COSMETS
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COSMETS(コスメッツ、Computer System for Meteorological Services)とは、気象庁の気象資料総合システム(気象観測データを解析し、予測するシステム)のこと。ADESS(気象資料自動編集中継装置:Automated Data Editing and Switching System の略)とNAPS(数値解析予報システム:Numerical Analysis and Prediction System の略)部分に分かれる。もともとはADESS部分と、数値演算予報部分とで個別に扱われていたが、1980年代に統合して呼ばれるようになった。
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[編集] 経緯
[編集] ADESSの経緯
当初、東芝のメインフレームを利用していたが、その後、東芝のメインフレーム撤退に伴い、日本電気に移管された。日本電気移管後は、同社製のメインフレーム(ACOS-6シリーズ(C-ADESS V まで)→ACOS-4シリーズ)とミニコンピュータ(MSシリーズ)、その後はUNIXサーバ (UP4800, UX/4800) を使用し、リアルタイムクラスでのサービスデーモンの運用など、SVR4.2MPの機能を活用した機能を提供していた。 ADESSにおいて、COSMETSの一部となる部分はC-ADESSと呼ばれ、日本全国の集配信および、国際通信系(GTS)の中心となっていた。 そのほかに各管区気象台が対応する部分としてL-ADESSがあった(これはCOSMETSの一部ではない)。
2005年の更新では、C-ADESSとL-ADESSを一本化し、東西2つのシステムとし、再構成している。西日本部分については、2008年3月に稼働した。 また、提供ベンダもNECから富士通に切り替え、汎用機を廃してUNIXサーバとPCサーバによるシステムに変更された。
[編集] NAPSの経緯
当初はM-200Hのようなメインフレームで構成されていたが、その後スーパーコンピュータに置き換えられた。1988年に日立製作所のSRシリーズを使用して構築され、その後、SRシリーズで更新されている。 2001年にNAPS部分は、当時の最新SRシリーズ機SR8000(理論ピーク性能:768GFLOPS)が稼動し、気象予測の予測範囲時間が3時間から6時間と倍増した。
当時、数値演算部分の演算性能では世界3指に入るシステムと広報されたが、当時の他国(カナダ/アメリカなど)システムは更改期を目前としたもので、比較する意味の無い値であった。
さらに、近年の気象予測の予測精度への不満により、早々の置き換えを切望されていたが、2006年3月1日にやっと旧SR8000がSR11000と置き換えられ、理論ピーク性能21.5TFLOPSと大幅に性能向上した。
[編集] COSMETSへの懸念点とその回答
[編集] 懸念点
SR11000は、IBM製のスカラーチップ (POWER5) によるシステムであり、局所予測はベクトル機に匹敵する性能と発表されている。
しかし、気象予報において本来必要な機能は局所予測だけではなく、広域予報や長期予測が本流である。
その本流の気象予測プログラムにおいて、シミュレータによる長期予測か、統計的な長期予測によるかでも大きく異なるが、ベクトル機(地球シミュレータなど)の優位性は非常に顕著であることを知りつつ、スカラー機(SR11000は擬似ベクトル機)を採用することに疑問が残る。
[編集] 回答
この懸念点への解として、日立によって発案され、その後IBMでも主流となったVirtual Vector Architecture (ViVA) と呼ばれるスカラーチップでのベクトル処理仮想化技術が採用されている。
これは、各チップ(PE)毎にローカルメモリーを置き、スカラチップにおいてベクトルチップ並みのデータ供給を行える設計となっており、このローカルメモリーにおいて、気象モデル上分割された格子点における熱力学方程式を計算するような工夫を行っている。 ただし、上記指摘の様に、PE隣接格子間においてはローカルメモリとは異なり、ある程度の通信上ボトルネックが存在するため、ベクトル機並みの計算性能は出ていないものもあるが、より高速且つ大規模な計算が可能な改善策をとりつつある。
その結果、2007年4月に発表があったように中期予測シミュレーション(2日~10日)のデータ投入ポイントを、現状の810万箇所から1億1千万箇所に増やし、予測制度を7割前後から向上させ、世界トップレベルを目指している。
現時点での世界トップは欧州での25km単位のポイントだが、更新されたCOSMETSでは20km単位となり、精度においては、世界トップとなる。
このように、ViVA及びPE間のデータ通信方式やソフトウェアプラットホームの改善などにより表記上の価格性能比は非常に高くなっている点も含め、今後、より高い実効性能を出せるよう改善が進められている。
また、気象庁はこういった単なるシミュレーションによる予測だけではなく、現実に即した気象予測方法の確立・発展を考慮し、アメリカなどでは竜巻予測の必要性から普遍的に展開されているドップラーレーダの配備とそれに伴う観測の充実を計画している。このドップラーレーダの配備は、2007年度現在、4箇所であり、今後、7箇所が追加され、日本全域をカーバする。また、このレーダを利用した竜巻予報が2008年度から、さらに詳細な予測がCOSMETSとの連携の上、平成22年度から天気予報と並列して行われる予定となっている。
このような強化策も踏まえ、より精度の高い観測データとCOSMETSに代表されるシミュレーションモデルの大幅に強化により、より高い精度の予測が行われ、災害からの人命の救護や国民の財産の保護などに役立てられるであろう。