誹謗中傷
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誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)とは、他人をそしる(誹る・謗る)こと、あるいは根拠のない悪口を言うこと(中傷)。嫌がらせの一種で、非常に陰湿極まりない行為である。
政治的な公式の場では「そしり」「悪口」とは言わず「誹謗中傷」がよく用いられる。法的場面では「誹謗中傷」そのものではなく、その結果としての名誉毀損、侮辱、信用毀損、業務妨害が罪に問われることとなる。
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[編集] 概要
「誹謗中傷」という四字熟語はもともとは存在せず、「誹謗」と「中傷」は以下のように別個に存在する概念であった。違いは、「誹謗」は「根拠」のあるなしにかかわらないのに対して、「中傷」は根拠なしであること。
- 「誹謗」=対象をそしりけなすこと。正法をそしることにも用いる。
- 「中傷」=根拠もなく悪口を言うこと。
これら二語の意味はどちらも「悪口を言う」という意味において重なっており、並列して用いられているうちに、「誹謗中傷」という四字熟語としても用いられるようになった。さらに、一つの熟語であるという認識が広まることにより、サ変動詞化して「誹謗中傷する」という用法も見られるようになった。
誹謗中傷を受けた人の多くは、多大な精神的苦痛を被り、ストレスが蓄積される。誹謗中傷のつもりで発した言葉ではなくても、人によってはその言葉を誹謗中傷として受け止める場合も数多くある。
誹謗中傷する対象がいない場所で悪口を言うことを陰口(かげぐち)と呼び、こちらは単なる誹謗中傷よりも卑怯なことだという社会的認識が強い。
明確な根拠がある場合、すなわち事実を表明することで他人の悪事などを暴露し、結果的にその人の名誉を失墜させることは、誹謗ではあっても、中傷や悪口とは言わない。特に公共の利害に関する目的で、例えば組織などの悪事を暴露する事は内部告発などのように法的にも正当な行為として認められる。ただしその目的が公共の利害に関係したことでなければ、公表したことが事実であったとしても名誉毀損に該当する。
[編集] 国家による誹謗中傷
東西冷戦時代は、さかんに東側と西側の「誹謗中傷」合戦が行われた。現在も朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は韓米日の政府を、中華人民共和国(中国)は中華民国(台湾)を、台湾は中国を誹謗する放送を行っている。
これらの放送で「誹謗中傷」する対象はあくまでも相手側の政府であり、相手側の国民ではない。相手国側の一般市民に対し、その政府がいかに非道であるかを伝え、体制変革を呼びかける、というスタンスで行われていた。
[編集] インターネット
インターネットでは生きている人間の姿が見えず、対話する相手の生の感情を読み取る材料が少ない。そのため、相手の事を配慮せず、安易に高圧的な言葉・アスキーアート等を掲示板やホームページで書き込む人物が数多く存在し、誹謗中傷・名誉毀損が頻繁に発生している。人物の姿が見えない事を悪用するのは荒らし行為も同じだと言える。
電子掲示板では、その場のネチケットを平然と無視して好き勝手な書き込みを行う者が多く、誹謗中傷が発生し易い環境にある。特に2ちゃんねるでは、殆ど全ての板で誹謗中傷が発生しており、時には事実無根のデマ、恐喝・犯罪予告まで書き込まれているので、名誉毀損の旨等で訴訟が頻繁に起こっている他、業務妨害による逮捕者も出ている。2ちゃんねるでも「誹謗中傷はやめましょう」というルールが一応あるが事実上無視されているのが現状である。あまりにも悪質だと投稿ブロック(アクセス規制)処分となる。実際は一人であるのに複数の人物が特定の個人や団体を誹謗中傷し、嫌悪していると見せ掛ける行為(いわゆる自作自演、なりすまし)も散見される。
またウィキペディアでは、個人攻撃を行うことが禁止されており(Wikipedia:個人攻撃はしない)、誹謗中傷を行う投稿者は荒らし行為とみなされるため投稿ブロックの対象になる。しかし現実には、論争等が勃発しているノートや各種依頼に於いて、投稿や要約欄を通じて誹謗中傷が発生する事が少なくない。その場合、記事に対して保護または半保護がかけられる事がある。Wikipedia:中立的な観点の対象にもなったりする。ウィキペディアでは中傷を履歴ごと削除することはほとんど無い。
ネット上の誹謗中傷について日本の警察に寄せられた被害相談件数は、2001年には2267件、2006年にはその3.5倍の8037件に膨れ上がり、被害は年々急増している。被害者の中には精神的苦痛で自殺未遂をする者もおり、誹謗中傷を書き込んだ者を侮辱罪ないし名誉毀損罪で摘発したケースもあるが、多くのケースでは発信者を特定できずにいる。なお、現時点でのインターネットに関する法規制はプロバイダ責任制限法以外に無いことから、被害者の対応は非常に限られたものとなっている。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 『あってるつもりで間違ってる漢字』(加納喜光、講談社+α文庫、1996年、ISBN 4-06-256142-5)