装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端
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装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端 |
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ジャンル | ロボットアニメ |
OVA | |
監督 | 今西隆志 高橋良輔(総監督) |
アニメーション制作 | サンライズ |
製作 | サンライズ ユーメックス ムービックプロモートサービス |
話数 | 全5話 |
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『装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端』(そうこうきへいボトムズ かくやくたるいたん)は、テレビアニメ『装甲騎兵ボトムズ』の続編に当たるOVA。全5話。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
目次 |
[編集] 概要
テレビシリーズが終了した時点で、監督(本作では総監督)の高橋良輔は「最終回のラストシーン以後は作らない」といった主旨の発言をしていた。それでも続編という形での新作を望むファンや業界関係者の声は少なからずあり(LD-BOX『BEST COLLECTION』に収録された「証人喚問」にその一端が垣間見える)、それらの声に後押しされる形で製作されたのが本作である。
しかし、実際に作品を見たファンからは批判的な声が多い。「実はPSの寿命は2年しかなかった」といった後付けの設定や、あまりに偶然の要素に頼りすぎ[1]のキリコ対テイタニアの決着のつけ方などが代表的であるが、特にヒロインのフィアナが死んでしまうというストーリー展開にはスタッフ内部からも批判の声が上がったという[2]。
高橋にとっても本作の製作は不本意なものであったらしく、自ら手がけたテレビシリーズのノベライズのあとがきでも「諸般の事情で製作に踏み切ってしまったのです」と記している。
ただし、既存の「異能者」や「異能生存体」という設定ではなく、キリコがあたかも真の意味での“天地創造主の子”であるかのように描かれるようになった本作は、既にSFアクションというより神秘・伝奇ミステリーに近く、その観点で文芸を高く評価するファンもいる。旧約聖書の「ヨブ記」を参考にしているのではないか、との指摘もある。この傾向は、本作以前の作品『野望のルーツ』あたりから既に現れており、カット割りや人物造形も、ミステリー小説、映画的なものが顕著になっていた。
また演出、作画の完成度はビデオシリーズ中出色の出来である。監督の今西隆志は『機動戦士ガンダム0083』を終えたあとの演出作で、その充実した作画陣を引き継ぎ演出にあたっており、『ボトムズ』テレビシリーズから『0083』までメカ描写を牽引した吉田徹は今西と共に進化、構築してきたメカ演出の方法論を惜しみなく投入している。そして今や押しも押されもせぬアクションアニメーターの筆頭格である松本憲生、村木靖等の当時新進気鋭の作画にも目を見張るものがある。
[編集] 物語
アストラギウス暦7247年、キリコとフィアナが眠りについて32年が経過していた。ギルガメスとバララントの両国家による激戦が展開する中、負傷した兵士を前線から後方へと送り届けるコールドカプセルの一群の中に、キリコとフィアナを収めたカプセルが紛れ込んだ。
ギルガメス連合に属する惑星マナウラの衛星軌道に浮かぶ宇宙工場群コンプラントで2人に蘇生処置が行われキリコは蘇生するが、フィアナは蘇生不良状態のまま何処へか連れ去られてしまう。フィアナを追い求めるキリコは、汎銀河宗教結社マーティアルの権力闘争に巻き込まれていく。
[編集] マーティアル
ギルガメス・バララント双方の国家に多くの信者を持つ巨大な宗教結社。前身は惑星ジアゴノの原始宗教。後に聖地アレギウムとなる地で、ヤーダル碑と呼ばれる物体が発見された年をジアゴノ暦元年と定め、これが後にアストラギウス暦となる。惑星ジアゴノ周辺は、第四次銀河大戦の戦時下にあってなお不可侵宙域となっている。
キリコとフィアナが冷凍睡眠に入った翌年、ソノバ枢機卿を代表とする調査委員会は、キリコの素性を調査し「キリコを触れ得ざる者とする」調査書をまとめ、これが「ソノバ議定書」として議決された。
第2話の予告にも使われている「ドゥ・オステ・オワグーラ・クレ・ヤシディーロ・グラッツィ・ミト・モメンダーリ」はマーティアルの祈りの言葉であり、「神聖なる闘争の極まるところ 武なる光 照たらん」の意。
これらは、カトリックとその総本山ヴァチカンのスタイルを借りて、競争、力の追求という名の宗教から逃れられない人間社会を表現したメタフィクションとなっている。
[編集] 主な登場人物
- キリコ・キュービィ
- 声 - 郷田ほづみ
- かつて「神」を殺した男。32年前のコールドスリープの後、マーティアルからは触れ得ざる者と定義づけられている。自らの眼前から連れ去られたフィアナをひたすら捜し求める。
- 第1話と第2話ではうっすらと髭が生えている描写がなされ、ファンのみならず声を当てている郷田をも驚かせた。
- フィアナ
- 声 - 弥永和子
- 32年前のコールドスリープ時にわずかな余命はほぼ尽きており、キリコは彼女と「永遠に生きるため」に眠りに就いたとの説明が本作でなされた。キリコが彼女を追い求めたのは再凍結させるためである。
- テイタニアによって完全に蘇生され、迫る死を前に、自分を失った後のキリコをテイタニアにゆだね、キリコの腕の中で力尽きる。
- テイタニア・ダ・モンテウェルズ
- 声 - 松岡洋子
- 少女時代に事故で瀕死の重傷を負い、胸部に補助脳を埋め込まれた生体兵器「ネクスタント」として蘇生する。補助脳はテイタニアの睡眠時にも自律動作しており、外部から強制的に作動させることも可能である。
- 本来の髪型はキリコに似たショートカットであるが、礼装時には金髪のかつらを着用する。
- 第1話でマーティアルの第13階位「秩序の盾」を授かるが、その認証式のさなかにキリコ蘇生の報がもたらされる。
- ヴィアチェフラフ・ダ・モンテウェルズ
- 声 - 山内雅人
- テイタニアの父。惑星マナウラにあるマーティアル第9セクター支部の枢機卿であり、次期法王候補。かつてはマナウラ軍の中将であった。己が法王の座に就くためにはキリコの蘇生のみならず、実の娘すら利用する野心家。ネクスタントであるティタニアがキリコに敗北したショックで廃人となってしまう。“競い、争い、力を愛せよ”というマーティアルの信仰において、ある意味彼は最も敬虔な信徒であった。
- ゴディバ
- 声 - 江原正士
- マナウラ軍軍医長。以前はアレギウムにいたが、ソノバ議定書に医学的見地から異を唱えたために破門された。コンプラント墜落に伴い収容されたキリコと出会い、以後行動を共にする。
- テオ8世
- 声 - 坂東尚樹
- 在位41年に及ぶマーティアルの第712代法王。非常に高齢であるため、自ら歩くこともままならず、常に介助者が付き添っていた。またまともな発話発音もできないようであったが、最終話でモンテウェルズに耳打ちする際、突如流暢にしゃべり、それまでの口調が芝居であったことが判明した。
- ジャン・ポール・ロッチナ
- 声 - 銀河万丈
- 元バララント宇宙軍将校で、「神」の手先だった老人。クエント消滅の際に死亡したと思われたが、生き延びてアレギウムでキリコに関する記録を編纂する余生を送っている。最終話では余命尽きたフィアナを再度宇宙へと送り出す。
- 彼の部屋には、キリコとキリコに関わった人物たちの写真が数点あるが、中には「クメンのジャングルでキリコと2人きりになった際のフィアナ」など、誰が撮ったのかすら怪しいものも存在する。
- 銀河万丈は、テレビシリーズ同様に次回予告のナレーションも担当。
[編集] 主な登場AT
テレビシリーズから32年もの時間が経過しているが、使用されている兵器はギルガメス・バララント両陣営とも変化していない。ここでは本作で新たに設定された物のみを挙げる。
オーデルバックラーとエルドスピーネは、出渕裕が担当したラフデザインを大河原邦男がクリーンアップしている。
- バーグラリードッグ(ATM-09-DD)
- スコープドッグのバリエーションで、荒地戦仕様の機体。膝から下に悪路走行用ユニットの「トランプルリガー」を装備している。7連装ミサイルポッド(右肩部)、3連装SMMランチャー(右腰部)、ガトリングガン(左腰部)の他に、展開式の重火器「ドロッパーズフォールディングガン」を装備。キリコがアレギウム突入に使用した。
- オーデルバックラー(XATH-11TC)
- アレギウム防衛司令官用のATで、エルドスピーネのバリエーション。ベースはほとんど変わらないものの、頭部はかつて秘密結社が製造したストライクドッグに似たものとなっているほか、左腕にはパイルバンカーを装備するなどの武装強化が施されている。テイタニアが搭乗し、補助脳の作動によってキリコのバーグラリードッグを圧倒する。
- 名称はマーティアルの階位「秩序の盾」に由来する。
- エルドスピーネ(XATH-11)
- アレギウム防衛一般兵用AT。左腋下に「ザイルスパイト」と呼ばれる銛の付いたワイヤーを射出する装置を装備している。アームパンチ機構は右腕のみにあり、マニピュレータを保護するための装甲板が追加されている。
- 名称はドイツ語で「土蜘蛛」の意。
[編集] スタッフ
- 原案 - 矢立肇
- 原作・総監督 - 高橋良輔
- 監督・絵コンテ - 今西隆志
- 脚本 - 吉川惣司
- キャラクターデザイン・作画監督 - 塩山紀生
- メカニカルデザイン - 大河原邦男
- デザインワークス - 出渕裕
- サブメカデザイン - 佐山善則
- メカニカル作監 - 吉田徹
- 美術 - 脇威志(第2話まで)、岡田有章、西川増水(第3話以降)
- 音楽 - 乾裕樹
- オープニングテーマ『風が知っている』
- エンディングテーマ『夢の鍵』
- 唄 - 井口慎也、作詞 - 大熊朝秀、作曲・編曲 - 乾裕樹、
- 音響監督 - 小林克良
- プロデューサー - 猪俣一彦(ユーメックス)、沢登昌樹(ムービック)、植田益朗(サンライズ)、富田民幸(サンライズ、第2話以降)
- 制作 - サンライズ、ユーメックス、ムービックプロモートサービス
- 製作・著作 - サンライズ
[編集] 各話リスト
※全話を担当したスタッフ名(脚本・絵コンテ・作画監督)は割愛する。
発売日[3] | 話数 | サブタイトル | 演出 | 作画監督補 |
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1994/3/21 1994/5/24 |
1 | 回帰 | 原田奈奈 | 横山彰利 |
1994/5/21 1994/7/21 |
2 | アレギウム | 中野頼道 | 横山彰利 小林利充 |
1994/7/21 1994/9/24 |
3 | 巡礼 | 原田奈奈 | 横山彰利 |
1994/9/21 1994/11/21 |
4 | 臨界 | 原田奈奈 大熊朝秀 |
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1994/12/1 1995/1/21 |
5 | 触れ得ざる者 | 大熊朝秀 原田奈奈 |
[編集] 関連商品
[編集] ビデオ
- 『装甲騎兵ボトムズ BRIEFING I CHIRICO HISTORY』 1994年3月16日 ユーメックス
- 高橋良輔と塩山紀生の対談を間に挟みながら、これまでのキリコの足跡を時系列に振り返る。
- オープニングとエンディングはテレビシリーズのものが使用された。
- 『装甲騎兵ボトムズ BRIEFING II NOTICE OF THE DEFROST』 1994年3月23日 ユーメックス
- BGMの録音風景、乾裕樹インタビュー、大河原邦男と出渕裕の対談などを収録し、TVシリーズと本作の間に起こった出来事を高橋良輔監修のもと、設定制作を担当していた竹田裕一郎が構成、複数のイラストレーターによる書き下ろしで紹介。第1話の予告編が収録されている。
- オープニングとエンディングはビデオ総集編『サンサ』及び『クエント』で新規に作画されたものが使用された。
LDでは『BRIEFING I』が第1話、『BRIEFING II』が第5話の初回版に、それぞれ収録された。双方とも銀河万丈がナレーションを担当。
[編集] 漫画
1995年7月25日にメディアワークスから発行(発売・主婦の友社)。作画は今掛勇。
[編集] DVD
いずれもバンダイビジュアルから発売。
- 装甲騎兵ボトムズ DVDメモリアルボックス 2005年2月24日発売
- テレビ版全52話+OVA版全話(総集編を含む)+『赫奕たる異端』全5話の20枚組。
- 装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端 1 2007年2月23日発売
- 第1話から第3話を収録。
- 装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端 2 2007年2月23日発売
- 第4話と第5話を収録。
[編集] その他
- 以前のOVA版では各所にギルガメス文字による「お遊び」が仕掛けられることがあったが、本作では写真のキャプションやディスプレイに表示される文字まで「正しい記述」がなされることが心がけられた。
- 本作の英題は製作スタジオ内で広く募集され、制作進行であった小原正和の発案による『THE DEFROST』が採用された。
- ビデオの予約開始の時点は全4話の予定であったが、後に全5話に構成し直された。
- オープニングアニメーションは原画を川元利浩が手掛け、塩山紀生(キャラクター)、吉田徹(メカニック)が作画監督を担当。スコープドッグの砲撃シーンでの機体の反動描写は今西隆志の指示により、陸上自衛隊の戦車による砲撃を収めた演習ビデオを参考に作画された。
[編集] 脚注
- ^ そもそも「異能生存体」がそういうものとして設定されているため、これは本来批判に値する事象ではない。
- ^ LD最終巻のライナーに収録された高橋総監督と今西監督の対談で、今西がラストに関して「なかなか猛烈な抗議が、一部のスタッフから出てますよ」と語っている。
- ^ 上段はビデオ、下段はLDの発売日。ビデオはムービックから、LDはユーメックスから発売。
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メインストーリー | 装甲騎兵ボトムズ - 赫奕たる異端 - 孤影再び - ペールゼン・ファイルズ |
外伝作品 | 機甲猟兵メロウリンク - 青の騎士ベルゼルガ物語 |
用語・世界観 | アストラギウス銀河 - アーマードトルーパー - パイルバンカー |