肉歯目
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?肉歯目 Creodonta | ||||||||||||||||||||||||
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ヒアエノドン Hyaenodon |
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種の保全状態評価 | ||||||||||||||||||||||||
絶滅(化石) | ||||||||||||||||||||||||
地質時代 | ||||||||||||||||||||||||
約5,500万-約800万年前 (新生代暁新世後期〈セランディアン期〉 -中新世後期〈トートニアン期〉) |
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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科 | ||||||||||||||||||||||||
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肉歯目(にくし-もく、Creodonta)は、約5,500万年前から約800万年前(新生代暁新世後期-中新世後期)にかけて生息していた原始的な肉食性哺乳類の一群。 当時のアフリカおよびローラシア、すなわち、現在のアフリカおよびユーラシアと北アメリカにあたる地域[1]に広く分布していた。
食肉目と共通の祖先を持つ。
当時このグループは、生息地の生態系において重要な肉食獣であり、特に漸新世のアフリカでは支配的な捕食者であった。 彼らはメソニクス目(Mesonychia)やエンテロドン科(Entelodontidae)と競合し、最終的にはこれらより長く生き延びた[2]。 しかし、遅れて進化してきた食肉目に対しては前時代的劣等性をぬぐえず、その地位を譲ることとなる。肉歯目最後の種は約800万年前に姿を消し、取って代わった食肉目がそのニッチ(生態的地位)を占めることとなり、今日に至る。
目次 |
[編集] 学名
学名 Creodonta(クレオドンタ)は、ギリシア語の「kreas (flesh、肉)」と「odontos (tooth、歯)」、および、固有名詞作成用の接尾辞「-a」を語源とするラテン語による合成語であり、「肉の歯(を持つもの)」を意す。「肉食のための歯を持つもの」との意味合いである。和名はこれを漢訳したもの。
[編集] 進化と分類
より古い形質を示すオキシアエナ科(Oxyaenidae)と、優勢種として成功するに至ったヒアエノドン科(Hyaenodontidae)の2科からなる。
かつて肉歯目は食肉目の祖先と考えられていた。しかし現在では、さらに古い祖先を共有する関係であったと見なされている。 肉歯目と食肉目はともに裂肉歯を具えているが、この歯は肉を噛み切るために発達した鋏(はさみ)のような機能を有している。そして、この器官を持つことが、彼ら2つの肉食獣類を生態系の頂点に押し上げる重要な要素となっていた。
研究者の中には、肉歯目は食肉目との共通祖先の子孫ではなく、両者間の相似点は収斂進化の典型例として説明可能である、と主張する者もいる。
適応放散を遂げたのは新生代になってからであるが、彼らの起源は少なくとも中生代白亜紀にまで遡る[3]。約5,500万年前から約3,500万年前までは支配的な肉食獣であった。その多様性と分布の拡大は始新世において絶頂を極めている[4]。肉歯目はアフリカ、ユーラシア、北アメリカにおいて、漸新世の中期までには、それ以前の支配的捕食動物であった恐鳥類[5]とメソニクス目に完全に取って代わった。 しかしその後、近縁である食肉目との競合が始まる。ミアキス(Miacis)のような初期の食肉目[6]に対する肉歯目の優越は3,500万年前には揺るぎ始めた。 現在知られるところで肉歯目最後の種とされているディッソプサリス(Dissopsalis。ヒアエノドン科)は、約800万年前(中新世後期〈トートニアン期〉)のインド亜大陸地域に生きていたが、この時期を境としてそれ以降、肉歯目の生存した痕跡は認められない。かつて肉歯目が占有していたニッチの全て(ないし、ほとんど全て)は、今日、ネコ科・イタチ科・クマ科・イヌ科・ハイエナ科などに属する食肉目の動物の多くによって占められている。
肉歯目の代表種としては、最も繁栄し、当時の生態系に多大な影響力を持っていたであろうヒアエノドンがある。 また、陸生肉食獣として既知で史上最大級とされているメギストテリウム(Megistotherium)も注目に値する。これはバイソンほどの大きさがあり、頭蓋骨はトラのそれの2倍ほどもあった。メギストテリウムはおそらく大きさの点でアンドリューサルクスに匹敵し、もしくはこれを凌駕していた。ハイエナのような、腐肉食性(死肉あさり)であったとされる。
[編集] 絶滅の理由
なぜ肉歯目が食肉目に取って代わられたのかはよく分かっていないが、彼らの比較的小さい脳と、(特に走行時には)エネルギー効率のやや劣る運動能力(移動能力、ロコモーション)に原因があったのかもしれない。 ほぼ確実に、彼らは蹠行性[7]であった[8]。また、脊椎の腰仙部は食肉目と違って効率的に走れるようには出来ていなかった。歯の配置もまた多少異なっていた。食肉目のミアキスでは、上顎第二小臼歯と下顎第一大臼歯が裂肉歯で、それより奥の歯は肉以外の食物を噛み砕けるように残っていた(現生の食肉目であるイヌ科の歯式もこれに近い)。しかるに肉歯目では、裂肉歯はもっと奥にあった。上顎第一大臼歯と下顎第二大臼歯、もしくは上顎第二大臼歯と下顎第三大臼歯が裂肉歯だったのである。このため、彼らは肉以外の食物をほとんど食べられなかった。これらの些細な短所が百万年単位の長期間では重要だったと思われる。
現生の食肉目で最も純粋な肉食性であるネコ科では、第二・第三大臼歯は完全に失われている。そして、裂肉歯の奥にある上顎第一大臼歯は痕跡器官となっている。そのため、現生のネコ科は植物性の食物をごく稀にしか口にしないのである。
[編集] 脚注
- ^ これらは当時、一つの大陸であった。
- ^ メソニクス目は漸新世の初期に、エンテロドン科は中新世の中期に絶滅した。
- ^ Lambert, 162
- ^ Lambert, 162
- ^ ディアトリマなど、新生代の最初期に支配的捕食動物のニッチを獲得していた巨大な鳥類。特に、ディアトリマの絶滅を解説するにあたって登場する頻度の高い肉食獣は、肉歯目ヒアエノドン科のヒアエノドンであり、彼らによって恐鳥の支配の時代が終焉したと語られる。
- ^ 初期の食肉目とされてきたミアキスであるが、近年では、ミアキスとこれに近縁の動物群は、食肉目に先立って生息していたものとして、上位である食肉形類(Carnivoramorpha)に分類される場合が多い。しかしいずれにしても、食肉目の祖先系統ではある。
- ^ 蹠行性(しょこう-せい):踵(かかと)を地面に付けて歩く形質をいう。対して、食肉目の多くは趾行性(しこう-せい。踵を地面に付けず、爪先で歩く形質)であり、移動については後者のほうが効率的である。蹠行性はベタ足で走り、趾行性は爪先立ちで走る。どちらが移動に適するかは、蹠行性で歩き趾行性で走るヒトであれば独自に検証可能である。
- ^ The Elements of Geology. Globusz. Retrieved on March 11, 2008.
[編集] 関連項目
[編集] 参考資料
- The Velvet Claw: A Natural History of the Carnivores, David Macdonald, BBC Books, ISBN 0-563-20844-9
- David Lambert and the Diagram Group. The Field Guide to Prehistoric Life. New York: Facts on File Publications, 1985. ISBN 0-8160-1125-7