鈴木英夫
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鈴木英夫(すずき ひでお、1916年5月10日~2002年5月2日)は、日本の映画監督。主な作品に『蜘蛛の街』『その場所に女ありて』『非情都市』『悪の階段』など。フィルム・ノワールとメロドラマの名手とされ、1995年頃から再評価と兆しが起こり、最晩年に企画されたアテネ・フランセ文化センターでの特集が結局追悼上映となった。
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[編集] 来歴・人物
愛知県蒲郡市形原町出身。家業の船舶運送業を継ぐべく進学するが、映画好きが昂じて日本大学芸術学部に入学。1939年、卒業と同時に新興大泉撮影所の助監督部に入社し、東宝を経て、大映東京撮影所に移籍。
1947年大映の監督部に昇進し、自作のシナリオを映画化した『二人で見る星』で監督デビュー。つづく『蜘蛛の街』では、初のサスペンス映画を手掛けた。同作品は、下山事件にヒントを得て、街頭ロケや隠し撮りを多用したリアリズム・タッチの演出が注目された。1954年東宝に移籍後は、同社の中堅監督として文芸ものや喜劇などあらゆるジャンルをそつなくこなすが、その本領は主にメロドラマと犯罪ものに発揮された。1967年の『爆笑野郎・大事件』を最後に映画からテレビに仕事の場を移し100本以上のドラマを量産したが、『傷だらけの天使』など今もなおカルトな人気を誇る作品を残している。
鈴木英夫の監督作品は、総じて異常に乾ききって荒廃した人間関係が基調となっており、強烈な野心や綿密に練り上げられた犯罪計画が呆気なく崩壊する無常観に彩られている。また、犯罪や不幸に巻き込まれた登場人物が奇妙にずれたリアクションをとり、そこから独特のドラマを作り上げていく独自のタッチは「カフカ的ノワール」とも称されている。鈴木の生前、脚本家の桂千穂はそうした犯罪ドラマをアルフレッド・ヒッチコックやキャロル・リードを引き合いにして賞賛しているが、鈴木の晩年に巻き起こった再評価ブームにおいては、1950年代のアメリカ製フィルム・ノワールを重ねて評価する傾向が強い。
ただ、鈴木英夫の人間性について、俳優・児玉清は著書「負けるのは美しく」の中で、名指しこそ避けたものの、映画「非情都市」の撮影中に監督Sが大部屋ベテラン俳優のせりふが気に食わないと一晩中やり直させたエピソードを記している。他の監督・俳優に触れた文章では批判をしつつも客観的な観察を付け加える児玉だが「S監督は、俳優の好き嫌いが極端で、必ず撮影中に嫌いな俳優を見つけては、いびりにいびり、いじめまくることで評判の監督なのだ」と述べ「新人が一番いじめられ易い」とした。そのうえで、「打たれても文句の言えなさそうなサンドバッグ人間を見つけては、めちゃめちゃにいじめて、周りの人間に恐怖感を植えつけ、そのことによってコンセントレーションを高め、君臨しようとするためなのか」と指摘し「芸術という名の下の暴力」と断じた。
[編集] 作品
[編集] 映画
- 二人で見る星(1947年)
- 蜘蛛の街(1950年)
- 恋の阿蘭陀坂(1951年)
- 西条家の聖宴(1951年)
- 花荻先生と三太(1952年)
- 殺人容疑者(1952年)
- 続・三等重役(1952年)
- 死の追跡(1953年)
- 若い瞳(1954年)
- 魔子恐るべし(1954年)
- 恋愛超特急(1954年)※杉江敏男と共同監督
- 不滅の熱球(1955年)
- 大番頭小番頭(1955年)
- くちづけ(1955年)※オムニバスの一編『霧の中の少女』
- 彼奴を逃すな(1956年)
- チエミの婦人靴(1956年)
- 若い芽(1956年)
- 殉愛(1956年)
- 目白三平物語 うちの女房(1957年)
- 危険な英雄(1957年)
- 脱獄囚(1957年)
- 花の慕情(1958年)
- 燈台(1959年)
- 社員無頼 怒号篇・反撃篇(1959年)
- 非情都市(1960年)
- サラリーマン目白三平 女房の顔の巻(1960年)
- サラリーマン目白三平 亭主のため息の巻(1960年)
- 黒い画集 寒流(1961年)
- その場所に女ありて(1962年)※サンパウロ映画祭審査員特別賞
- 旅愁の港(1962年)
- やぶにらみニッポン(1963年)
- 暁の合唱(1963年)
- 悪の階段(1965年)
- 三匹の狸(1966年)
- 爆笑野郎 大事件(1967年)
[編集] テレビドラマ
- 新婚さん※『発車オーライ!』(1967年)
- 平四郎危機一発(1967年~1968年)
※『カーネーションの謎』『二つの顔』『黒い電波』『地獄への逃亡』『脅迫者を追え』
- 泣いてたまるか※『なぜお嫁にゆくの』(1967年)
- ナショナル・ゴールデン・スペシャル・シリーズ『パパの青春』(1968年)
- 顔(1968年)
- 孤島の太陽(1970年)
- 智恵子抄(1970年)
- 愛の劇場『女の河』(1971年)
- 愛の劇場『真実一路』(1971年)
- 妻ふたたび(1972年)
- 泣くな青春(1972年)※『父と子の接点』『十八才の確認』
- 恐怖劇場アンバランス『吸血鬼の絶叫』(1973年)※製作は1969年
- 剣客商売(1973年)※『辻斬り』『身代金千両』『御老中毒殺』『ある剣客の死』
- ライオン奥様劇場『愛あればこそ』(1973年)
- 高校教師(1974年)※加山雄三主演
- 傷だらけの天使(1974年~1975年)
※『金庫破りに赤いバラを』『愛の情熱に別れの接吻を』『回転木馬に熱いさよならを』
- 横溝正史シリーズ『悪魔が来りて笛を吹く』(1977年)※古谷一行主演、全5話。
- 華麗なる刑事(1977年)※『深夜放送殺人事件』『女豹撃つ』
- 土曜ワイド劇場『黒衣の天使 殺しは女の商売』(1978年)
- 日曜恐怖シリーズ『すすり泣く湖』(1978年)
- おやこ刑事(1979年)※『ディスコ・レディ全裸殺人』『若い娘は、危険がいっぱい』
- 土曜ワイド劇場『翔んでる女 アメリカ橋首なし殺人事件』(1980年)
- 土曜ワイド劇場『悪霊の住む家 危険な誘惑』(1980年)
- 木曜ゴールデンドラマ『華麗なる訪問者』(1980年)
- 木曜ゴールデンドラマ『闇の中の黄金』(1981年)
- 木曜ゴールデンドラマ『失われた眠り』(1982年)
- 火曜サスペンス劇場『別宅を持つ犬』(1984年)
[編集] 参考文献
- 金子正且、鈴村たけし著『その場所に映画ありて プロデューサー金子正且の仕事』ワイズ出版 ISBN 4898301789
- 『日本映画・テレビ監督全集』(キネマ旬報社・1988年12月)