高齢ポスドク
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高齢ポスドク(こうれいポスドク)は、比較的年齢の高いポスドク。広義には高齢のポスドクを意味するが、狭義においては35歳以上のポスドクを意味する。
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[編集] 経緯
2000年代前半にポスドク一万人計画によって大量にあふれたポスドクのうち、研究の世界で生き残れる条件として、教授たちの間にあった「35歳までに助手にならなくてはならない」という認識に由来する。実際に当時の助手の公募においても35歳以下という条件がつけられることが多かった。もともとこれは文部科学省からの通達にあった「大学院卒業後は競争的環境にあることがのぞましく35歳までには常勤職に就くことが望ましい」という記述に由来するが、いつしか35歳を越えるまでは奴隷のように酷使し、35歳を過ぎれば捨ててしまえばよいという認識へと変わった。2000年代後半には35歳を越えたポスドクが数多く増えるにつれ「35歳までに助手に」という発言自体があまりにも高齢ポスドクを刺激することから言われることはなくなった。現実には35歳を越えた者が助教(助手)に就任することもある。
[編集] 問題点
高齢ポスドクの問題は35歳を超えると助教を含めたアカデミックなポジションに付ける可能性が著しく減少するにもかかわらず、民間への就職先もこれまでの経歴を生かせる職につけるわけでもない点にある。もともとアメリカ型のポスドク制度を導入した為に高齢ポスドクが数多く生まれたが、アメリカの転職を繰り返す文化とは対極にある日本社会でこの制度を導入したために、生じた問題ともとらえられている。
[編集] 高齢ポスドクの動向
35歳を過ぎた多くの高齢ポスドクは、アカデミアを去ることはなく、その職を海外に求め多くはアメリカやイギリスなどでポスドクとして活躍をしている。
一方で近年、特任教員の採用が可能となり、特任助教として採用されるケースが増えてきており一時的な問題の緩和が起こっている。しかし特任教員は期限付きの職であり、一方で新たな余剰博士は従来のペースで生まれていることから、制度の構造的矛盾の解消の出口はいまだ見えていない。
[編集] 社会の反応
近年のマスコミなどの報道では、余剰博士問題が報道されるなど問題視されている。高齢ポスドクの親や配偶者などの多くはゆくゆくは大学の教授になると信じているため、高齢ポスドクを心理的に追い詰めている。実際には構造的に大半の高齢ポスドクはアカデミックなポジションの最初の段階である助教にすらつけないことは高齢ポスドク自身がもっともよく認識しており、自らの高学歴のプライドと親族の期待とのはざまで自らの命を絶つ率が非常に高く、平成16年に文部科学省から発表されたデータによると、博士課程修了者の「死亡、不詳の者」の割合は11.45 %となっている。1
高学歴ワーキングプアー「フリーター生産工場」としての大学院 水月昭道 光文社新書 2007 p14 文部科学省発表資料より
このような現状は作者不明の創作童話、「博士が100人いる村」がWebで公開されており、現状を揶揄している。ちなみに、この創作童話は静岡県三島市の国立遺伝学研究所の風景と非常によくにていることがインターネットの掲示板などで指摘され、遺伝学研究所関係者による創作ではないかとも考えられているが真相は不明である。なお、この創作童話の根拠となっている統計に関しては文部科学省の調査結果とほぼ同一であるといわれている。