自転車通勤
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自転車通勤(じてんしゃつうきん)とは、自転車で自宅と勤務先を往復することを日常とする生活形態である。自宅から最寄の鉄道駅・バス停留所まで自転車を使い、そこからは公共交通機関で通勤することについても含む場合があるが、本項ではこれを除いたものを扱う。自転車愛好家を中心に「ジテツウ」「ジテツー」と略され、「チャリ通」といわれることもある。近年の自転車通勤ブームの立役者の一人である疋田智が自称して広めた造語に、自転車通勤をする人を指す自転車ツーキニストがある。
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[編集] 自転車通勤奨励策
ヨーロッパ諸国やアメリカでは、国家や都市自治体が自転車通勤について推進策の策定や数値目標の設定をしている例がある。日本国内にも、自転車通勤を推奨する例が見られる。
[編集] 名古屋市役所の自転車通勤手当
2001年3月、名古屋市役所は職員の通勤手当を改革し、自転車通勤者の手当を従来の2倍に、5キロメートル未満の自動車通勤者の手当を半額にした。5キロメートル未満の場合新制度では、自転車なら月4,000円、自動車なら月1,000円の手当が支給される。この結果、自転車利用者は392人増加、自家用車利用者は833人減少した。(古倉宗治『自転車利用促進のためのソフト施策 : 欧米先進諸国に学ぶ環境・健康の街づくり』ぎょうせい、2006年 ISBN 4324080070 172ページ)この改革は、環境都市の確立を目指し、短距離自動車通勤の抑制と自転車利用の促進を図ったもので、金銭面だけでなく環境への貢献という心理的な後押しも効果を発揮したと見られている。環境を意識した施策であるが、発案は直接環境関連業務に従事しているわけではない給与課によるもので、給与課は異動時期になると健康のためにもなるとPRしている。また職員用シャワールームの設置など設備面の整備も進んだ。(石田久夫・古倉宗治・小林成基『自転車市民権宣言 : 「都市交通」の新たなステージへ』リサイクル文化社、2005、ISBN 4434056077 108ページ)なお名古屋市は、国土交通省の指定した「自転車利用環境整備モデル都市」19都市の一つでもある。
[編集] シマノ
自転車部品最大手のシマノでは、通勤手当を自転車の種類によって月2,600円から5,000円までの範囲で支給している。社員の3割が自転車で通勤する。駐輪場には常に300台以上並び、警備員も配置され、その2階には風呂も完備している。(「風きって通勤 増えてます」『朝日新聞』2005年5月13日朝刊25面)
[編集] 自転車通勤の特質
[編集] 長所
- 有効な有酸素運動であり、健康に良い。ダイエット、持久力の向上やストレス解消などにも、効果があると考えられる。
- 朝の適度な運動は、その後の業務にも好影響をもたらすという考え方もある。
- 交通費・維持費など経済的負担を軽減できる。
- 街や地形、季節感の発見ができる。通勤経路附近の繁華街・施設などに気軽に立ち寄ることができる。
- 自転車は公共交通機関を使う場合より経路設定の自由度が高く、乗換えの手間・時間も必要としない(シームレス・トランスポーテーション - 継ぎ目のない交通)。
- 自宅から最寄り駅までの距離や公共交通の混雑に悩まされなくなる。列車やバスの運行時間に束縛されない。
- 渋滞の影響を受けることが少なく、定時性が高い。
- 自動車等と違い排気などの汚染物質をまったく出さないので、環境への負荷が小さい。
- 交通取締の対象になることが極めて少ない。
- 他の車輌に比べて都心などでの保管場所の確保が容易である場合が多い。駐輪場では、原動機付自転車より排気量が多い車両の利用は認めず、実際上自転車しか使用できない場合が多い。
- 外勤を常とする業種の場合、勤務先に拘束されず営業活動ができる。
- 都心部においては、公共交通や渋滞する自動車よりも速く移動できる場合が多い。
- 比較的多くの荷物を運ぶことができる。特に書籍や電子機器には振動も少なく条件がよい。
[編集] 短所
- 自宅と勤務先とが一定以上離れていると不可能。運転者の体力や道路事情にもよるが、疋田智は著書『自転車ツーキニスト』で距離15kmが目安、20kmくらいが限界だろうと述べている。
- 自転車の保管場所について考慮が必要。勤務先またはその附近に駐輪場がない場合もある。
- 盗難のリスクがある。
- 勤務先の理解が得られない場合困難。体力消耗による業務効率低下の心配、交通事故への危惧などを理由として公認されないことがある。
- 自動車への対応に一定の技術が必要。現代日本の交通事情は自転車に厳しく、自動車等との共存には課題が多い。判断を誤れば事故のおそれもある。
- 飲酒して帰宅する場合の対応について考慮が必要。車両である自転車の飲酒運転は、道路交通法に違反する行為であり、取締の事例もある。
- 急に自転車が故障したときの対応が重要。工具・スペア等の携帯で対処できるが、重量・選択の問題がある。また日頃の整備も必要であり、負担とも考えうる。
- 天気の影響を受けやすく、荒天時や積雪時は危険を伴い事実上不可能である。特に夏など高温時には、汗の処理や着替えの問題も生じる。
- 夜間、都市部では自転車が盗難車かどうかを調べるために職務質問を受けることがある。
- 駐輪場に屋根がない場合、自転車の損耗が早い。結局勤務先から離れて駐車せざるを得ず、却って不便なことも多い。
- 移動の時間に読書や仮眠など、運転以外のことができない。
- 車道等を走行するため、自動車から排出される排ガスを吸うことによって健康障害を及ぼす場合がある。
[編集] 事前の準備
[編集] 自転車の選定
毎日の通勤なので肉体に負担がかからない車種が適している。以下例示するが、もちろん乗り手の都合が第一である。
- シティサイクル - いわゆる「ママチャリ」。条件次第では、一般的なイメージに反して速さを保つことができ、必ずしも車道走行も苦ではない。しかし臀部に負担がかかり、長時間・長距離の走行には不向き。
- ロードバイク - 高速走行に適するが、一般に高価である。ロードバイクに限らないが、高価な自転車は、盗難の心配があり、保管場所の確保が問題となる。
- マウンテンバイク - 段差が多い場合に走りやすいが、通勤経路は一般に舗装路であり、太いブロックタイヤは速さの点で不利と考えられる。
- クロスバイク - ロードバイクとマウンテンバイクの中間的な車種で、街乗りに向いている点や価格帯などから、特に初心者に敷居の低い自転車として薦められることが多い。
- リカンベント - 乗車姿勢は楽で遠距離でも負担が少ない。しかし高価で盗難に遭いやすい。