県 | 2007年12月 | 2008年3月 |
第1次エリア | 北海道 青森県 岩手県 秋田県 宮城県 山形県 福島県 鳥取県 島根県 広島県 岡山県 山口県 香川県 徳島県 愛媛県 高知県 福岡県 佐賀県 長崎県 大分県 熊本県 |
2008年2月 | 2008年5月 |
第2次エリア | 新潟県 長野県 富山県 石川県 福井県 静岡県 愛知県 岐阜県 三重県 滋賀県 京都府 大阪府 奈良県 兵庫県 和歌山県 |
2008年2月 | 2008年6月 |
第3次エリア | 茨城県 栃木県 群馬県 山梨県 埼玉県 千葉県 神奈川県※ 東京都 沖縄県 |
2008年2月 | 2008年7月 |
※神奈川県は2007年12月に申込開始し、2008年7月に稼働開始する。神奈川県では「神奈川県青少年喫煙飲酒防止条例」の制定に伴い、たばこや酒類の自動販売機に対して年齢確認に必要な措置(成人識別機能の搭載)を義務付けられた為、第3次エリアの他の地区と比べて申込開始時期を早めている。
[編集] 識別装置の法制化
2008年1月、財務省は未成年者の喫煙防止策の一環として、たばこの自動販売機に成人識別装置設置を義務化する案を発表した。2月のパブリックコメントを経て、同年7月に「たばこ事業法第24条及び第26条」が改正され適用される。
2008年7月からの改正、適用後は条件に違反して成人識別装置がない自動販売機で製造たばこの販売をする場合において、条件を遵守するよう指導を行うこととし、指導にも係わらず従わない者に対しては、たばこ事業法第31条第2号の規定に基づき、製造たばこ小売販売業の許可が取り消される。なお、対象は出張販売先も含め全てのたばこ自動販売機となる[4]。
[編集] 課題
自動販売機での未成年の購入に対し、概ね有効に機能しているが、カードの貸し借りの問題がある。よって所有者(成人)側はモラルが必要となり、また未成年へのタバコの供与は法律で禁じられており、科料に処せられる。また利用者はtaspoを入手する際の申請に手間がかかる、年齢確認のために個人情報が収集される、たばこ購入時にtaspoを携帯する必要がある等の理由により、自動販売機からコンビニなどに利用者が流れる傾向もある。taspo導入後、自販機での売り上げが落ち込む店も少なくない一方、導入後、売り上げを伸ばす販売店もある[5]。
種子島でのtaspo以前の「たばこカード」導入検証において、未成年のたばこ喫煙補導数が減ったとの報道があった。しかしその後、たばこカードの貸し借りが行われ、喫煙補導数が増加したとされる。種子島警察署は「同じ少年が数回補導されたケースもある。たばこカードは予防効果はあるが、常習者はあの手この手で対抗する。全国同じシステムになればさらに効果も出てくるのでは」と話す[6]。
また販売する小売店側は、たばこメーカーの貸与機を除いて、自動販売機1台につき約13万円程度の成人識別装置・改造費用を負担する必要がある。費用の一部は設置台数等により日本たばこ協会が支援を行っているが、特に売り上げの少ない地方などの経営者には大きな負担となっている。
「全国のたばこ自動販売機ではtaspoがないとたばこが買えなくなります」というCM等は虚偽ないし誇大広告であるとも主張される[7]。なぜならtaspo以外に、財務省の認可を受けた運転免許証方式や顔認証方式(2008年5月現在は未認可)も存在するからだが、CM等には「ICカード方式のたばこ自動販売機」等の断り書きが記されている。
現状は2008年5月27日現在、日本全国にあるたばこ自動販売機438,753台のうち、94.8%に相当する415,958台がtaspo対応となっている[2]。
また、taspoが既に導入された地区で、taspoを客に貸し出す商店やホテルがある[8]。taspoの申込み手続が煩雑なため、自動販売機でたばこを購入できない客への配慮と見られる。日本たばこ産業では、「貸す時に成人かどうかが判るので問題は無い」としているが、日本たばこ協会は「未成年者喫煙防止法に抵触する恐れがあり、taspoの趣旨にも反する」などとして、カードを貸し出さないよう求めている。貸す際に身分証明書などの提示を求めなければ、年齢詐称に対処できない問題もある。
2008年6月2日には、taspoを15歳の次男に貸し喫煙を容認したとして、未成年者喫煙禁止法違反の疑いで41歳の母親が書類送検された[9]。福岡県では、taspoを自動販売機に吊り下げていた販売店があった[10]。
[編集] カード普及率の低迷
2008年5月27日現在のtaspo発行枚数は約470万枚。日本全国の推計喫煙人口2,600万人の18%程度に留まっているが、taspo導入エリアの拡大に伴い、増加傾向にある[2]。
なお、財務省がたばこ自動販売機に成人識別装置設置を義務化する施策における「成人識別装置」として、taspoと共に運転免許証の文字を読み取る方式も承認した[11]ことがメディアで報道されていることが混乱を招いている。taspo対応の自動販売機では免許証でのたばこ購入はできない[12]。免許証方式は、松村テクノロジーが開発し松村エンジニアリングが販売しているもので、現在は酒の自動販売機等に設置されており、たばこ自動販売機への取り付けは現状行われていない。
[編集] システム
taspoシステムは、NTTデータ、NECトーキン、NTTドコモ、大日本印刷、トッパン・フォームズ、トランスコスモス、日立製作所、ベルシステム24の8社が構築・及び運用を担っている[13]。通信インフラはNTTドコモのFOMAを使用する。また、電子マネーの運営・管理業務は、ジェーシービーが受託する[14]。
[編集] ICカードの仕様
非接触型ICカードであるMIFARE(マイフェア、国際規格であるISO 14443 Type A)を採用している。Type Aは欧州やアジアなどで広く普及。日本国内では、かつてICテレホンカードとして使われていたが、それ以来の大規模導入となる。SuicaやEdyなどが採用し、日本国内で広く普及している非接触ICカード通信規格「FeliCa」とは規格が異なる。
[編集] 電子マネー機能
電子マネー「ピデル」にチャージ(入金)するには、成人識別たばこ自動販売機で行う(一部の自動販売機では不可)。チャージは1,000円単位(紙幣のみ。1,000円紙幣でたばこを購入した場合に限り、おつりをチャージする事は可能)、上限は20,000円。電子マネーの残高が不足した場合のみ、現金との併用が可能である(電子マネーを使用せずに現金での購入も可能)。
残高照会は、ピデル対応たばこ自動販売機のカード読取部にtaspoをタッチする事により可能。またtaspo公式サイトでも事前にID・パスワード登録をすることで残高照会及び利用履歴(過去3ヶ月まで)の確認を行う事が出来る。
[編集] 脚注
- ^ 未成年者喫煙防止活動、社団法人 日本たばこ協会
- ^ a b c 「成人識別たばこ自動販売機」、6月1日より第2次エリアにで稼動開始、taspo公式サイト、2008年6月2日
- ^ 申込イベント情報、taspo公式サイト
- ^ 財政制度等審議会 第12回たばこ事業等分科会「議事要旨」[[財務省 (日本)|]]、2008年1月21日
- ^ 「タスポ」導入で「たばこ屋」廃業続々?? J-CAST2008年5月14日
- ^ 「たばこカード」導入3年 喫煙補導一転増加/種子島 南日本新聞、2007年7月。
- ^ 「タスポがないと買えない」という宣伝のウソ 日経BPネット、2008年5月23日
- ^ 「タスポ貸します」…売り上げ苦戦のホテルや居酒屋 2008年5月31日、読売新聞九州発。
- ^ 2008年6月2日(3日発行夕刊フジ)。
- ^ タスポ:自販機につり下げ 福岡の業者「売上げ2割減り」 毎日新聞、2008年6月4日。
- ^ 「成人識別装置」を装備したたばこ自動販売機と認められる機種一覧、財務省、2008年4月10日
- ^ 成人識別ICカード「taspo」の「申し込み支援コーナー」を全国に設置、taspo公式サイト、2008年4月25日
- ^ 報道発表資料:「たばこ自販機成人識別施策」への取り組みについて NTTドコモ、2006年10月26日
- ^ ニュースリリース「たばこ自動販売機のIC電子マネー発行」について JCB、2006年10月19日