Ph.D.
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Ph.D.(ピー・エイチ・ディー)とは、おもに英語圏で授与されている博士 (doctorate) 水準の学位 (degree) のことである。
目次 |
[編集] 概要
Ph.D.は、ラテン語の「Philosophiae Doctor」(英語では「Doctor of Philosophy」)の略語である。 Ph.D. は、通例、理論系の学術の研究を行う者に与えられる。BA(Bachelor of Art、教養学士(外語と哲学を含む))、M.Phil.(Master of Philosophy、哲学修士)の上位の学位である。また、ドイツでは、Ph.D.ではなく、D.Phil.と言う。(いずれの場合も、「.」はピリオドではなく略号なので、スペースを空けない。)基本的には、あくまで伝統四学部(神・哲・法・医)のうちの文系(数学、物理学、天文学を含む)の学位であり、技術系ではBS(Bachelor of Science、科学学士(外語と哲学が無い、それゆえBAより下とされる))とM.eng(Master of Engineering、工学修士)のみの場合も多く、日本と違って、技術系出身の博士Ph.D.は、かなり希少である。
名称のよく似たものに専門職博士(おもにM.D.、いわゆる医者や法務博士)があるが、これらはPh.D.とは全く別の課程であり、学術的にはマスター相当、あるいはそれ以下とされる。従って、多くの大学ではM.D.課程終了後、Ph.D.取得する課程を設置していることが多い。 イギリスでは、Ph.D. よりもさらに上位の博士(D.sc/Sc.D)がある。(日本でも、かつて大博士があった。)
ドクターとマスターの問題は、中世に発する。もともと理論系をドクター、実務系をマスターと呼んで、どちらも同格だったのだが、大学によるドクターの制度的認定の確立とともに、伝統のギルド的徒弟制度の下で親方に個人的に認定されるマスターは、ドクター以下のものとなっていった。しかし、その後、実務系の学科や学部を大学が吸収し、バチュラー、マスター、ドクターの三位階制が基本的に定着した。しかし、今日なお、臨床医や弁護士、まして技術者などの非理論(哲学)的な者が「ドクター」のタイトルを用いることに対する違和感は強く、研究医や法学者、理論研究者を中心に、社会的に、これらの技術系ドクター(MDなど)を、学問的には僭称と見なす傾向がある。たとえば、イギリスでは、外科医(産科、泌尿器科等を含む)は、あくまでミスター(マスターではない)であり、社会的にドクターの敬称で呼ぶことはない。
[編集] 各国におけるPh.D.
[編集] アメリカ合衆国
アメリカ合衆国においては、かつての日本における「理学博士」(現在では「博士(理学)」)や「工学博士」(現在では「博士(工学)」)と同じく、専攻分野ごとに異なった呼び方(たとえば教育学分野における博士は、一般的に Ed.D.(教育学博士)と呼ばれる)をすることもあるが、アメリカ合衆国教育省および全米科学財団 (National Science Foundation) は、これらの学位をすべて Ph.D. と等価のものとみなしている。
アメリカ合衆国におけるPh.D.の授与を受けるための大学院の課程は、日本の大学院の前期2年・後期3年の区分を設けない博士課程(一貫制博士課程)に似ており、大学(の学部)を卒業した者であれば入学できる。
一般的に、Ph.D.の授与を受けるには、所定の在学期間(minimum residence)の後,所定科目の筆記試験および口頭試験に合格した者(Ph.D. candidate)のみが3年~5年以内に博士学位請求論文 (dissertation) を提出し、数人の研究者で構成される審査委員会の口頭試問(defence)に合格する必要がある。
アメリカ合衆国では、Ph.D.の授与を受けるためには、最低でも3年の在学期間が必要とされているが、理科系の場合、Ph.D.の取得には平均して7.5年かかるといわれる。なお、日本とは異なり、アメリカ合衆国では、心理学、文学、教育学などの文科系のPh.D.の方が、理科系のPh.D.よりも多い。
[編集] 日本
Ph.D.が「Doctor of Philosophy」の略称であることから、「博士(哲学)」もしくは「哲学博士」と翻訳されることがあるが、専攻分野にかかわらずこの呼称を用いるという意味では、現在の哲学が人文科学の一分野として体系に組み込まれているということを考慮すると、正しい対訳とは言い難い。新制大学において博士課程が設置された1980年前後において、旧帝大とは異なる博士課程の意義として、課程博士としての博士の学位の授与が目標とされたが、その際設置された大学院の博士課程を修了した者に対して「学術博士」(現在の「博士(学術)」)の学位の授与も行われるようになった。「博士(学術)」や「学術博士」は、アメリカ合衆国での専攻分野が特記されていない「Ph.D.」に相当するものと考えられる。現在も、英語での「博士(学術)」の学位の表記は「Doctor of Philosophy」とされている。また文部科学省の見解として、日本の大学で取得した博士の学位の英名として、いずれの専攻分野であっても、また論文博士・課程博士のいずれであっても、Ph.D.(Doctor of Philosophy)を使用しても差し支えないとしている。