蒲池鎮漣
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
蒲池 鎮漣(かまち しげなみ、鎮並とも書く、天文16年(1547年) - 天正9年(1581年)5月29日(7月18日))は民部大輔、筑後十五城の筆頭大名。父は蒲池鑑盛、母は田尻親種の娘の乙鶴姫(出家後は、貞口院)。
目次 |
[編集] 家督相続
蒲池鑑盛(蒲池宗雪)には、長男・鎮久、次男・鎮漣(鎮並)、三男・統安、四男・統春という子がいたが、兄の蒲池鎮久は鑑盛の落胤であるため家老となり、鎮漣が蒲池氏十七代目として柳川の蒲池氏嫡流の家督を継ぐ。
[編集] 大友氏からの離反
耳川の戦いには、隠居の身の父鑑盛(入道宗雪)や弟の統安らと共に3千の兵を連れて大友方の兵力として出陣するが、大友氏への忠義一筋の鑑盛と異なり鎮漣は、大友氏からの独立の意志を持ち、仮病を口実に直属の兵2千を伴って柳川へ戻る。父鑑盛と弟の統安は、耳川の戦いで奮戦し討死する。
鎮漣の妻の玉鶴姫の父は龍造寺隆信であり、隆信は肥前から追放された時、蒲池氏に保護されたことから蒲池鎮漣に娘を嫁がせていた(『九州治乱記』)。
[編集] 龍造寺隆信との確執
鎮漣は、義父の龍造寺隆信に幕下の礼をとり、その筑後進攻に全面的に協力するが、柳川の領有化を志向する龍造寺隆信と対立し、また隆信の冷酷非情な行為に疑問を抱き、離反の姿勢を示す。ただちに隆信は1581年に2万の兵で柳川城を包囲するが、「柳川三年」の戯れ歌で柳川城攻略には3年かかるというように難攻不落ぶりが語られた柳川城を攻めることが出来ず、鎮漣は籠城戦を戦い抜き、鎮漣は伯父の田尻鑑種の仲介という形で和睦を結ぶ。
以前より鎮漣は島津氏への接近の姿勢を示していたが、隆信にとっては、柳川は九州中央へ進出するには絶対に必要な地であるため、再度柳川侵攻をきめる。しかし、まともに攻めたのでは柳川城の堅塁ぶりに歯が立たないため、隆信は、重臣の鍋島直茂や、隆信に組していた田尻鑑種などと鎮漣の謀殺を画策し、龍造寺家と蒲池家の和解の絆という名目の猿楽の宴席を設け、使者を柳川に送る。
[編集] 肥前での最期
当初、鎮漣は断り続けるが、隆信の使者は執拗かつ丁重に鎮漣の母や重臣を欺きながら説得し、断りきれなくなった鎮漣は、腹を決め、家老の蒲池鎮久をはじめ大木鎮照、田尻種教、池末刑部、中山掃部助、本郷中務、原対馬守、大木越後守、大木忠五郎、丸野外記、大谷式部、大谷与三兵衛、小溝藤兵衛、内田内蔵助、西川縫殿助、今村源右衛門、岩井九郎、鳥巣勘解由、香土左近、安部宗右衛門、富安清右衛門、矢賀部大膳など選りすぐりの屈強な家臣2百名を連れて柳川を出発する。留守をしていた鎮漣の従兄弟であり重臣でもあった大木統光が肥前行きは中止するよう諌めるが、鎮漣の決意を変えることは出来なかった。
筑後川を渡り肥前に入り、佐賀城で隆信の嫡男の龍造寺政家の歓待を受けるが、翌日、与賀神社の近くで龍造寺氏の襲撃部隊に襲いかかられる。蒲池氏2百の精兵は奮闘するが多勢に無勢はいかんともしがたく鎮漣は自決し、鎮久をはじめ鎮漣の郎党は全員討死した。
[編集] 柳川落城
鎮漣の死を確認した龍造寺隆信は、時を置かず柳川の鎮漣の一族の抹殺を命じ、鍋島直茂の督戦の下に田尻鑑種が柳川に兵を進め凄惨な柳川の戦いが行われた。龍造寺隆信は鎮漣の蒲池一族の抹殺を命じたが、その冷酷さは龍造寺四天王の一人百武賢兼など隆信の腹心からも疑問を持たれ、賢兼は、出陣を促す妻に対して「こたびの鎮漣ご成敗はお家を滅ぼすであろう」と答え、しきりに涙を流し、ついに最後まで出陣しなかった。鎮漣一族の冷酷な殺戮は、龍造寺隆信に対する筑後の有力国人の離反を招き、龍造寺氏凋落のはじまりとなる。
[編集] 蒲池鎮漣夫人玉鶴姫
鎮漣の妻として玉鶴姫(龍造寺隆信の娘)が有名で、父が夫の鎮漣を殺したことを知り、実家の龍造寺家には戻らず、鎮漣の後を追うべく、蒲池氏の支城のある塩塚で自害している(現在、「史跡・蒲池鎮漣夫人他百八人殉難之地」の石碑がある)。鎮漣の娘で長崎の有馬氏のもとに落ち延びた徳姫の母親は、肥後の菊池氏の一族の赤星統家の娘であり、鎮漣の正室とされている(玉鶴姫の意地)。
蒲池鎮漣の法号は、「本源院殿哲心覚英大居士」である。
[編集] 幸若舞
瀬高の大江神社に、現在の日本で唯一、幸若舞(大頭流幸若舞)が伝わっているが、これは、蒲池鑑久や鎮漣、鎮運など蒲池氏が、京都から幸若舞の芸人を筑後に呼び、家臣たちに習わせたからである。
幸若舞を愛した人物で有名なのは織田信長であり、信長が舞う「人間五十年、下天のうちにくらぶれば夢まぼろしの如くなり」は、幸若舞の「敦盛」の一曲である。蒲池鎮漣も幸若舞の名手として知られる。幸若舞は、源義家(八幡太郎義家)の七代後の桃井直常の子の直詮(幼名・幸若丸)が祖とされる。
[編集] 鎮漣の子
[編集] 関連文献
- 『筑後争乱記・蒲池一族の興亡』河村哲夫著(海鳥社) ISBN 487415428X
- 『筑後戦国史』吉永正春著(葦書房) ISBN 4751205420
- 『筑後武士』江崎龍男(芸文堂) ISBN 4-905897-57-2
- 『蒲池氏の歴史』蒲池大気・猷介著
- 『謀殺』滝口康彦著(講談社文庫)