郊外化
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郊外化(こうがいか)は、都市の人口が中心部の密集地から外縁部の住宅開発地へ移動し、その結果都市圏の住民や生産・消費活動の多数が郊外に移転する現象である。日本のみならず、多くの国で社会問題となっている。
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[編集] 通勤交通手段
郊外化には、都心の業務地区へ毎日通うことのできるような速度の速い交通手段が大衆化することが前提条件としてある。移動手段が徒歩に限られる時代は、郊外に住めるのは馬などの手段を持つ限られた階層であった。19世紀後半から20世紀にかけて、欧米や日本などの一部で、大量輸送が可能で頻繁に運行する鉄道(路面電車や地下鉄、通勤鉄道など)が登場することにより、鉄道沿線の住宅地化が進んだ。続いてT型フォードに代表される大衆向け自動車が普及し自動車用の道路が整備されることで、移動は格段に自由になり、通勤鉄道の無い都市や鉄道沿線以外でも郊外住宅地が開発された。
[編集] 戦後の郊外化
自動車普及に伴う郊外化は、アメリカ合衆国では1950年代に加速した。第二次世界大戦から復員し結婚した若い人々は家族と住める広い住宅地を欲し、郊外での広々とした住宅開発、自家用乗用車の普及、自動車専用道路の整備がこうしたニーズに応えた。こうしたアメリカ型郊外生活は、都市に大量の労働者を抱える世界の大都市に波及し、郊外住宅地や高速道路が多くの国の大都市に作られた。
アメリカでは、住宅の郊外化に続き商業や業務も郊外化を始めた。大勢の自家用車が集まりやすいインターチェンジ周辺に大型のショッピングモールが出現し、やがて工場だけでなく企業のオフィスも、土地・建物の賃料が安く自動車通勤のできる郊外に移転した。通信技術やIT技術、配送サービスの進化や普及は、都心から離れた場所でのビジネスを容易にしたため、アメリカの企業本社の郊外立地は増えていった。1990年代以降、エッジ・シティと呼ばれる、都市外郭の高速道路沿いに薄く広く展開した業務中心地が西海岸や南部、中西部などの都市圏に出現したことが認識されるようになっている。また、これと並行して、住宅が更に郊外の、ほとんど農村と言ってよい場所にまで進出している。
日本でも高度成長期に三大都市圏などでの鉄道沿線のスプロールが進み、「ドーナツ化現象」と呼ばれる郊外化が観察された。日本の場合、通勤は自動車ではなく鉄道が中心となることが特異であったが、次第に高速道路やバイパスが整備され、自動車通勤・自動車での買い物が一般的になった。特に、バブル期以降の全国での道路建設により、これまで郊外化にあまり縁の無かった地方都市も急速に郊外化し、住宅や商業地が薄く広く郊外に建設されていった。
大韓民国では、軍事境界線などにより開発があまり進まなかったソウル北郊にまで、1990年代後半からニュータウンの開発が進み、マンションなどが建てられている。
[編集] 郊外化の問題
郊外化が進んだ現在、中心市街地の空洞化(シャッター通り)のほか、様々な問題点が郊外化に関して提起されている。
- 郊外化により、都市周辺の農村や森林、水辺空間が住宅開発やモール開発のため破壊される。
- 郊外に都市活動が広がることにより、道路、上下水道、公共サービスを整備しなければならない面積が増え、自治体の負担が増える。
- 自家用車の利用者が増え、石油資源の枯渇、地球温暖化の進行が懸念される。
- 郊外化による生活圏の広がり、地域コミュニティの希薄化により、郊外型犯罪の発生が懸念される。
- 工業地の減少や地価の高騰により、広い土地を求める製造業が流出。
大規模店舗の業者側からは、逆に中心市街地の努力不足や、政府・自治体による郊外での過大な道路開発や公的施設移転など、郊外に偏った公共工事が問題であると反駁されている。
そうした中で2000年代以降、大都市圏の地価下落などを反映し、大きな都市では郊外化とは逆の都心回帰が発生している。またいくつかの地方都市においては、郊外の整備費用を減らすため、また交通弱者の生活しやすい街にするために都市機能を中心部に再集積させる「コンパクトシティ」への動きもある。
一方で郊外化が終焉したわけではなく、2007年現在においては、首都圏では旺盛な住宅事情を反映して、つくばエクスプレス(首都圏新都市鉄道)や東武野田線の沿線などを中心に、現在でも郊外型開発が続いている。また、関西圏でも大阪モノレールや近鉄けいはんな線沿線などで宅地開発が進み、住宅事情の改善に貢献している。